照準はアジアから世界へ
4月6日から8日まで、中国のハワイとの異名をとる海南省・博鰲(ボアオ)で第12回ボアオ・アジアフォーラム(以下、ボアオ・フォーラムと略す)が開催されました。今回のボアオ・フォーラムは、内外からかつてない高い関心が集り大きな意義があったと報じるメディアが少なくありません。
世界には、世界経済フォーラム年次会議(ダボス会議)(注1)など歴史あるフォーラムは少なくありませんが、ボアオ・フォーラムの特徴は、アジアに軸足が置かれていたという点にあるといえます。
新しいアジアの実現を追求
12回目となる今回は、今年3月に誕生した中国新指導部にとって自国で開く初の大きな国際フォーラムでした。そのボアオ・フォーラムに出席した習近平国家主席は、2日目の7日に基調講演「アジアと世界の美しい未来を共に創ろう」を行ないましたが、その冒頭で、「ボアオ・アジアフォーラムは新たなスタートラインに立った」との認識を示しました。
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4月5日午後、開かれたボア・オフォーラム予備会議。壇上には理事長を務める元日本首相福田康夫氏(左から6人目)の姿も |
初のボアオ・フォーラムが開催されたのは2002年4月。その時のテーマは、「新しい世紀、新しい挑戦、新しいアジア経済発展と協力」でした。その後、世界経済が米欧で発生した金融危機、債務危機に直面し低迷する中、アジアは世界経済をけん引する成長センターとして脚光を浴びるようになりました。この点について、習近平国家主席は基調講演の中で「近年来、世界経済の成長に対するアジア経済の貢献率は50%以上(注2)」と言及しています。特に、中国は世界第2位の経済および貿易大国として、世界経済における発言力を強め、アジア経済の発展をリードしてきています。日本を含め、中国を最大の貿易相手国とするアジア諸国は少なくありません。正に、第1回ボアオ・フォーラムのテーマである「新しいアジア」が誕生しており、その11年後の今年、ボアオ・フォーラムは新たなスタートラインに立った、という認識を表明したわけです。
「世界との共同発展」を意識
さて、今回のボアオ・フォーラムのテーマは、「革新、責任、協力 アジアは共同発展を求める」でした。このテーマの実現に、中国がどう関与しようとしているのかに、内外の関心が集まりました。この点、習近平国家主席は、基調講演の中で、「中国は今後5年間に10兆㌦程度の商品を輸入し、5000億㌦を対外投資に費やし、延べ4億人の中国人の海外旅行を実現する。中国が発展すればするほど、アジアと世界に発展の機会を提供できる」と明言しています。今回のテーマに対する、中国の協力範囲と責任ある姿勢の一端を具体的に表明したと言うことでしょう。
同時に、今回のテーマには、アジアに留まることなく「世界との」共同発展も強く意識されていました。習近平国家主席は 、「一花独放不是春、百花斉放春満園」(花が一輪咲いても春とは言えず、百花が一斉に咲き誇ってはじめて春が来る)と言及しましたが、ボアオ・フォーラム12年目において、今回ほどアジアと世界の共同発展が意識され前面に押し出されたことはなかったといってよいでしょう。
「パワー」から「ドリーム」へ
習近平主席は、これまでことあるごとに「中国の夢」に言及してきました。「中国の夢」とは、中華民族の偉大なる復興のこととされており、今後の中国の行方、中国と世界の関係を凝縮しているキーワードであるはずですが、基調講演ではたった一度しか言及されませんでした。
しかしながら、新世紀に入り、チャイナ・パワー=世界の工場・市場としての中国など=の発揮がアジアや世界の難局を克服する上で大きく作用してきたのと同じように、チャイナ・ドリーム=都市化、内需拡大、経済構造調整、成長パターンの転換、対外的には東アジア地域包括的経済連携(RCEP)・日中韓自由貿易協定(FTA)の締結、BRICS開発銀行の設立など=の実現は、アジアと世界の発展につながっていることをさらりと確認していることが、基調講演の行間から読み取ることができます。
歓迎される対外開放の継続
基調講演のあった翌日の8日、習近平主席は中外企業家代表32人との座談会に出席しました。その席上で、「中国の経済発展の前途は広い。中国は不退転で改革開放を推進し、成長パターンの転換を速め、対外開放政策をとる。外国企業にはさらによいビジネス環境と条件を提供する。中国の発展は世界に大きく貢献する」と強調しました。
中国の経済成長には、対中進出した外資系企業が生産した「メイド・イン・チャイナ」の輸出の拡大が大きく貢献してきています。今日、世界経済が低迷する中、従来の輸出依存による経済成長は難しくなってきており、中国は内需主導の経済発展パターンへの転換を余儀なくされています。新指導部がこれにどう対応しようとしているのか、内外の関心には高いものがありました。
こうした中、習近平主席が、今、世界が注目するボアオ・フォーラムの場で、中外企業の意見を聞き、中国市場の対外開放の継続、保護主義の排除に言及したことは、対中進出と対中輸出にたずさわっている企業にとって朗報といえるでしょう。
プラットホームの正夢へ
今回のボアオ・フォーラムには、中国、アジアを問わず世界各国・地域から政財界の代表が参加して、50余会場で、各テーマによる討論が実施されました。ボアオ・フォーラム史上最大規模の開催となりました。
さらに、今年1月、ボアオで第1回中小企業発展フォーラムが開催されたほか、今年6月には、青島でアジア開発銀行、中国商務部との共催によるFTA研究討論会が開かれ、また、9月には、香港で香港青英会など青年組織と共催で、2013年ボアオ青年フォーラムの開催が予定されているなど、ボアオ・フォーラムは活動範囲を広げつつあります。
世界には、各国・地域の異なった利害を調整し協力を促進する目的で設立された、あるいは、されようとしている国際的、地域的組織・機構があります。世界貿易機関(WTO)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)、日中韓FTA、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、上海協力機構など枚挙に暇なしですが、本来のな設立主旨を実現しているところは、極めて限定的です。
世界の成長センターである中国で開催されるボアオ・フォーラムが、そうした利害を乗り越えて協力構築のプラットホームになる正夢を早く見たいものです。
注1 毎年、スイスの保養地ダボスで開催される。世界の経済・企業のトップや学者、政治家が集まり、経済や社会に関する幅広い意見交換が行なわれる。1971年に設立。2007年から、中国の大連と天津で交互にダボス夏会議が盛大に開催されている。ダボス会議の中国重視の姿勢の表れである。
注2 今回のボアオ・フォーラムに出席した国際通貨基金(IMF)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事は周文重ボアオ・フォーラム秘書長との会談で、アジアは金融危機の発生以来、世界経済の成長をけん引してきているが、そのうち、中国の貢献が50%、アジア全体では3分の2の貢献となっていると語っている(『人民日報・海外版』2013年4月8日)。
人民中国インターネット版