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『泰囧』の波及効果?『摩登年代』

文・写真=井上俊彦

 ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

ポスター

徐崢と張子楓が親子(?)を熱演

8月に公開、公開予定の作品30本近い数に上っています。その中には大作も数多くあり、評判のハリウッド映画『ジュラシックパーク3D版』と『モンスターズ・ユニバーシティー』も先週公開となりました。3日早く公開された『ジュラシックパーク』は2億元、『モンスターズ』の方は8000万元の興行収入です。ただし、週末を終えて上映回数は逆転していますので、今後は『怪獣大学』(中国公開タイトル)が数字を伸ばしそうです。

そんな強敵にはさまれて、週末3日間だけで3300万元を記録したのがこの作品です。昨年末公開の『人再囧途之泰囧』で映画界最大の注目人物となったシュー・ジェンと、日本では直前に東日本大震災が発生したことなどで公開されませんでしたが『唐山大地震』(フォン・シャオガン監督)で評判となった子役のチャン・ズーフォンの顔合わせによるコメディーです。

欧大衛(シュー・ジェン)は金を払って載せてもらった雑誌の記事を使ってナンパに精を出すばかりの二流マジシャンです。ある日、新興企業が得意先接待のために催すパーティーで海岸線に立つモニュメントを消すイリュージョンを依頼され、その企業の芸術担当責任者・毛娜(ワン・シュアンユー)ともいい雰囲気になり、何もかも順調に行くかと思われました。ところが突然自分の娘だと名乗る丟丟(チャン・ズーフォン)が押しかけてきたかと思うと、相棒に先払い金を持ち逃げされてしまいます。公私両面で大ピンチに陥った大衛ですが、丟丟のおかげで画期的なアイデアを思いつき……。

夏休みも終盤、積水潭駅ではホームの地図で目的地を確認するたくさんの観光客が

少し涼しくなってきたこの時期、積水潭駅近くの水路には多くの人が釣り糸を垂れていた 

実はお蔵入り寸前だった作品?

独身男のところに突然娘と名乗る女の子が押しかけてくるというのは特に珍しい設定ではありませんが、ふたりの掛け合いはさすがに笑わせてくれます。特に、白バイの警察官にクルマの整備不良を発見されるシーンが秀逸です。犯則キップを切られそうになった時、突然脇にいた丟丟が「パパったら、どうしてそうなのよ!」と大声で叫びだすのです。「お金さえあれば孤児院に寄付なんかしてしまって、クルマの整備もできないじゃないの」と芝居を始め、「それで罰金を取られていれば世話はないわ。ママの病気だって……」と続け警察官を同情させてしまうのですが、その芝居が実は自分の境遇と母親への気持ちを語っていることに、途中で大衛と観客が気付く仕掛けになっているのです。私の斜め後ろの若い女性2人は、大爆笑しながら鼻もすすっていました。忙しいことで。

 住宅街にあり、全ホール数5の、庶民的な雰囲気を持つシネコン

8月中は3D作品も含めて35元で見られるキャンペーン中ということで出かけてみたが、若者でけっこうなにぎわいを見せていた

チャン・ズーフォンは、こうした語る演技に加え、大衛の言葉に黙ってうなずくだけ、笑顔を返すだけの演技が、とても子役とは思えない説得力でうならされます。しかも、演技がうまいのにすれた印象がなく、とても子どもらしいのです。

これを受けるシュー・ジェンの演技もさすがヒット作男と思わされるていねいさですが、実はこの作品は『人再囧途之泰囧』以前に撮影されていたもの。ご存じのように最近は数えきれないほどの作品が制作されており、映画館にかかることなく終わるものもあるようです。この作品もシュー・ジェンの成功で、ようやく日の目を見たようです。総合的に見て歴史的傑作とは言えないかもしれませんが、細部まできちんと作られており、一定の品質を持った作品だと思います。こうした作品が人気になるのはうれしいことですが、あの映画の前に公開されていたら、こうは注目されなかったでしょうね、きっと。

庶民的な雰囲気だが、休憩所やDVDショップが併設されているなど、映画ファンの立場に立ったつくりになっている

 上映中、ご案内中の電光掲示があるなど、きめ細かな顧客サービスも

監督のシャオ・シャオリーはコン・リー(鞏俐)主演の『きれいなおかあさん』(1999)などを手がけた脚本家。さすがにキャラクター設定や、ストーリー展開はこなれています。独身男性が女の子を養子にする場合に年齢が35歳以上離れていることが必要という法律の存在を指摘されるシーンなどからも、きちんとした取材に基づいて脚本が作られていることが分かります。そして、主人公をマジシャンにしたのがこの作品の工夫でしょう。最後にマジックで観客にサプライズを与えてくれる仕掛けになっていますが、美しいアモイの海を背景に行われる驚きのマジックは、見てのお楽しみということで……。

【データ】

摩登年代(Fake Fiction )

監督:シャオ・シャオリー(邵暁黎)、ドゥー・ポン(杜鵬)

キャスト:シュー・ジェン(徐崢)、チャン・ズーフォン(張子楓)、ワン・シュアンユー(王宣予)、チャン・ソンウェン(張頌文)

時間・ジャンル: 93分/コメディ・ドラマ

公開日:2012年8月23日

 

北京17.5影城今典店

所在地:北京市海淀区慧園北路9号空間蒙太奇ビル

電話:010-62211599-102

アクセス:地下鉄2号線積水潭駅A口下車徒歩17分、新街口外街を北に進み、慧園路を左折し西に進み小西天の信号を北に曲がると左手

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年8月27日

 

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