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馮小剛の面目躍如 『私人訂製』

 

文・写真=井上俊彦

ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

映画館を占拠してしまった作品

大変な公開状況です。この週末北京では『私人訂製』が今まで見たことのない規模で上映されています。『唐山大地震』『一九四二』と重厚なテーマで作品を撮影し、期待ほどの成績を残せなかったフォン・シャオガン監督が、古いコンビのワン・シュオー(王朔)の原作を得て本来の正月コメディーに回帰した作品として早くから大きな話題になっていました。このため、各映画館もこの作品に上映回数を多く割り当てており、この作品が大量に上映されている状態です。

先週木曜19日の公開でしたが、私は土曜日の朝9時の回に出かけました。北三環の住宅街にある金鶏百花影城で、庶民の反応を見たかったからです。これがいきなり満員でした。私はかろうじて端の席を確保できましたが。隣には若い女性3人組、前は白髪頭のカップル、後ろは家族連れと幅広い層が訪れていました。

公開2日間で1億5000万元を稼ぎ出し、私が見た3日目は単日で1億元を上回り、週末までの4日間で3億元を突破したとのことです。それがどのような数字かというと、ある北京でトップレベルの規模を持つシネコンでは上映の70%がこの作品で、最短は5分間隔でした。日曜日にいくつかの映画館を回ってロビーを見ましたが、どこもチケット売り場には行列ができていました。ある6ホールを持つ映画館では、この作品以外には1作品しかかかっていませんでした。前回ご紹介したように、このところの国産上映作品はどれも好評でしたが、この作品が登場すると一気に上映回数を減らされてしまいました。もはや、この映画を見に来た客以外は映画を見なくていいという扱いです。いくらなんでもこれは問題ではないのでしょうか……。

 

映画館のロビーを撮影してみた。電光パネルを見れば右の映画館は3作品、左は2作品しか上映していないことが分かる 

クオリティーはあるが新味には乏しい

ストーリーは1997年に大ヒットした『夢の請負人』(甲方乙方)の続編の体裁で、依頼に応じて顧客をなりたい立場、人物にする(もちろん芝居ですが)会社の面々の物語。顧客の依頼とその実現プロセスを通じて今の中国社会を見せて行くというやり方は『夢の~』と同じです。全体で4人の依頼に対応する中で、中国社会をにぎわしている官僚の腐敗問題、低俗な映画、成金といったものを風刺しており、最後には環境問題についても啓発を行っています。

夢をかなえるメンバーは、同監督作品ではおなじみのグォ・ヨウのほか、『失恋の33日』のバイ・バイハー、『シュウシュウの季節』のリー・シャオルー、ヴィッキー・チャオ監督の『致青春』で主人公に思いを寄せる学生を演じたジェン・カイの4人です。

見終わって感じるのは、悪い出来ではないけれど爆笑ものではなかったなということです。私の回りの観客も大爆笑する様子はありませんでしたが、退場時に不満そうな表情の人はいませんでした。昨年この時期に公開され爆発的にヒットした『人再囧途之泰囧』が底抜けの明るさだったのに対し、いささかシニカルな笑いの中に現代社会の問題を織り込んでおり、最後の一段は公共広告映画といった趣でした。腐敗や環境問題を考えようと正面から訴えており、ネットでは「コメディーかと思ったら『主旋律電影』だった」などの皮肉も見られました。主旋律電影については以前も説明しましたが、愛国精神や国家建設に対する積極的な意識を喚起しようとする映画のことです。確かに、説教くさいと感じる人はいるだろうなという内容でした。

なお、24日からはジャッキー・チェンの『ポリス・ストーリー2013』が公開になりました。ネットでチェックしたところ、北京はそれでも『私人訂製』がぶっちぎりに多数上映されていますが、上海では両者の差は縮まり、広州では逆に『ポリス・ストーリー2013』の上映回数が上回っています。フォン・シャオガンの笑いは極めて北京的だと言われ、笑いのペースがかなり中国の文化、歴史、社会に由来しているので、日本人には理解しづらいところが多いかと思います。そして、同監督作品ではもはやおなじみの「植入広告」(プロダクト・プレースメント)がたくさん入っており、なんでもその総額は8000万元に上り、これだけで製作費は回収されているんだそうです……。

前回、筒子河が凍結した写真を掲載したところ、よく分からないという声があったので、今回また市内の水路を撮影してみた。北京の河川、水路は全面的に凍結している 

 

 この週末、軍事博物館駅で地下鉄1号線と9号線の乗り換え通路が完成。テレビのニュースでは乗り換えの距離が長いなどと報道していたが、1号線から9号線への乗り換えはとてもスムーズだった

 

【データ】

私人訂製(Personal Tailor)

監督:フォン・シャオガン(馮小剛)

出演:グォ・ヨウ(葛優)、バイ・バイハー(白百何)、リー・シャオルー(李小璐)、ジェン・カイ(鄭愷)、ソン・ダンダン(宋丹丹)、ファン・ウェイ(范偉)

時間・ジャンル: 118分/コメディー・ドラマ

公開日:2013年12月19日

金鶏百花影城はその名の通り中国を代表する「金鶏百花賞」の選考が行われる由緒正しい映画館だが、住宅街にあり観客には家族連れなどが多い。7つのホールのうち4つは建物の横にある別の入口から入場する 

金鶏百花影城

所在地:北京市朝陽区北三環東路22号

電話:010- 64203483

アクセス:地下鉄5号線和平西橋駅下車、B口を出て東へ徒歩5分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年12月24日

 

 什刹海駅を下車するとすぐに前海。全面凍結した前海ではすでに氷遊びの営業が始まっていた。

什刹海駅から南鑼鼓巷に続く帽児胡同の通りにはさっそく多くの観光客が見られた。このエリアの発展ぶりには目を見張らされる 

12月28日に地下鉄8号線が南鑼鼓巷駅まで延伸、新たに什刹海駅が鼓楼の南に開業した 

 

 

 

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