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“起死回生”の公開 『無人区』

 

 文・写真=井上俊彦

ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

 

話題作目白押しの12月、まず第1弾はこれ!

この12月はたいへんな公開状況です。まず、3日にニン・ハオ監督の『無人区』が公開されました。主演がシュー・ジェンとホアン・ボー、ユー・ナンという組み合わせですから見ないわけにはいきません。続いて6日にデン・チャオ、リウ・イーフェイらが主演したヒット作の続編『四大名捕2』、アレックス・フォンとクリッシー・チャウ主演の聊齋志異もの『非狐外伝』が公開。12日にはアンディー・ラウとヤオ・チェンが共演する『風暴』、13日にはジェイ・チョウのヒット曲の作詞家として知られる方文山の監督作『聴見下雨的声音』、19日にはフォン・シャオガンが久しぶりのコメディーを撮影して話題の『私人訂製』と続きます。そして、24日にはジャッキー・チェンの『ポリスストーリー2013』、29日には『失恋の33日』を監督したタン・ホアタオがニー・ニーとジン・ボーランを起用した『等風来』が待っています。この間に、ニエ・ユアン主演の『啊朋友還銭』、フェイルンハイのジロー主演の『我的美麗王国』、大ヒットした音楽オーディション番組をベースにした音楽映画『中国好声音之為你転身』などが上映予定です(ラインアップは直前に変更があるかもしれません)。

すでに11月25日時点で全国の興行収入は193億元と、昨年1年間を大きく上回っており、このラインアップから考えて220億円も視野に入ってきました。しかも中国映画がこのうち107億元を占めています。ついでに紹介しておきますと、この日の時点で全国のスクリーン数は17600で、4500の純増となっています。

ニン・ハオ式の「ブラック」な世界観

その12月、最初に見に行ったのは“旧作だけど新作”の『無人区』です。本来、2010年に上映されているはずの作品で、ニン・ハオ監督にとっては『黄金大劫案』より先に制作したものなのですが、公開直前になって審査が通らず無期限公開延期になっていました。当時、監督のナルシズムが強すぎる、設定に悪者が多すぎる、展開が国家・国民のイメージを損なうなどの指摘がありました。しかし、この数年で社会の価値観が変わってきたのか、監督のその後の成功や主演2人の人気急上昇で公開しない手はないということになったのか、最も観客動員が見込めるこの時期に公開になりました。これこそ市場原理と言うといささか皮肉に聞こえるかもしれませんが、良い作品が見られることを素直に喜びたいと思います。

著名弁護士の潘肖(シュー・ジェン)は、西部の砂漠の中の小都市を訪れ、希少猛禽類密猟団のボス(ドゥオブジエ)を弁護して無罪にします。潘は弁護士費用のカタに差し押さえたクルマを運転し、「600キロ無人区」を突っ切って大都市に帰ろうとしますが、途中で先を行くトラックとトラブルになり、フロントガラスを割られます。このため前方が良く見えず、パンクで助けを求める男(ホアン・ボー)をはねてしまいます。男が死んだと思った潘は死体を処理しようと考え、怪しげなドライブインを訪れますが、そこでぼったくりに遭います。次々とトラブルに巻き込まれる潘は……。

12月になってあちこちにツリーなども飾られるようになってきたが、今年は倹約・節約ムードが強いためか地味な印象。この日、地元の若者でにぎわう西単大悦ショッピングセンターではまだツリーは飾られていなかった 

悪人と乱暴者ばかりが登場するブラック・ユーモア満載の「西部劇」です。都会では無敵のらつ腕弁護士もこの無人区ではまったくの弱者で、ニン・ハオ式の偶然に翻ろうされ、次々と窮地に追い込まれていきます。自分で蒔いた種だとしても、観客は潘に感情移入して緊張の連続を強いられます。時々ニヤリとさせられますが爆笑場面は少なく、これまでの同監督作品に比べるとかなりサスペンスに重点が置かれていることが分かります。

そんな中、ユー・ナンの存在がブラックで乱暴で凶悪な男たちの世界ばかりを見せられる観客を救ってくれます。謎の踊り子を演じていますが、話すことに何一つ真実がない一方、大きな目を見開き無垢な表情も見せます。また、セクシーなダンスなども披露して独特の魅力を放っています。一方で、ホアン・ボーの見せ場は実はそれほど多くなく、ファンにはちょっと物足りなかったかもしれません。

いずれにしても、私にとってはかつて見た『双旗鎮刀客』(1990)以来の“中国西部劇”の傑作でしたが、監督はこの作品を『西遊記』になぞらえているようです。

公開初日の首都電影院では、夕方には20分おきに上映されていましたが、それでも満席でした。気づいたのは、若い男性だけのグループが何組もあったことです。しかも、“とんがった”ファッションだったり、髪を派手な色に染めていたり、普段映画館で見かける若者とは少し違った層です。これが単なるサンプルワンなのか、この映画がそうした新たな層を映画館に呼び寄せているのかはまだはっきりしませんが、この日1日で興行収入は2400万元を記録したとのことです。火曜日の半額デー公開で、しかも『ゼロ・グラビティ』『ハンガー・ゲーム2』といった大作が大ヒットしている中での公開ですから、かなり健闘していると言えそうです。

【データ】

無人区(No Man's Land)

監督:ニン・ハオ(寧浩)

出演:シュー・ジェン(徐崢)、ホアン・ボー(黄渤)、ユー・ナン(余男)、ドゥオブジエ(多布傑)

時間・ジャンル: 117分/犯罪・サスペンス・ウエスタン

公開日:2013年12月3日

久しぶりに訪れた首都電影院には新しい会員センターができていた。映画館同士の競争激化で会員サービスに力を入れるところが増えているようだ 

首都電影院

所在地:北京市西城区西単北大街大悦ショッピングセンター10階

電話:010-66086662

アクセス:地下鉄1、4号線西単駅下車、F1口を出て北に徒歩1分、君悦広場10階

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年12月5日

 

 

 

 

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