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日本の環境技術を参考に 環境保護部門の権限強化が必要

 

陳言 コラムニスト、日本産網CEO、日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。

2月の北京市・天津市・河北省一帯はスモッグ「霧霾(ウーマイ)」に覆われ、それが8日間も続いた。3月に入ってから8日間連続の状況こそなかったが、スモッグ問題は、依然として市民の関心の的であった。「霧霾」に対する新たな表現――「心肺之患(心肺機能の災い)」が、李克強国務院総理の口から出て広がっている。

頻繁に各地を襲うスモッグに対し、中国の民衆が最も関心を寄せていることの一つは、いかにこの「心肺之患」の問題を解決するかということである。昨年、中国は「大気汚染防止10カ条行動措置」を公表し、「五カ年空気浄化行動計画」なども発表した。関連の報道によると、これらの計画に伴う投資は、1兆7000億元(約28兆9000億円)にも上る。しかし、5年間でスモッグ問題を解決することはとても不可能で、さらに数兆元の投資が必要となるだろう。また日本の環境技術、管理システムなどを導入して環境改善に役立てるべきだと思う。

「ヤミ排出」コントロール

環境保護に対しては巨額の投資を行い、また関連法律も制定されているが、中国の空気は良くなるだろうか。多くの市民は、「ならない」と思っているようだ。スモッグ問題への政府の努力をみんな評価しているが、一方、各地で頻発している企業の「偷排(ヤミ排出)」現象も市民は見ている。

中央政府はその問題を知らないわけではない。環境保護部(部は省に相当)が大気監督検査行動を行い、26チームに分かれて、華北の12都市の空気を検査した。予告なしに立ち入り検査を行い、重点工業企業の大気汚染防止管理施設の建設、稼働状況や排出基準が守られているかどうかなどをアトランダムに検査した。その結果、一部の中、大企業の汚染物質の「ヤミ排出」が、深刻であることが明るみに出た。その大部分は、コークス、セメント、アルミ電解、鉄鋼のような重度汚染物質排出企業である。河北省唐山市で立ち入り検査を受けた46社のうち、34社で各種の環境問題が発覚した。

これは、企業の「ヤミ排出」が初めて暴露されたわけではない。近年、多くの大気専門家がメディアに対し、中国には大気管理の法規と措置がないわけではなく、最大の問題は、「ヤミ排出」をコントロールできないことであると指摘していた。

中央が何度も繰り返し命令しても、多くの地方企業が依然として命令を無視し、「ヤミ排出」がなくならないのはなぜか。ひとつの理由として挙げられるのは、中国の行政システムにおいて環境保護部門の権限があまりにも弱いことだ。責任が重い一方で、権限が弱く、人手も足りない。これには一理ある。中国各地で地方の環境保護部門は、普段から、中央の国有企業や地方の国有企業を中心とする大型企業には相手にされない。民間企業の場合でも、現地で長年、重点企業の地位を築き上げてきた大手民間企業の場合、地方政府と「良い関係」を維持している経営者もおり、地方の環境部門などは相手にしない風潮が根強い。

小企業の「ヤミ排出」も監督されていないのではないか。このような質問をぶつけられると、地方の環境部門はいつも決まって「小企業はバラバラで、しかも数も多いので、汚染をなかなか見つけられない」と答える。これは、明らかに責任回避である。周辺住民にとって、大気汚染は目に見え、悪臭もするので、公衆の摘発システムを作り、監視さえしていれば、発見できないはずはない。

中、大企業の「ヤミ排出」に直面して、スモッグ問題が空前の深刻な現状に置かれている中で、国は行政改革から着手し、環境部門の権限を拡大し、「ヤミ排出」を摘発する「勇気」を与えるべきである。同時に、小企業の「ヤミ排出」は、地方の環境保護部門の不作為によるものと認識しなければならない。権限を強化させると同時に、関連部門に対する責任追及も重視すべきであろう。

「補助金不正受給」許すな

さらに悪質なのは、国から補助金をもらいながら、せっかく設置した環境設備を稼働させていないケースである。

中央政府は電力会社の脱硫を奨励するため、脱硫装置を使用し、正常に稼働している石炭火力発電所に対し、脱硫によって増加したコストを補填(ほてん)する目的で、電気料金補助金を支給している。ある日本の電力関連の専門家は、中国の火力発電所を見て「大部分の火発にはすでに脱硫装置が設置されている」と、環境関連の設備について言えば、日本とあまり変わりはないと感じたそうだ。しかし、中国の火発の周りは日本よりずっと空気が悪い。装置が稼動していないことはすぐ分かる」。

実は、中国では、脱硫装置に対する電気料金補助金は1㌗時あたり0・015元(約2円60銭)となっており、60万㌗のユニットに対する国からの補助金は、年間4000万元(約6億8000万円)から5000万元(約8億5000万円)に上る。

ところが、少なからぬ火発が脱硫補助金を受給しながら、設備を正しく使用せず、未処理の排気を「ヤミ排出」している。

関係者によると、脱硫装置は購入コストが高額で、さらに日常的なメンテナンス費用、稼働時の電力コスト、原材料の消耗や脱硫剤にも相当額の費用が欠かせない。仮に、国家の要求通りに稼働していれば、脱硫補助金が支給されても、ほぼプラス・マイナス・ゼロで、黒字になることはない。そのため、企業側が積極的に脱硫装置を使用する意欲は高いとは言えない。

利益を確保するために、多くの企業は脱硫装置をひそかに停止させている。政府部門の検査に対して、企業側の対応方法も多様で、脱硫装置の稼働運営状況を虚偽報告し、運営記録を意図的に書かず、またオンライン•モニター設備のデータを改ざんしていた事例も見つかっている。

第12次五カ年規画(2011~2015年、十二・五)によると、2015年には、全国の二酸化硫黄の排出総量を2086万4000㌧に抑制し、2010年の2267万8000㌧に対し、8%減少させるよう規定している。火力発電所は二酸化硫黄の主要排出企業である。十二・五期間の大半が過ぎた現在、環境保護指標の達成状況は楽観できない。

4月ごろには調査結果が公表されると言う。補助金を受給しながら脱硫装置を正常に稼働しなかった不正受給企業には、「最高で補助金の5倍の罰金を科す」としている。

脱硫などの装置を付けるだけ付けて稼働させないと、一定の期間が経過すると、使おうと思っても設備はうまく動かない、と日本の電力専門家は指摘する。さらに日本の行政機関、マスコミ、市民団体などは、企業の動きをきちんとチェックしており、企業の不正が明るみに出た場合に支払わなければならない社会的コストは極めて高い。日本企業における環境設備の運営方法、社会的チェック機能などは、中国の環境保護の参考になるはずであり、その導入を考えるべきであろう。

 

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