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リサイクル政策に意欲的 環境協力の可能性広がる

 

陳言 コラムニスト、日本産網CEO、日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。

テレビ、冷蔵庫など廃棄家電製品を満載したトラックが、パナソニック・エコテクノロジー関東の工場に入っていく。出てくるトラックを見ると、ほとんど空っぽで、たとえ何か積んでいても、すでに分解された金属類やプラスチックのような素材で、工業原料として出て行くのだ。

ここは成田空港から西へ20㌔のところに立地している家電リサイクル企業だ。「ここからは原則として廃棄物と言えるものは出さず、家電部品のすべてを回収している」と、市川尚工場長は言う。家電リサイクルによって都市ゴミは資源に生まれ変わっている。

ここから東京都内を貫通して東に向かうと、秩父の三菱マテリアル社の横瀬セメント工場に行き着く。いままではセメント生産のエネルギーとして、石炭や重油などを使っていたが、今では工業廃棄物を使っている。

廃プラスチックだけでなく、都市の生活汚水などを浄化した後に残る汚泥、廃タイヤなども燃料としてセメント生産に役立っている。「1㌧のセメントを作るのに、400㌔の工業廃棄物を使っている」と、横瀬工場の橋本光一工場長が説明してくれた。

これから中国も環境保護に力を入れていくが、日本の工場を見学したほとんどの中国人が、リサイクル、資源の有効利用などの面で日本に大いに学ぶべきだと、思うだろう。

中国の環境政策を検証すると、その可能性が十分あることが理解できる。

厳しい「特別排出制限値」

日本のセメント工場では廃プラスチックや汚泥などの産業廃棄物、生活廃棄物を燃料として使っているが、中国でも今後、そのような技術の普及に努めるに違いない。中国政府は、すでに環境面で大きな責任を負うべき業種に対して「特別排出制限値」を規定している。

現在策定中の「セメント工業における大気汚染物質の排出基準」が実施されると、その基準を達成するために、セメント生産ラインの技術向上に、170億元(1元は約16円)必要だとされている。さらに、第12次5カ年規画(十二・五)期間中に、毎年20億㌧のセメントを生産し、セメント業の環境保護対策を実施すると、毎年240億元から300億元のコスト増が見込まれる。  もちろん中国はまだ排出制限値を制定する段階だが、その次の段階では、資源の有効利用のため、日本と同じく工業廃棄物の再利用が考えられる。  セメント生産だけでなく、火力発電関連の排出基準にも厳しい数値が提示されている。新規の石炭ボイラーは、ほとんどの地域で、国の排出基準に準じて、SO2は1立方㍍当たり100㍉以下と定め、広西、重慶、四川、貴州では火力発電のボイラーを同200㍉以下としているが、新たな特別排出制限値では同50㍉以下に下げ、従来の基準の四分の一以下に厳しく制限している。

環境保護部(環境省に相当)の専門家は、「排出制限によって企業の汚染処理コストを増加させるのは、具体的には、脱硫、脱窒や水銀処理装置の技術向上を推進し、運営コストを増加させることになる」と解説する。日本企業の事例を見ると、国の基準を守るだけでなく、同時に企業として環境リサイクルへの貢献も視野に入れている。中国企業も学ぶべきであろう。

「十百千」モデルに注目

企業だけでなく、中国の都市全体に広がっている環境重視の動きは、これからの中日環境協力の条件が整ってきたことを示している。これから中国は環境をどのように改善しようとしているのか。最近の環境戦略、地方政府の対応に注目すべきだろう。

今、中国で「十百千」という新しいモデルが盛んに議論されている。それは、リサイクル経済の「10のモデル工程」「100のモデル県(または市)」を建設し、「1000社以上のモデル企業(または工業団地)」を設立することを指している。そのモデルは企業の自主的な投資を主とするが、各地方政府、金融機関にも、現行の政策や資金面でサポートするよう求めている。このモデルを実施する際に、中日企業間の協力が期待されている。

パナソニック系の家電製品リサイクル工場でブラウン管を解体する従業員(写真・筆者)

さらに地方政府は、環境投資に力を入れている。例えば、北京の場合、今年から3年間で、汚染問題を解決し、市民の環境悪化に対する不満を軽減したいとしている。北京市政府は汚水とゴミの処理の強化を約束し、空気の質を高めようとしている。具体的には、北京市で1290㌔の汚水処理パイプの敷設と改修、5カ所のゴミ処理場と47カ所の汚水循環工場の建設、および20カ所の汚水処理場の処理能力アップを考えている。

「今後3年間で北京市はゴミ処理、汚水処理、植林関連に1000億元超を投資する」と王安順北京市長は語る。王市長は外国企業を含む民間企業の資本参入も呼びかけている。地方政府の環境重視政策によって、ますます中日環境協力の可能性が強まっている。

さらに、国レベルでは、(十二・五)期間中に、エネルギーの産出比率を18.5%引き上げ、水資源と建設用地の産出比率も43%、主な資源の回収利用を5%程度引き上げる方針を打ち出している。2015年に、エネルギー消費、水使用量を2010年比でそれぞれ21%、30%引き下げていく。工業固体廃棄物の総合利用率を72%、5割以上の国レベルの工業団地、3割以上の省レベルの工業団地は、リサイクルできるように改造しなければならないと指摘している。

また石炭・電力・鉄鋼・非鉄金属などの工業、農林業、観光・通信などのサービス産業、合わせて20の産業に対して、具体的なリサイクル経済の発展指針も決めている。例えば、電力業では2015年に、火力発電の石炭消費量を325㌘標準炭/㌔㍗時に引き下げ、粉炭の総合利用率を70%に引き上げ、バイオ発電による電力を1万3000㌔㍗にする計画だ。

国家政策の面から見ても中日環境協力は極めて有望と言えよう。

中日関係の改善にも寄与

環境、リサイクル、省エネなどの各分野では、多くの日本企業が日本という「国ブランド」を持っている。中国人の印象では、日本の「新幹線」がたいへん高い評価を得ており、また「省エネ環境」のイメージも日本製品と直接つながっている。普通の中国人にとって、米国人は省エネ環境の面ではそれほど大した技術を持っているとは思われない。もちろん米国にもGEのような企業があり、実力もあるが、環境に突出しているというイメージはない。

廃棄物をほとんど出さずにリサイクルする技術、工業廃棄物を有効利用する技術など日本で実用化されている技術は、中国ではまだ十分に知られていない。日本の家電メーカー、資源メーカー、さらに商社などは、中国での家電リサイクルに乗り出していると聞くが、まだ数が少ない。これから本格的に展開していくと思われる。

また日本の環境技術を導入して、中国の環境問題を大きく改善していくことは、中日関係の改善にもきっと役立つだろうと思われる。

 

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