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「中国リスク」に違和感 撤退は外資系企業の戦略転換

 

陳言 コラムニスト、日本産網CEO、日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。

無錫菱樹社の吉本和宏総経理は、あえて12月の東北を回り、農業用フィルムの販売可能性について探ってみた。

吉林省、遼寧省の冬は、想像以上に寒く、風も強かった。市場で売っている野菜と言えば、白菜以外のものは少なく、値段も高い。「われわれの農業用フィルムを使ってビニールハウスを作れば、いろいろな野菜が作れ、収益もあげられるはずだ」と吉本総経理は感じた。

無錫菱樹社は、正式には「無錫菱樹農業薄膜材料科技有限公司」と言い、社名からわかるように、三菱樹脂の現地企業である。戦後、農業用フィルムを作って日本農業の技術進歩に寄与してきた。次は中国だと思い、昨年、無錫工場を稼働させた。

中国には同業他社がたくさんあるが、あえて工場を作り、「われわれの技術力の強さは、日本で実証されており、中国で必ず役に立てると思っている」と吉本総経理は自負する。折よく、昨年の第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で農業技術の刷新も大いに打ち上げられ、中国の農業はこれから大きく変貌すると吉本総経理は予感する。

「コストは高いのではないか」と農業の現場では何度も言われたが、吉本総経理はくじけず、1回だけでも使ってみれば、われわれの製品の品質、耐用性などが分かるはずだと粘る。経済成長率が毎年7%か8%を維持する中、農業も技術刷新が行われ、戦後の日本はそうだったのだ。

今年の中国では、モノを作り、新しい市場を開拓する三菱樹脂のような製造企業が進出している一方、ビジネス・モデルを変えた金融関連の企業も多く出ている。業種によって中国市場に対する展望、中国リスクについての感覚はまったく違っている。

合弁から独資化を視野に

昨年の暮れから、多国籍企業について幾つかの報道が注目された。PCや日用消費財などの製造業で、中国国内に営業拠点のある外資系企業が次々とリストラを本格化させたからだ。

中国における大手就職サイトのひとつである智聨網の統計によると、今年、募集人数の総数は約30%増加したが、外資系企業から提供される就職口は5%減少した。その中でも、典型的なものではヒューレット・パッカード(HP)である。「2014年の年末までに全世界で2万7000人をリストラ予定」と公表した同社は、中国でリストラする社員の割合を、「おそらく20%に達するであろう」としている。

海外資本が中国の金融機構から撤退したケースも幾つかある。昨年12月11日、香港上海銀行(HSBC)はスペインのバンコ・サンタンデールに上海銀行株の8%を譲渡した。また、それに先立つ同年2月にも、所有する保険会社である中国平安保険の9億7600万株のH株をタイのCP(チャルーンポーカパン)グループに譲った。

以上のような動きから、中国国内における海外資本の撤退は、ひとつの「トレンド」になりつつある、と結論づけたメディアもある。しかし、よく分析してみれば、これは単なる海外資本の戦略モデルの転換に過ぎず、海外資本が中国の政策転換や市場構造の変化に対応するために起こった段階的な現象にすぎない。

金融分野において、海外資本は株式保有という方式で中国の国有金融機構を変えるにはコストが高過ぎることに気付くと、合弁企業から次第に撤退し、独資の方式に目を移すことになる。

規制緩和し「内国民待遇」

その背後には、中国における外資政策の変化がある。

昨年11月19日、商務部(日本の省に相当)の沈丹陽スポークスマンによると、同部はこれから、外資政策の安定やサービス業、一般製造業などの分野において外資参入制限の廃止に重点を置き、また、金融、教育、文化、医療などのサービス業の開放に力を入れ、幼児保育および高齢者介護、建築設計、会計監査、ビジネス物流、Eコマースなどのサービス分野を自由化し、さらに鉄鋼、化学、自動車などの一般製造業の外資参入制限を緩和してゆく方針であるという。

すべての資本に対して「内国民待遇」を与え、対外開放を引き続き推進することは、中国市場化の選択肢の一つである。「内部資本と海外資本に関連する法律法規の統一を速やかに推進」した上海自由貿易区では、すでに「内国民待遇」を試みていた。このような状況において、中国に進出した海外資本は、コストの高い財務投資より、その資金を高値のうちに現金化して、今後の独資設立として備えておいたほうが良いということになる。

実体経済の分野において、労働力コストの増加に伴い、中国の製造業は長期間の高度成長を経て、成熟期に入って行く。これは、確かに一部の外資の静観、縮小ひいては撤退につながっている。商務部のデータによると、昨年1月から10月まで、製造業において投入された外資は382億9200万㌦で、前年同期比5・25%低下したという。

しかし、同時期に、物流、融資・リース、エンターテインメントなどの分野において、海外投資はかえって速やかな成長を保っていた。昨年1月から10月まで、サービス業に投入された外資は速やかな成長を維持し、498億1200万㌦に達し、前年同期比13・93%の増加となった。中でも、電器機械修理業、エンターテインメント・サービス業の成長は非常に速く、それぞれ321・48%増および222・27%増となっている。

「外資撤退」については、視点を変えて見てもいいのではないか。中国が転換期にある今こそ、外資企業にとっては構造調整、余剰人員削減の契機でもある。また、バランスの崩れたバランスシートを調整するチャンスでもある。外資系企業の行動を、あえて色眼鏡で見る必要はない。すべては市場自身の規律によって推進されていくものである。

モデルチェンジに可能性

しかし、1月の海外の新聞などを読むと「中国リスク」という言葉がやたらと目についた。その中には、経済リスク、シャドー・バンキング、地方政府の債務問題、中所得国のわななど多岐にわたる分析があり、読んでいるうちに、昨年日本で出版された『中国台頭の終焉』(津上俊哉著、日経プレミアシリーズ)で繰り返して強調しているステレオタイプが固定化しているように感じた。

一方、中国メディアを読むと、ほとんどの専門家が同じくリスクを明らかにしながら、GDP成長率は7%か8%で落ち着くだろうと予測している。7~8%の成長さえ維持しておけば、リスクは軽微ということはないが、リスクを乗り越えて、いっそう発展していく。中国では外資系企業も含めてそう展望している。農業、教育、医療、金融、さらにここ数年日本の産業界が中国で注力している省エネ、環境、スマートシティーなどは、いずれも中国経済のモデルチャンジによって、新しい可能性が出てきている。

過去20年間、海外で繰り返されている中国リスク論、中国崩壊論は、今年に入っても再登場しているが、中国の現場では徐々に鼻白む思いが強くなっている。

 

人民中国インターネット版

 

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