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七夕興行の勝者!『白髪魔女伝之明月天国』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

夏の恋人デーに「范爺」の魅力堪能

8月2日は七夕でした。七夕といえば日本では新暦の7月7日、地方によっては月遅れの8月7日に行われますが、本家中国では現在でも農暦の7月7日です。そして、現在の中国では冬のバレンタインデーと並ぶ、夏の「情人節」(恋人デー)、恋人たちの日なのです。街のあちらこちらに花を売る屋台が出現し、ペアルックの若者が繁華街を闊歩し、映画館も若者で大にぎわいです。今年は土曜日と重なったこともあり、なんとこの日1日だけで2億4000万元近い興行収入となりました。そして、興行成績トップとなったのが『白髪魔女伝之明月天国』でファン・ビンビン、ホアン・シャオミンという二大スターが共演しています。悲しいロマンス、きらびやかな時代衣装、3Dを駆使した武侠アクションと、それはもうてんこ盛りな内容の作品を七夕興行にぶつけた配給会社の勝利と言えそうです。

卓一航(ホアン・シャオミン)は武当山で修行を積み掌門に任じられ、皇帝に薬を届けるため都に向かいます。途中で美しい侠女練霓裳(ファン・ビンビン)と知り合い、彼女たちのピンチを救ったことから愛しあうようになります。しかし、一航が皇帝に届けた薬は宦官の魏忠賢(ニー・ダーホン)によってすり替えられ、武当山自体が罪に問われそうになります。このため、一航はやむなく魏の娘と結婚することを承諾します。しかし祝言の夜、屋敷に霓裳が現れ彼を問い詰めるのでした。ちょうどその時、川陝総督である一航の祖父の卓将軍を殺害し、その軍を掌握した金独異(チウ・マンチュク)が、霓裳らの住む明月塞を陥れようとしていました……。

前半は二人の出会いだけでなく、裏切りやワナなどさまざま伏線が張られるなど、ドキドキ感もたっぷりですが、最後に向けての収束がいささか雑なように思えます。しかし、自ら魔道に入っても愛する男を救おうとする「女漢子」(いわゆる男まさりの女性)の“ツンデレ”ぶりを、ファン・ビンビンが好演しています。美人女優で知られる彼女ですが、実は義理堅くさっぱりした性格で“范爺”(范のだんな)というニックネームを持つほどで、今回の役柄はぴったりだったかもれしません。逆に実力派イケメン俳優のホアン・シャオミンが、今回は彼女の魅力を引き立てる側に回っています。

8月2日は七夕だった。街にはカップルが多数見られ、駅前には花を売る露天商の出現、スーパーの生花コーナーもこのにぎわい

女性同士で見る映画作品も人気に

その他、七夕をねらって公開された作品を紹介しておきましょう。『白髪~』に次ぐ好成績だったのが、『被偸走的那五年』の黄真真監督による『閨密』でした。アイビー・チェン(陳意涵)、フィオナ・シッ(薛凱琪)、ヤン・ズーシャン(楊子姍)という3人の閨密(親友)の友情物語で、映画館には若い女性のグループが詰めかけ、細かなくすぐりにも大反応して笑っていました。私のような年齢の男性には少し演出があざとく見え、ストーリーに入れない部分がありましたが、隣の若いカップルのうち男性の方が途中で涙をぬぐっていて驚かされました……。

一方、カップルをターゲットにした『不再説分手』『我想結婚的時候你在哪』の2作はいずれも今注目の香港若手女優クリッシー・チャウ(周秀娜)がヒロインです。『不再説分手』はイーキン・チェンとの共演で、以前ならシャーリーン・チョイ(蔡卓妍)がやっていた役かなと感じました。別れた相手の記念品を預かる喫茶店という設定はユニークでしたが、彼女の魅力を際立たせる何かが不足していたように思います。一方、後者はディラン・クオ(郭品超)演じるカメラマンが結婚恐怖症を克服する話ですが、背景となる青島の海岸は美しく撮影されているものの、ヒロインの見せ場がほとんどないなどストーリーに焦点を欠き、若いカップルの支持を得られなかったようです。たくさんの映画が公開されている現在の中国で「七夕向けは全部見てやろう」などと気負いこむと、こういう作品にも出会うことになります。

なお、前回ご紹介した『後会無期』が依然好調で、ついに『小時代3刺金時代』の興行収入に追い付きました。また、『京城81号』もホラーものとして異例のロングヒットになっています。バラエティーに富んだ作品の公開が続くこの夏休みですが、今週8月7日にはチャン・チェン(張震)とリウ・シーシー(劉詩詩)が共演する時代武侠作品『繍春刀』が公開されるなど、まだまだ話題は尽きません。

 
 
 
『京城81号』のヒットで話題になった建物。門が閉じられ「映画には関係ありません」という張り紙が出されていたが、見かけた関係者に頼んで撮影させてもらった

 

【データ】

『白髪魔女伝之明月天国』(The White Haired Witch of Lunar Kingdom)

監督: チャン・ジーリャン(張之亮)

出演:ファン・ビンビン(范冰冰)、ホアン・シャオミン(黄暁明)、チウ・マンチュク(趙文卓)、ニー・ダーホン(倪大紅)

時間・ジャンル: 103分/愛情・時代・ファンタジー・アクション

公開日:2014年7月31日 

 

 

新華国際影城大鐘寺店の入るショッピングモールの一部が工事中になっているが、同シネコンは通常通り営業している

 

新華国際影城大鐘寺店

所在地:北京市海淀区北三環西路大鐘寺中坤広場C座3階

電話:010-82511616

アクセス:地下鉄13号線大鐘寺駅下車、A口から西へ徒歩5分

物販にも力を入れる同シネコンでは、ポップコーンとドリンクのセット・キャンペーンを実施中。ちなみに「思密达」は韓国語の語尾につく「スミダ」のこと。「粗大事」は「出大事」(大変だ)のことで、いずれもネットでよく使われる

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年8月5日

 

 

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