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張震が明代の剣の使い手に!『繍春刀』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

 

個性的俳優演じる3兄弟が権力の罠に立ち向かう

明代末の北京、それぞれの理由から金を必要とする錦衣衛の腕利き3人に、宦官の魏忠賢を討つよう指令が出ます。しかし、実はその裏には複雑な政治的思惑がからみ、罠も仕掛けられていたのでした。3人は隠れ家を急襲し、魏を発見しますが……。

明末の特務機関兵士の宦官暗殺をめぐる物語ですが、3人の兄弟分の組み合わせが魅力です。兄貴分の盧剣星には『鋼のピアノ』(2011)のワン・チエンユアン、2番目の沈煉には『呉清源〜極みの棋譜〜』(2006)や『レッドクリフ』(2008)などですっかりおなじみのチャン・チェン、そして末の弟分の靳一川はドラマ『宮廷の諍い女』の「果郡王」で日本でも知られるようになったイケメン俳優のリー・トンシュエです。

基本的に男っぽい話ですが、女優陣も豪華です。沈煉を二股にかける(?)妓楼の女に『宮廷女官若曦(ジャクギ)』のリウ・シーシー、魏の養女に人気司会者のジュー・ダン(朱丹)、また一川に思いを寄せる医者の娘には『宮廷~』で若曦に仕える玉檀を演じたイエ・チン(葉青)と美女が並びます。イエ・チンは以前『無底洞』(2011)という映画でシャー・イー(沙溢)と共演した時の演技がとても印象的で気になっていた女優さんです。今回は出番は多くないものの、とても可愛らしい笑顔を振りまいています。

当然ながら、この手の作品では悪役も重要です。宦官の魏忠賢には台湾地区のベテラン俳優ジン・シージエ(金士傑)、その養子で強い権勢欲と卑屈な性格を持つ魏靖忠にはニエ・ユアン(聶遠)が配されています。彼も人気イケメン俳優で、ドラマ『三国志』で趙雲を演じたほか、今年日本公開されたルー・チュアン(陸川)監督の『項羽と劉邦 鴻門の会』では剣舞を披露する項荘をに扮しました。そして、一川につきまとう兄弟子で、物語の後半で重要な役回りを演じる丁修はドラマ『蒼穹の昴』で梁文秀を演じたジョウ・イーウェイが演じています。どうです、この俳優紹介を読んだだけでも、作品を見たくなったのではありませんか?

最近では映画鑑賞がさらに便利になっている。パソコンやケータイから割り引き付きで席の予約ができるようになっているのだ。ネットで簡単に予約ができ、映画館のロビーに置かれた写真のような発券機(各運営サイトごとに違うマシンが置かれている)から直接入場券を取り出せる。チケット売り場に並ぶ必要がないため急速に普及が進んでいるようで、この日、ロビーでしばらく発券機に注目していたところ大勢の人が利用していた。ポスターは別の映画館で撮影したものだが、二次元コードで予約サイトのアプリが簡単にダウンロードできるようになっている

多角的に楽しめる良質なエンターテインメント

たぶん予算の問題なのでしょうが、画面の質感が軽く、爆薬や特撮を駆使しての派手なアクションがありません。迫力という点でいささか小粒な印象は否めませんが、そのぶん登場人物それぞれの背景や心理を想像して楽しむことができます。兄弟分3人(プラス1人)の男の友情に注目するのもいいでしょうし、政と武の世界に生きる男たちのあくなき戦いを現代社会に重ねて見るのもいいでしょう。また、動乱の時代に生まれた女性たちの悲恋に浸るのもアリだと思います。いろいろな楽しみ方ができる良質な作品だと感じました。

最後に、カギになる言葉について少し調べましたのでご紹介しておきます。前回の『白髪魔女伝~』にも登場しましたが、魏忠賢とは実在した明末の宦官で、熹宗の時代に出世して権勢をふるい「九千九百歳」と呼ばれるほどだった(皇帝が「万歳」ですからね)ものの、崇禎帝即位後自殺に追い込まれました。秦の趙高、後漢の董卓、清の和珅らとともに中国「十大奸臣」に数えられるそうです。一方、錦衣衛とは明の太祖朱元璋が設置した特務機関で、皇帝から直接命令を受け、護衛や巡視、逮捕、取り調べなどを行う組織です。錦衣衛のイメージを代表するのが高い位を持つ者にのみ着用が許された「飛魚服」と、日本刀ににも似た「繍春刀」でした。

時代ものを映画館で見ていると、ほかの観客にウケているのに私には意味が分からないということがあります。中国人には一般常識の歴史知識が不足しているためです。こういう機会に少しずつ勉強していこうと思います。

 

【データ】

繍春刀(Brotherhood of Blades)

監督: ルー・ヤン(路陽)

出演:チャン・チェン(張震)、ワン・チエンユアン(王千源)、リー・トンシュエ(李東学)、リウ・シーシー(劉詩詩)、ジョウ・イーウェイ(周一囲)

時間・ジャンル: 100分/時代・アクション・愛情

公開日:2014年8月7日

 

博納国際影城朝陽門旗艦店の入るショッピングモール前の広場では、夏の時期にドリンク・ガーデンも営業されていた

北京博納影城朝陽門旗艦店

所在地:北京市朝陽区三豊北里2号楼悠唐生活広場地下1階

電 話:010-59775660

アクセス:地下鉄2号線・6号線朝陽門駅下車、A口を出て朝外大街を東方向へ、外交部南街を南へ徒歩6分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年8月11日

 

 

 

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