「私にとっての中国~中国への旅~」
馬場 弘基
中国は、私にとって生きていく力、エネルギーを呼び覚ます場所です。私の生きていく力とは、自分の目で多くのものを見てやろうという好奇心であり、未知の環境に飛び込んでやろうというチャレンジ精神です。私がこの中国と出会うきっかけとなったのは、大学入学と同時に始めた中国語の学習でした。学習を進めるうちに、語学力向上とともに自分にとって近くて遠い存在であった中国を体験してみたいと考えるようになり、大学3年次に上海へ語学留学をしました。
現地の大学では、留学生クラスで学んでいたため、深く中国人と関わる機会は多くありませんでした。そこで、夏休み期間を利用し、鉄道で中国国内を一人で旅することにしました。当時中国近現代史を学んでいたため、近現代史に関わりが深い江西省、湖南省を目指すことにして、一番安い座席の切符を購入しました。その座席が、”硬座”でした。
名前の通り固い4人掛けのシートを見て、何も知らなかった私は驚き、この席で十数時間過ごさなければならないのかと少し不安になりました。同じ座席に座ったほかの3人は全員中国人で、私は緊張しました。しかし対面の座席に十数時間座るわけですから、黙って過ごすわけにもいきません。そこで勇気をふりしぼり、つたない中国語で会話を始めました。
最初は私が日本人だとわかった時に彼らの態度が変わるのではないかと心配しましたが、それは杞憂に終わりました。彼らは私が日本人であるとわかっても、それまでとかわらずに私に接してくれました。日本文化と中国文化の違いや日本語についての話題になり、私は即興で日本語講座を開いて大変もりあがり、私たちは仲良くなりました。そして目的地である南昌に着くと、彼らは私のために安宿を探してくれました。この時、私の中のチャレンジ精神が呼び覚まされました。恐れずに未知の環境に飛び込めば、素晴らしい体験ができると知ったのです。
それから約1カ月の間、私は一人旅を続けました。さまざまな地を訪れましたが、何よりも移動途中の硬座や宿での交流が忘れられないものになりました。好奇心とチャレンジ精神から、様々な人々と出会い、交流することができました。少数民族の料理人の卵、出稼ぎで職を探している人、夏休み中の大学生。彼らと夜の露店でビールを飲みながら語り合った時間。ただ語学留学をしているだけでは触れ合うことのできない、エネルギーに満ちた中国を感じることができました。
自分にとって非常に大きな体験であった留学を終え、昨年日本に帰国しました。帰国から1年半以上たち、中国語の学習もおろそかになっていた今年の9月に、私は再び中国を訪れました。目的地は旧満州の東北部。日本と中国の歴史を学ぶようになって、実際に旧満州の地を訪れたい気持ちが強くなり、この旅を決めました。久しぶりの中国で、過去様々なことがあった地であるために心配を抱えたまま出発しました。
しかしこの心配も再び杞憂に終わりました。私は各地でドミトリーに宿泊し、そこでまた素晴らしい出会いと体験をすることができました。哈爾浜のユースホステルでの出会いです。二人の中国人と同室になり、旅行の話で盛り上がったのちに、次の日の予定の話になりました。私は731部隊跡を訪れる予定で、中国人に731部隊の話をするのは少しためらいましたが、731部隊跡に行くことを話しました。すると彼らも訪れる予定で、一緒に行くことになりました。
「中国を知り、歴史に向き合う勇気を持った君を尊敬する」。これが、私が彼らからかけられた言葉です。731部隊跡は歴史に関わるもので、非常にセンシティブなものなので、彼らに何を言われるのかと心配しましたが、彼らは対等に私と付き合ってくれました。一日一緒に行動し、バスで哈爾浜の観光地を巡り、夜は哈爾浜ビールを飲んで私たちは思い出に残る一日を過ごしました。そして、また中国で再会することを誓いました。
列車や長距離バスを乗り継ぎ、久しぶりに中国語の世界に飛び込んだ今回の旅も、私のエネルギーを呼び覚ますものになりました。自分の考えが中国語で表現できなかった時が一番悔しく、もっと中国語を上達させたいという向上心と、もっといろいろな場所に行きたいという好奇心が湧き出てきました。これから、中国がどのように発展しても、私にとっての中国は生きていく力、エネルギーを呼び覚ます場所であり続けると思います。また、これからも歴史から目を背けることなく、より隣国である中国を知り、日中友好に少しでも貢献できるような人間に成長していきたいと考えています。
人民中国インターネット版 2015年1月