海外も注目する「PPP事業」 「一帯一路」インフラ整備で
安定成長下で、社会インフラの充実、民生向上、都市化をどう図っていくか、第13次5カ年計画(十三・五)の初年度にあたる今年、中国では「PPP」に熱い視線が集まっています。身近な例で言えば、PPP関連銘柄に個人投資家の関心が高まっていること、PPPでの海綿(スポンジ)都市(注1)建設に期待が大きくなっていることなどが指摘できます。
PPPとは「官民協力(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業」の略称です。中国語では「政府和社会資本合作方式(政府資本と民間資本の協力方式)」と表記されています。PPPは中国独自のものではありませんが①地方政府関連事業(汚水処理、水道、ゴミ処理等)②インフラ整備③公共サービスなど、協力分野が極めて広範囲で、かつ、資金需要が巨額であるという点で、中国特有なものが認められます。加えて、中国のPPPには財政改革や構造改革(サプライサイド改革、国有企業改革など)、さらに、対外開放や「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」構想に大きく関わっていることから、近年、海外でも注目されつつあります。
膨大な潜在的需要が存在
PPPの主管政府機関は主に財政部(日本の財務省に相当)と国家発展・改革委員会ですが、財政部によると、今年7月25日までに各地から申請されたPPP案件(注2)は1070件で投資総額は2兆2000億元(約33兆円)で、その中から選定されたモデル事業が官民に公表され、事業実施に向けた手続きが行われる予定です。このモデル事業の公表は、一昨年、昨年に続き、今年は第3期となります。因みに、前2期で公表されたモデル事業は、それぞれ、20件(当初30件)、206件の計232件で、その投資総額は8025億4000万元(約1兆2000億円)です。これに第3期PPPモデル事業が加算されますが、その全てが落札され実施に移されるわけではありません。落札率は、第2期の今年1月末は32・7%、3月末35・1%、6月末48・4%(うち実行段階は105件)と、期を追って増えつつあります。
このほか、地方政府(注3)が主管するPPP案件も少なくありません。今年7月時点で、地方のPPP案件は9285件で、投資総額は10兆6000億元(約160兆円)に上り、うち、実行段階の案件は619件、投資総額1兆元(約15兆円)(注4)に達しているとされます。例えば、四川省の省都・成都市では、今年第1期PPP事業として、市政府インフラ関連、交通運輸、水利、環境、観光、医療・衛生および教育など39分野で投資総額は1260億2000万元(約2兆円)に達すると発表しています。10兆6000億元といえば、2008年の金融危機に際して、中国が財政出動で中国経済を下支えした時の4兆元(約60兆円)の実に2・5倍に相当します。中国には、天文学的ともいえる膨大なPPP需要があることが分かります。
PPPが注目される背景には、民間資本の有効活用、財政負担の軽減などへの期待があるといってよいでしょう。社会インフラ整備事業には、膨大な資金と予算の手当が必要で、PPPには、その一石二鳥の効果が期待されているということです。
習近平国家主席は、今年9月の杭州での主要20カ国・地域(G20)首脳会議に先立って開催されたB20(20カ国・地域ビジネスフォーラム)の基調講演で、「インフラ整備への資金投入を拡大し、世界のインフラ連携網の建設を加速させなくてはならない」と強調しました。世界のビジネスリーダーが集うB20の場で、インフラ整備に積極的参加を求めたことは、PPPの核心とその可能性に言及されていたといえるでしょう。
円滑実施のための環境整備
目下、中国では、PPPの実施主体への配慮、とりわけ、官民の民の側の利益に通じる環境整備(関連法整備、支援・リスク回避策など)が急ピッチで進められています。例えば、法整備面については、今年7月7日の国務院常務会議での李克強国務院総理の一言に尽きるといえます。すなわち、PPP関連立法は、「『両法合一』し、国務院法制弁公室(総理の法制業務を補佐する国務院事務機関)が主管する」という決定が下されました。両法とはPPPを主管する財政部と国家発展・改革委員会がそれぞれ提起しているPPP立法と特許経営立法を一本化するということです。これにより、民間資本がPPP案件に参与する際の不確実性や実施における法律面での混乱が軽減すると期待する識者は少なくありません。PPPの円滑実施のための環境整備はほかにもあり、対応すべき課題も多々残されています。ただ、中国におけるここ数年のPPPの進展は、先進国のPPPの20~30年の発展過程に相当するといっても過言ではないでしょう。PPPの課題・リスク対応はこれからが正念場です。
双方向の投資促進の機会に
中国におけるPPPの民間資本の中で外国資本はどうなっているでしょうか。財政部PPPセンターの発表によると、今年6月時点で、実施段階にあるモデル事業105件に関係する企業119社のうち、外資企業はわずか3社です。ただ、今年に入り、PPPの国際化に向けた動きが目立っており、中国のPPP事業に参画する外資企業、さらに、海外におけるPPP事業に参画する中国企業は、今後着実に増えるものと考えられます。言葉を換えれば、PPPは対中投資と対外投資の双方向の投資を促進する機会を提供するわけです。
例えば、今年9月、北京で中国・アジア開発銀行(ADB)協力30周年交通討論会が、ADBや中国側の関係政府機関の幹部、企業代表が参加して開催されました。その際、交通領域におけるPPPの展開がテーマとなりました。中国には交通インフラ整備に関わるPPP案件は少なくありませんし、さらに、交通インフラ整備を要点とする「一帯一路」構想があるなど、ADBとの協力事業は実に豊富です。中国のPPP事業に外国資本が参画する機会はさらに増える状況にあるといえるでしょう。
標準制定に参加し国際化を
今年1月、国家発展・改革委員会は、国連欧州経済委員会(UNECE)とPPP分野での交流強化に関する協力了解備忘録に署名しました。その内容は①PPP中国センターを設立し国連と連携してPPPに関する標準制定に積極的に参与する②毎年、山東省青島市で国際PPPフォーラムを開催し、PPP理論・標準に関する研究を行い、PPP案件と経験を分かち合うなど、PPP国際協力交流を推進する③広東省深圳でPPP訓練計画を実施し、PPPの運用方法、PPP案件の分析をするなど、政府機関、民間資本、金融機関、プロジェクト実行単位に学習交流の機会を提供する、との3点に集約できます。
PPPの起源については諸説ありますが、20世紀後半に欧州で普及したとするのが一般的で、UNECEには世界のPPP実務を先導することが期待されているようです。中国は、協力了解備忘録の署名で、PPPに関わる世界の先進的な経験を吸収し、中国の実情に合ったPPPモデルを創新し、かつ、国連のPPP標準の研究・制定に積極的に参与することで、自国のPPPの国際化へ向け大きな一歩を踏み出したといえるでしょう。
注1 大雨にも対応できる都市排水システム、雨水を吸水できる区画を配置するなどして水害の発生を抑制するシステムをもつ都市のこと。
注2 エネルギー、交通・運輸、水利、環境保護、住居、教育、文化、養老、医療等。 貴州、山東、新疆、四川、河南の各省・自治区がPPP案の件数で上位5傑。
注3 地方政府関連事業では、交通・運輸、土地開発が上位3傑。
注4 内蒙古自治区フフホト市のトクト工業団地では「PPPモデル」を採用して、民間資本を導入し汚水処理システムを構築している。水質検査中の係官
江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。 |
人民中国インターネット版