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改革深化へ具体策を示す

(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト 江原規由

今年ほど、倹約、質素、簡素が励行された「両会」(注1)はなかったでしょう。その雰囲気を代弁していたのがペットボトルでした。例えば、各地の全人代代表と政協委員が宿泊するホテルでの会議では、代表、委員の名前が貼られたペットボトルが配られ、午前の会議で飲み残こされたミネラルウォーターは、そのまま午後の会議に持ち越されました。宿泊先での食事は家庭料理中心でセルフサービス、代表、委員との宴席や出迎え時の花束贈呈や土産品など贈物は一切禁止。

関係職員数も削減、配布資料も簡素化、報道陣への電子版形式での資料提供など、無駄を抑えた実務的な運営が徹底されていたと言われます。「両会」のうち全人代は今年で60周年を迎え、政協は1949年から開かれています。長く続いた習慣や大会(会議)スタイルを変えるのはそう簡単ではなかったはずです。

昨年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)は、経済、政治、社会、文化、環境などの分野での「改革深化」がメーンテーマでした。今年は「改革深化元年」とされていることからも分かるように、今年の「両会」は、その「改革深化」の継続という重責を担っていました。3月4日の記者会見で、全人代副秘書長の傳瑩氏は、「清く正しい大会としたい。大会に対する人民の監督を歓迎する」としました。3中全会で決定された「改革深化」の精神は、「両会」のスタイルにも徹底されていたわけです。

「民生向上」で民意を反映

3月5日、李克強国務院総理は全人代全体会議で、国務院(政府)を代表して「政府活動報告」(以下「報告」)を行いました。その中で、今年の政府活動は「改革深化」を原動力として、構造調整(経済のバージョンアップ)を改革深化の主方向、民生向上をその主目的とすると宣言しました。

「両会」直前、人民ネットがインターネットユーザー(回答者数は326万人)を対象に実施した興味深い調査「『両会』で審議を期待するテーマ」がありました。上位10テーマは、①社会保障(養老、身障者保護など)、②反腐敗(高官汚職、関連法整備、世論監督など)、③食品・薬品安全(品質検査、抗生物資、関連法律の不備など)、④所得分配(所得水準、賃金格差、賃金決定メカニズムなど)、⑤幹部作風(職権乱用、官僚主義、民衆による監視など)、⑥計画出産(社会扶養費の徴収・金額、養育費、関連政策など)、⑦環境保護(産業構造、環境意識など)、⑧教育改革(教育資源の不公平、教育水準など)、⑨住宅(住宅価格など)、⑩新都市化―でしたが、いずれも「報告」に織り込まれており、また、「改革深化」の目的である「民生向上」と関係している点で、「報告」は民意を十分反映していたと言えます。

無駄のない成長を目指す

さらに、李総理は「報告」の中で,今年の成長率を昨年同様の7・5%前後(中国語は「左右」)としました。「改革深化元年」の行方は,「7・5%左右」の成長に文字通り「左右」されることになります。「両会」期間中の3月6日の記者会見で,成長率7・5%左右の意味について質問を受けた楼継偉財政部長(財務大臣)は、「7・3%、7・2%でも7・5%前後ということだ。昨年,経済成長に最も貢献したのは雇用だ」と答えました。無駄のない成長を目指すということでしょう。

さて、支出総額15兆元(約255兆円)の今年の全国財政支出(案)の内訳を見ると、国防を除く支出額上位5位は、①農林水事務、②社会保障および就業(雇用)、③医療・衛生・計画出産、④交通運輸、⑤教育の順で、民生傾斜となっていることが分かります。「雇用の貢献」に言及した楼部長は、さらに、「GDPに占める比率で、昨年初めてサービス業が製造業を上回った。サービス業が多くの雇用を吸収したからだ」としています。予算編成からも、[改革深化]の方向を構造調整(サービス業の育成・発展など)、その目的を民生向上とした「報告」の一端がうかがえます。

成長率は7・5%前後に

成長率(7・5%前後/昨年実績7・7%)、消費者物価指数(CPI)上昇率(3・5%以内/同2・62%)、都市登記失業率(4・6%以内/同4・1%)、都市部新規雇用者数(1000万人/同1310万人)、財政赤字(前年比11・1%増、1兆3500億元=約22兆円)、「三つの1億人」都市化(①1億人の農業移転人口の都市定着化、②都市貧困地区1億人の住居改造、③中部地区1億人の都市住民化)、保障型住宅480万室の建設など。

 

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