縁起が良い「午年」の経済
(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト 江原規由
春節(旧正月、1月31日)も過ぎ、午(馬)年の2014年が始まりました。経済は3匹の馬がけん引する投資、消費、純輸出の「3駕馬車」と言われます。2013年の中国の経済成長率は2012年と同じ7・7%でしたが、消費の馬が大いに気を吐き、国内総生産(GDP)成長率への貢献率は50%(馬建堂国家統計局局長発表 1月20日)でした。内需主導の経済運営への移行を目指している中国にとって、その結果が出つつあるようです。
12年前はWTO加盟元年
中国では、馬というと、千里馬が有名です。1日に千里を走ると言いますから、現代流にいえば、高級スポーツカーということになるでしょうか。よく「馬到成功」という言葉を耳にします。仕事や活動が直ぐうまくいくという意味ですが、馬(午年)は、古来どこでも歓迎されてきました。
今年の馬にはどんな活躍が期待されるのでしょうか。まず、「世界貿易機関(WTO)加盟(2001年12月11日)元年」と言われた前回の午年(2002年)を振り返ってみましょう。2002年の10大経済ニュースは人民ネット(2013年1月17日)によると①1人当たり平均GDPが1000㌦程度へ②上海万博招致に成功③第16回中国共産党大会で小康社会の目標を提起④中国が世界最大の投資受け入れ国へ⑤WTO加盟で企業再編が進行⑥有名映画スターが脱税で逮捕⑦株式市場が不振⑧「南水北調(南方の長江などから水を引いて北方の水不足を解決)」などの重大プロジェクトに着工⑨中国‐東南アジア諸国連合(ASEAN)FTAが始動⑩腐敗で失脚した政財界要人が多出―でした。「世界の工場」や「メード・イン・チャイナ」などの言葉が日本の新聞紙面をにぎわせたのも12年前の午年でした。
12年の間に何が変ったか
十年一昔と言いますが、今年2月から12年前の経済ニュースを俯瞰すると、その多くが今日に引き継がれていることに気付かされます。例えば、当時のWTO加盟は、今日の環太平洋連携協定(TPP)参加ということになるでしょう。TPP参加(本誌2013年12月号参照)は、「第2のWTO加盟」とまで言われ、ちまたを大いににぎわせています。中国はTPPに参加していませんが、その是非や中国‐ASEANFTAの経験が日中韓FTA締結交渉などで大いに生かされるのではないでしょうか。企業再編では、鉄鋼、セメント、乳業などで「聯姻熱(吸収合併など再編ブーム)」が起こっており、例えば、乳業では、国務院(政府)が、現存の127社を吸収合併などにより87社にする方針を打ち出しています(本誌2013年10月号参照)。
1人当たりのGDP(2013年)は約7000㌦で、2020年の小康社会の実現に着実に近づいています。上海万博のテーマだった都市化(本誌2013年4月号参照)が大きく前進。都市化率は53・73%(2013年)となり、その過程での内需拡大による経済成長に大きな期待が寄せられています。
2013年、中国は米国に次ぐ世界2番目の投資受け入れ国であり、世界一の貿易大国になる見込みです(『京華時報』1月11日)。
脱税、腐敗などの不正に対して、現在、三公経費の節減徹底(本誌2013年6月号参照)や「打老虎、打蒼蠅(トラをたたき、ハエもたたく=腐敗は大物高官であろう小物であろうと徹底的に取り締まる)キャンペーン」で厳格な反腐敗を展開しており、その効果が期待できるでしょう。また、当時の「南水北調」と同じく、建設費2200億元(約35兆円)とされる渤海湾トンネル計画や月への有人着陸プロジェクトなど世紀の重大プロジェクトは今も健在です。
ただ、「世界の工場」とされた中国は、今や「世界の市場」としての比重を増しつつあること、また、中国企業の対外直接投資が世界経済の新たな潮流として世界から注目されていること、そして、何より、「中国の夢」の実現という壮大な目標は12年前にはなかったことです。ちなみに、春節恒例の帰省ラッシュなどによる今年の「民族の大移動」は人民ネット(1月27日)によると、延べ36億人で、大きな変化はなかったのに対し、中国から日本への観光客が激増したのは、12年前にはなかった春節の変化と言えるでしょう。