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「軍三代」の恋愛模様『帥位』

文・写真=井上俊彦

 

中国の映画はこの10年ほどで大きく成長し巨大産業となりました。この間に上映はフィルムからハードディスクに、映画館は洗練されたシネプレックスに、チケットはスマホ予約に、そして作品も多彩になりました。観客層も映画を見るシチュエーションも変化し、ますます庶民の娯楽として定着してきました。このコラムでは、大ヒット作品、気になる作品をピックアップし、ストーリーのほか、映画にまつわる話題、映画館で見かけたものも含めて紹介していきます。映画を話題に、今中国の民衆の身近でフツーに起きていることをお伝えできればと思っていますので、お付き合いいただければ幸いです。

   

『太陽の少年』の次の世代の物語

全国人民代表大会が始まったこの日、北京市の西南部、地元の人には長距離バスターミナルがあることで知られる六里橋に昨年末できたばかりのシネプレックスで、少々珍しい映画が上映されていました。最初はタイトルからアクションものかと思って見に行ったのですが、実は人民解放軍関係者の住むコミュニティーで育った若者たちの恋愛模様をコミカルに描いた作品でした。

栄北極(スン・ジュンシェン)は、軍関係者が住むコミュニティーで育った若者たちのグループH-CLUBのリーダー。音楽好きの周末(ウー・ピンジュン)らの恋愛を成就させるため奮闘していますが、そんなある日、子どものころからのライバル雷子(孫雷)が米国留学から帰って来ます。実は北極は以前彼に中国将棋で手ひどくやられたことがあり、それが今も心に暗い影を落としていました。「お前は永遠に脇役だ!」と言い放つ雷子に対して、雪辱したい彼は叔父に中国将棋を習う一方、ある作戦を考え出しますが……。

軍関係者コミュニティーで暮らす若者たちの生活というと、チアン・ウェン(姜文)監督の『太陽の少年』(陽光燦爛的日子 1994)を思い出しますが、あの作品の登場人物たちが「軍二代」だとすれば、今の若者は軍三代ということになります。物語の中でもみんなが『太陽の少年』を見るシーンがありました。この作品は私が中国映画を見始めたころに強烈な印象を残した作品でしたが、もうそんなに時間がたったのかと感慨深いものがありました。

上映後に舞台あいさつが行われ、監督と主演俳優らが観客と交流した。彼らが司会者の質問に答えて作品や撮影秘話を語るだけでなく、お楽しみ抽選会があるのも中国独特だ。

若い才能を発見する楽しみも

低予算で画面的には派手さもなく、ストーリー的にはほぼ想像通りの展開で、正直ここでみなさんに特別強調して紹介したいものはなかったのですが、物語の背景には興味深いものがありました。例えば登場人物ですが、米国留学から帰って来る人物がいたり、リタイアした叔父がネット株取引の達人だったり、仲間で起業する話が出たりと、日本のメディアで見られる人民解放軍のイメージとは大きく違っていて、興味深いものがありました。

また、キラリと光る出演者もいました。音楽と“ほら”が大好きな周末を演じたウー・ピンジュンは、作品全体の音楽も担当していますが、これがなかなかよく出来ていました。そして、メンバーの一人・婧婧を演じたルー・ミンシュエはとりたてて美人というわけではありませんが、演技もダンスも素晴らしく、英語もネイティブ(1999年生まれのカナダ華人)発音。北京電影学院の1年生だそうで、今後が大いに期待されます。大作ではない作品鑑賞では、こうした発見も楽しみの一つです。

上映後に監督らによる舞台あいさつがあるということで、200人以上入る大きなホールは満員でした。後で分かったのですが、監督を応援する人たちがチケットをまとめ買いして、コミュニティーの人々を招待する、いわゆる「包場」が行われていたようです。客席にはお年寄りの姿も多く見られました。そして、舞台あいさつの中では、何度か「愛国」の2文字が聞こえ、そのたびに拍手が起こり、やはり普通の舞台あいさつとは少々異なった雰囲気はありました。

最近映画館のロビーで見かけるようになったのがこの「ミニ・カラオケボックス」。ヘッドホンを使ってカラオケやゲームが楽しめるが、ケータイで決済のため係員などはいない。 3月8日は国際婦人デー、ケーキを売る店では「女王デー」にプレゼントをと呼びかけている。

 

 

【データ】

帥位(H-CLUB)

監督:チャオ・ヤン(趙楊)

出演:スン・ジュンシェン(孫隽聖)、ワン・ズオ(王祚)、ウー・ピンジュン(呉品醇)、ルー・ミンシュエ(陸敏雪)

時間・ジャンル:102分/101分/愛情・コメディー

公開日:2017年3月3日

 

恒業国際影城・六里橋IMAX店は、開発著しい市南西部にできた「銀座」の名を持つショッピングモール内に昨年末オープンした。
同シネプレックスは、オープンしたばかりの頃は人影もまばらだったが、春節を経て大勢の人であふれるようになった。春節に話題の映画を見るため初めて利用して会員になった人も多いのだろう。

恒業国際影城・六里橋IMAX店

所在地:北京市豊台区万豊路89銀座和諧広場ショッピングセンター5階北側

電話:010-63268070

アクセス:地下鉄9・10号線六里橋下車、A口を出て高速道路を地下歩道で渡って左に進むと前方に銀座和諧広場ショッピングセンターが見える、徒歩5分

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2017年3月7日

 

 

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