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黄軒がアクションに挑戦『非凡任務』

文・写真=井上俊彦

中国の映画はこの10年ほどで大きく成長し巨大産業となりました。この間に上映はフィルムからハードディスクに、映画館は洗練されたシネプレックスに、チケットはスマホ予約に、そして作品も多彩になりました。観客層も映画を見るシチュエーションも変化し、ますます庶民の娯楽として定着してきました。このコラムでは、大ヒット作品、気になる作品をピックアップし、ストーリーのほか、映画にまつわる話題、映画館で見かけたものも含めて紹介していきます。映画を話題に、今中国の民衆の身近でフツーに起きていることをお伝えできればと思っていますので、お付き合いいただければ幸いです。

 

犯罪ものが「かぶった」連休

清明節3連休(4月2~4日)に向けて、3本の犯罪ものが一斉に公開されました。日本の東野圭吾原作の小説『容疑者Xの献身』を中国で映画化した『嫌疑人X的献身』、シュー・ジンレイ(徐静蕾)監督による潜入捜査官記憶喪失ものという『ボーン・アイデンティティー』風作品『綁架者』、そしてこれまた潜入捜査官もので、超売れっ子俳優ホアン・シュアンが潜入捜査官に扮して国境をまたぐ麻薬組織と戦うアクション『非凡任務』です。偶然でしょうが、似たような作品が並ぶのはちょっと残念に感じます。せっかくの連休で、家族連れも多い時期ですからもう少しバラエティーに富んだラインナップの方がよかったかもと感じました。

その3本の中から、今回は『非凡任務』に注目してみました。中国南部の雲来市(架空の都市)の警察官・劉浩軍(ホアン・シュアン)は上司の李建国(ズー・フォン)の命を受け林凱の偽名を使って麻薬売買グループに潜入します。そして親分をわなにかけ取り引きの現場を警察に急襲させる一方、現場で取引相手を助け、それをきっかけに国境をまたぐ麻薬組織への潜入に成功します。林凱はこうして巨大組織のボス老鷹(ドゥアン・イーホン)に近づきますが、実は老鷹は李建国との間に深い因縁を持つ相手だったのです……。

さすがは香港のベテラン監督らしい豪快なアクションで、とことん凶悪な組織の人間たちも登場するなど、圧倒されました。さらに、大陸部の映画ではこれまであまりなかった、警察組織の中の裏切り者なども登場し、ハラハラ・ドキドキ感を高めています。犯罪やアクションに関する新たなアイデアも随所に見られ、驚かされました。再生古紙に現金を、木材の中に麻薬を隠すやり方は斬新でしたし、迫力の銃撃戦や爆破シーンに加え、アパートなど建物の中をバイクでぶっ飛ばすアクションも目を見張るものでした。昨年は『メコン大作戦(湄公河行動)』が大ヒットしましたし、黒竜江省を舞台にロシアの犯罪組織と戦う『我的爺爺特工』(サモ・ハン・キンポー主演)もありました。国境をはさんだ犯罪アクションはこれからも多数制作されそうです。

幅広い役をこなす新時代のイケメン

さて、主演のホアン・シュアンは、演技力のある若手二枚目俳優として知られますが、チャン・ヤン(張楊)監督の『無人駕駛』(2010)でワン・ルオダン(王珞丹)の相手役を演じたあたりから注目されだしたように記憶しています。アン・ホイ(許鞍華)監督の『黄金時代』(2014)で作家の駱賓基に、ロウ・イエ(婁燁)監督の『推拿』(2014)では目の不自由なマッサージ師に扮しました。ドラマでも引っ張りだこで『ミーユエ王朝を照らす月(芈月伝)』『女医明妃伝~雪の日の誓い~』などの古装ドラマからツンデレのフランス語通訳に扮した『親愛的翻訳官』まで幅広く起用されています。先日はチャン・イーモウ(張芸謀)監督の新作『長城』にも出演しました。そして今回は犯罪アクションに挑戦し、体を張って意外にマッチョな一面を見せてくれています。まだご存じない方はぜひ記憶しておきたい俳優です。

 一方、敵役のドゥアン・イーホンもワン・チュアンアン(王全安)監督の『白鹿原』(2012)など文芸作品からラブコメ、アクションまでこなす守備範囲の広い俳優。こうした種類のアクションでは2010年公開のガオ・チュンシュー(高群書)監督の『西風烈』が思い出されます。西部地域の砂漠を舞台にした犯罪アクションで、この時はニー・ダーホン(倪大紅)と組んで主人公の警察官を演じましたが、今回は南部国境地帯を舞台に非情な麻薬組織のボスを演じています。とことん執念深い一方で、どこかもろさを感じさせる犯罪組織のボスを好演しています。

さて、清明節連休が終わるともう北京国際映画祭がすぐ始まります(16日開幕)。今年は是枝裕和監督作品、三谷幸喜監督作品など多数の日本映画が上映されることが話題です。すでにチケットが発売されていますが、多くの日本映画が発売まもなくソールドアウトの人気です。次回は、映画祭で上映される中国映画からユニークな作品を紹介できればと思っていますので、お楽しみに。

5ホールと規模は大きくないが、ゆったりと高級感ある造りになっている

このホールでは、電動リクライニングシートを採用している。また音響効果も抜群で、中国の映画館設備の進化も感じさせる

 

【データ】

非凡任務(Extraordinary Mission)

監督:アラン・マック(麦兆輝)、アンソニー・プン(潘耀明)

出演:ホアン・シュアン(黄軒)、ドゥアン・イーホン(段奕宏)、ラン・ユエティン(郎月婷)、ズー・フォン(祖峰)

時間・ジャンル:122分/犯罪・アクション

公開日:2017年3月31日

 

酷国際影城(ミラクル・シネマ)日壇店は、日壇国際ホテル東側に昨年秋開業した新しいシネプレックスで、地下の美食街にある

 

米瑞酷国際影城・日壇店

所在地:北京市朝陽区神路街39号B座地下1階

電話:010-85306797

アクセス:地下鉄6号線東大橋下車、A口を出て東大橋路を南に、芳草地北巷を西に向かって徒歩14分 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2017年4月10日

 

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