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中日経済交流の現場から見たヒト、モノ、カネの流れ

 

買って帰る土産がない


 

輸出入の窓口となっている上海港のコンテナバース 

   日本の大学で教えている中国人の凌慶成先生は、春休みの中国帰省に、何か土産を買おうとしたが、最終的に手ぶらで帰ることにした。1989年に日本へ留学に来て、20年近くの間に何回、東京と北京を往復したかわからないが、これまではいつも土産を買って帰っていた。

 

しかし今は、電器製品なら、時には北京での発売が東京より数週間早いし、食べ物も北京の日系コンビニで買った方が便利に決まっている。凌先生だけでなく、飛行機に乗っているほかの中国人乗客も、託送荷物はどんどん小さくなり、むしろ空港の免税店で土産物をたくさん買ったため、手荷物の方が多くなった。

 

また北京から洋服や食べ物などを買って東京に帰ることも少なくなった。20年前は、東京のデパートはもちろんスーパーにも、あまり中国製のものはなかったが、今は中国製品をまったく取り扱っていない店のほうが珍しいぐらいだ。

 

凌先生の日本人の教え子たちは、大学を出てしばらくすると中国へ赴任する人が多い。彼らは年末などに日本に帰り、OB会などを開いて、中国でのビジネスについて語る。21世紀に入ってから、中国での経済規模が一兆円を超えた企業がボツボツ出てきた。中国で一兆円規模の大企業に成長するのは、並大抵ではない。

 

電器製品だけでなく、発電機、高速鉄道の車両など、日本の製品は中国でよく使われており、日系企業が生産した洋服、食品などは日本に逆輸入されている。両国の大都会では、中国製、日本製を問わず、ありとあらゆる商品がそろっており、両国の貿易高も2000億ドルを超えた。規模が一兆円を超える日系企業が中国で続々と生まれる日もそう遠くはないだろう、と凌先生は考えている。

 

「一瞬の美」から「一生の美」へ


 

資生堂の宮川勝中国総経理
 資生堂(中国)投資有限公司の宮川勝・総経理の机には、各種の書類のほかに十数種の化粧品が並べてある。「現在発売中の製品のほか、これから出そうとしている製品もいつも机の上に置いておき、ときどき眺めています」と、宮川総経理は言う。

 

2007年の売上げは約600億円で、04年の2倍。中国では飛躍的に売上げを伸ばした。しかし、中国の化粧品市場の規模は、人口が日本の10倍あるにもかかわらず、1兆5000億円の日本市場の規模より小さい。2010年になっても一兆円そこそこだと見込まれている。中国の化粧品市場は、むしろこれから本格的な開拓段階に入る。

 

中国での市場開拓は、日本でのマーケティングとはまったく違う。日本では客にいちいち化粧の方法などを教えなくても、たいていの人は基礎知識を持っているが、中国ではそうではない。生活は豊かになり、美しさに対する意識が急速に高くなってきたものの、化粧の方法などはいまだに十分に普及していない。

 

資生堂は、化粧品をただ売るだけではない。まず契約店や専売店の従業員に化粧方法、接客方法を徹底的に教える。販売員を十分教育したうえで、客に化粧の方法を教える。2007年には、店舗数は2500店に達した。

 

中国のデパートの中にある資生堂のカウンター(写真・劉世昭)

  「5000店舗まで一挙に増やそうと思ったらすぐできるが、我々はクォリティーを大切にしている。本当に商品知識や接客方法を身につけてもらってから、初めて販売契約を結びます」と宮川総経理はサービスの質にこだわる。

 

資生堂の従業員が販売先まで出張して、化粧方法、接客方法を教えることがあるが、販売員に上海の本部まで来てもらい、そこで研修を重ねることもある。ある程度の品質の化粧品が普及すると、あとはサービスがものを言うようになる。「従業員が化粧に関する知識を持っているかいなかが、お客様にとっては、長くその店から買い物するかどうかにかかわってくるのです」と宮川総経理はいい、2008年には3000から4000店舗まで、ゆっくりと展開していこうとしている。

 

舶来の化粧品は、北京、上海などの大都会のデパートで買えないことはないが、舶来品だけでは中国の消費者の需要を満たすことはできない。そこで資生堂は1994年から「資生堂オプレ」という中国ブランドを開発し、2006年には「資生堂ウララ」を発売した。「オプレ」は、2007年までに販売量を15倍に増やし、「ウララ」も確実にシェアを伸ばしているという。「これからも中国で開発し、中国で生産する資生堂製品を広く中国消費者に提供して行きます」と宮川総経理は、同社の戦略を語った。

 

中国の女性たちはこれまで「一瞬の美」を追求してきたが、徹底的な販売員教育と中国現地ブランドの開発生産によって、これからは「一生の美」の追求へと転換することになるだろう。

 

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