「エコ都市」がキーワードに
龔海瑩=文
窓を開けると真っ青な空が望め、さわやかな風が草の香りを運んでくる。……それは農村の光景でも別荘での体験でもなく、ここ上海の近未来の姿なのである。「生態都市・上海」が実現すれば、市民の誰もがこうした体験を享受することになる。
中国古代の思想家、荘子は「天地も我と並び生じ、而して万物も我と一たり」と語っているが、上海万博が提唱する「生態都市」の理念も荘子が説く伝統的な自然観「善待自然、天人合一」(自然を大事にし、天と人とが一体になる)に通うものがある。都市化が急ピッチで進む現代に、どうしたら自然と共生でき、都市と地球とがウィンウィンの関係になれるのか。その回答を万博会場に探ってみた。
建設は省エネを第一義に
万博会場は上海の中心部、黄浦江の両岸に位置する水辺に建設された。面積は5.28平方キロ。黄浦江に架かる南浦大橋と盧浦大橋の間に広大な敷地が広がっている。ここはもとは汚染がひどかった工業地区で、万博会場の建設にともなって工場は上海の中心部から移転し、環境の整備が行われて、汚染のない環境保全区に生まれ変わった。
上海万博の会期6ヵ月間には延べ7千万人の来場者が見込まれているが、1日の平均来場者数を45万人とすると、1日に1平方キロあたり10万人が会場内にいることになる。この状況に基づいて、万博事務協調局は会場の全体的な設計における緑地の割合、パビリオンの大きさなど基本的な建設プランを厳格に規定した。復旦大学の王祥栄教授の紹介によると、建設プラン上での全会場面積に占める緑地の割合は5分の1で、この高い比率の緑地と水域を擁する会場内には600種類の植物が植えられ、さまざまな園林景観を作り出している。緑地を多くすることと同時に、風の通り道での緑化も考慮された。洪水防止の配慮もなされており、黄浦江の周辺をどのように環境整備するかという総合計画の下に、上海市全体の都市発展計画の必要に基づいて設計された。
実際の建設過程でも、グリーンな素材と環境保護技術の導入が最重要視され、すべての工事で環境の保全が第一義とされた。万博閉幕後も残される万博センターは全米グリーンビルディングの建築基準を参考に建設された。エネルギー、水の利用、室内の空気の質、リサイクル可能な建設資材など多方面で、環境への配慮が行き届いている。例えば大会議場の設計では、天井のガラス屋根からの自然光によって照明を補うようになっている。また壁には断熱材が使われ、外壁の表面は強い日射によって壁面の温度が上がらないよう放射分離の処置が施されている。
後灘公園は工場や倉庫の跡地に作られたため、周辺には工場や船着場の遺構が残っているが、公園建設に当たっては、そうした遺構を水質浄化施設や雨水貯蔵施設に改造した。後灘公園は自然の生物が多く棲む生物多様性促進の基地としての役割を果たすまでになった。
各パビリオンの建設でも、環境への配慮が貫かれた。自然通風の採用、エネルギー節約型断熱壁面に代表される新型エネルギー節約型建築資材の応用などが積極的に行われた。用水の節約も各パビリオンが積極的に進めている。雨水を収集・処理して館内の清掃や消防用に、また草花や木々への水やりに、再利用している。
理念をより精確なものに
周知のように、都市は古代から中世を経て、産業革命と工業化の時代を迎え、さらにポスト工業化社会の時代に差し掛かっているが、多かれ少なかれどの都市も重大な「都市病」に陥ってしまっている。どうしたらより良い都市が建設でき、都市住民の生活の質を高めることができるかは、人類が21世紀に直面した重要な課題である。1970年代に「生態都市」の概念が論じられ始めてから今日まで、都市における生態環境建設をどう進めるかの議論がずっと続いている。
上海万博のテーマは「より良い都市、より良い生活」である。どのパビリオンでもエネルギーを節約して二酸化炭素の排出量を減らすとともに、太陽エネルギーや水力、風力などのクリーンエネルギーの導入を積極的に進めた。ベストシティ・プラクティス区にあるドイツのフライブルク・モデルケース館の「花園景観」、同じくドイツのブレーメン・モデルケース館の「都市交通ソリューション」、フランスのパリ・モデルケース館の「グリーンウォール」、そして上海モデルケース館の「エコハウス」、成都の「活水公園」、蘇州の「古い町の保護とその新生」……。万博テーマ館には目下世界最大のグリーンウォールが造られているが、科学技術の発展に伴って、こうしたグリーンウォールは都市の各方面でさまざまな配置と利用が行われるようになろう。会場内に展示された各「生態都市」の展示は今後、世界中のより多くの人々に大きな影響を与えていくに違いない。
王教授は次のように語っている。「都市における生態系の調和と良性化は、ただその一つの都市にかかわるだけでなく、その都市が存在する区域、さらには全世界の現在と将来の人類の生存と発展にかかわることなのです。各国でいま、都市生態系の研究が進められていますが、その中では、都市における自然生態的要素だけでなく、技術的・物理的要素、さらには社会的要素まで含めた総合的な研究が必要になってきています」
王教授はさらに「今回の万博での展示はたいへん良いと思います。都市での物質代謝の過程、情報のフィードバック過程、生態の変化過程における完全度などに注意が払われ、また経済、社会とのかかわりから自然の調節機能の大きさや影響力についても確かな論考が行われています」と語った。
万博の開催を通じて上海は、都市の新しい中核部分と新しいエリアを獲得することになった。目下、上海は水環境、緑化などの生態建設分野でいちおうの形が整った環境保全都市の一面を持つと同時に、合理的な生態環境都市としてのネットワークを備え、長江デルタの中心都市として、さらには太平洋地域の中核都市として、第6のメガロポリス建設に向かって大きな歩みを進めている。万博を機に多くの人々が共有することになった「生態都市」という概念を、有形の物質的都市改造の面だけでなく、都市発展の理念と発展モデルをより精確なものにしていく中で、人類のより素晴らしい未来の生活に向けた追求が行われるようになれば、どんなにか素晴らしいことだろう。
人民中国インターネット版 2010年8月31日