上海の交通 より速くより便利に
孫玲=文
都市にあっては、交通は動脈も同じである。上海の現代的な大都市建設の過程でも、終始基礎的で先導的な役割を果たしている。交通は都市の現代化のレベルをはかるバロメーターであるだけでなく、都市の持続可能な発展のための重要な保証でもあるのである。この10年来、上海は、空港をはじめとする対外交通施設の建設、地下鉄を中心にした市内交通機関の整備、交通をスムーズに機能させるための情報システムの設置などの面で迅速な発展を遂げてきた。万博の開催が決まると、上海では交通関連全般の建設がよりスピーディーに進められた。それは上海市総合交通計画研究所技師長の朱洪氏が言うように「この10年の発展スピードはそれ以前の30年をはるかに超える」ものなのである。
10年で極めて大きな変化
2001年当時、上海の軌道交通の発展はまだ初歩的な段階で、地下鉄、トロリーバス、バスの公共交通が市内の全交通量に占める割合は17%に過ぎなかった。自転車が42%を占め、タクシーや自動二輪車は10%ほどで、市民の多くが徒歩と自転車で行き来していたのである。当時、タクシーの台数は4万台で、幹線道路の交通量のうちの約半分をタクシーが占めていたものの、客の乗車率は六割にも満たず、道路は有効的に利用されていなかった。市街区内の走行時速は20キロほどで、都市交通の効率は低く、交通秩序も混乱していた。
こうした現実が上海市政府に、公共交通機関の発展が市街区における最も有効的な交通整備につながることを悟らせた。タクシーを含む乗用車を上海市街区の主要交通手段にしてはならないということである。
2009年末時点での上海全市の幹線道路と都市道路(農道は含まない)の総延長は1万6071キロで、そのうち高速道路が767キロ(外環状線を含む)である。路線バスとトロリーバス・路面電車の路線距離は6745キロ、市街中心部に設けられたバスターミナルを中心に半径300メートルの円を描くと市街の93%をカバーできる。さらに、半径500メートルの円を描くと都市部の86%をカバーできる。
2010年5月の時点での全市の営業軌道交通路線(リニアモーターカーは含まない)の総延長は406キロメートルで、駅は264。駅を中心に半径600メートルの円を描くと都市部の25%以上の面積をカバーできる。軌道交通が都市部の居住区と職場をむすび、都市部人口の42%がこの交通機関を十分に利用していることが分かる。
2001年の状況と比べると、10年間にきわめて大きな変化が起きたことは誰の目にも明らかだ。
万博誘致が発展の契機に
万博の誘致に成功してからの8年間、上海市の交通整備計画と発展は、万博開催期間の交通運営をどう保障するかという課題と同時進行で進められてきた。それでは、上海市のこの10年来の交通の発展は、すべて万博開催のためだったということなのだろうか。それには朱技師長の次のような説明が正しい答えになるだろう。
「万博関連の交通施設建設の特徴は、それが万博のためだけに行われたものではないということです。ただ、万博のために、関連の建設は計画を繰り上げて完成されました」
例えば都市部の黄浦江に架かる四つの橋と川の下をくぐる12のトンネルのうち、中環状高速道路の上中路トンネル、龍耀路トンネル、打浦路トンネル(複線)、西蔵路トンネルは万博のために掘られたトンネルである。地下鉄のトンネルでは、4号線、7号線、8号線、9号線の4本のトンネルは万博会場と結ぶために掘られた。同時に万博専用線の13号線が敷設され、この5本の地下鉄の15の駅は万博会場の出入り口とつながっており、万博のために造られたと言っていい。多くの交通インフラが万博開催にあたっての交通需要を保障するために建設されたのは事実である。
万博開催を契機に上海市の交通手段は大々的に更新された。上海市交通運輸及び港湾管理局の黄暁勇氏の紹介によれば、万博を迎えるにあたって、各種交通手段が「衣替え」をしている。バス・トロリーバスは4717台が新しいものに変わり、古い車種も2964台のエンジンを総合修理した。11026台のボディーが塗りなおされ、またボディーを新しくしたバス・トロリーバスは5115台。運送用軽自動車(日本の「赤帽」に相当)も2281台のボディーを塗りなおした。新車種に更新されたタクシーは10110台とのこと。上海市の交通のハード面が大いに改善されたのである。
万博後の交通「青写真」
万博閉幕後、上海市内の交通量は減るのかどうか、また上海市の交通はどんな方向に向かって発展していくのか、多くの市民が関心を寄せている。いわゆる「ポスト万博」の上海交通事情である。
専門家は次のように分析している。万博開幕後数カ月間のデータから見れば、どの交通機関の利用客も増加しており、人々が多く外出するようになっていることがはっきり見て取れる。都市の規模が拡大すれば、あらゆる交通機関の利用率が高まるため、万博閉幕後に上海市内の交通機関利用者が大幅に減ることは、まず考えられない。
それならば、上海の交通は今後も不断にその規模を拡大していくのだろうか。朱技師長は「世界のどの大都会でも、軌道交通機関を主とした集約的な交通網整備による発展パターンに沿っていない都市はない」として、上海もまたこの同じパターンに沿って国際的な大都市としての交通を発展させていくに違いないと予測する。
しかし、パターンは同じでも、どう進めるかは各都市によって異なる。上海では、地上交通の混乱はかなり長期にわたって存在するかもしれない。このためタクシーが引き続き必要とされよう。上海でも、自家用車をはじめとする乗用車の台数は年々増えている。しかし乗用車の所有台数が増えたことが同時に市内交通量の増大に結びつくとは限らない。乗用車台数の増大は、最初は交通量の増大をもたらすが、ある一定段階まで増大すると、駐車場や停車場所の問題が深刻になるとともに、道路のいっそうの渋滞をまねくので、乗用車での出退勤を控える人々が多くなり、乗用車は主として休日のレジャー用に使われるようになる。そうした状況を見越して乗用車の交通管理政策をより明確に打ち出し、市内交通全体の秩序が保たれるよう導かなければならない。
交通政策の立案にあたっては、上海ならではの個性的な発展にも十分留意する必要がある。交通機関がひと通り整い、全交通量が一定のレベルに達したあとは、どうしたら市民により快適な生活空間を提供できるかに関心が振り向けられるべきだろう。
朱技師長は次のように語ってくれた。「これまでずっと上海では『ゆっくリズム』の交通がないがしろにされてきました。都市はその発展の一定段階に達したら、交通の質の問題を十分に考慮する必要があります。徒歩での外出は交通手段としてたいへん重要で、安全、快適であるばかりでなく、健康上にも良い効果をもたらします。多くの市民が安心して徒歩での外出を楽しく行えるような配慮が街の隅々にまで行き渡って欲しいと願っています」
そのためには歩道や自転車道の整備と管理が必要になってこよう。調査によると、家の近くの20分以内で行ける所へは自転車を使おうという理性的な交通感覚が市民の間に根付き始めているという。高速道路が整備され、主要な道路が立体交差になったあとには、従来の自動車道には自転車道や歩道を設ける必要がある。そうすれば、「ゆっくリズム」交通の発展にもつながるだろう。専門家は次のように発言している。
「全社会がだんだんとそうしたあり方を承認するようになっていくと思います。それはグリーンで低炭素な生活という観点からしても都市交通の発展の一つの大きな方向なのですから」
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