中国人民外交学会副会長・黄星原
昨年12月16日、自民党は3年前に失った政権を民主党から奪回した。同月25日、安倍内閣は日本国民の期待とアジア隣国の憂慮の中で誕生した。これは不安定な危機の収束なのか、あるいはもうひとつのパンドラの箱が開けられたのか、人々は見守っている。日本経済の回復と振興と、隣国との関係の安定化、修復は新内閣の課題であり、また再び首相に選出された安倍晋三氏が繰り返し強調してきた最大の課題だ。
それでは、安倍氏はこれら2つの課題を解決できるのだろうか。国際社会は少なくとも、自民党勝利のその日の記者会見における安倍氏の発言からはこうした希望を見出せず、逆にある種の懸念を感じた。幸いにその後、釣魚島への公務員常駐をしばらく延期するという安倍氏の態度表明は、中日両国間に横たわる緊張感をさらにエスカレートさせることはなかった。
挑発を外交選択肢にせず
中国はこれまでの発展で、周知の成功経験がある。それは発展こそ根本的な道理であり、安定がいかなるものにも勝るということだ。しかし、中国にも尊厳があり、中国の民意も民意なのだ。少しもはばかるところのない挑発行為に対しては、中国政府もやむを得ず対応しなければならない。中国は周辺諸国との領土・領海をめぐる紛争処理において、3つの原則を堅持している。1つ目は交渉による紛争解決。これによって、中国は陸上、海上の国境画定、領土紛争を首尾よく解決してきた。2つ目は紛争の棚上げと共同開発だ。これは鄧小平の主張だった。新中国が成立して数十年間、日本を含む周辺諸国と互いにもめごとのない関係を維持してきたのはこの原則によるものだ。3つ目は「人が私を侵害しなければ、私も人を侵害しない、もし人が私を侵害するなら私も人を侵害する」ということだ。これは毛沢東が提起したもので、挑発行為を仕掛け、意図的に係争中の領土の現状を変えようとする国々に対処するための原則だ。日本はもともとこのような国ではなかったが、右翼勢力に牛耳られた結果、このような国になってしまった。非常に残念なことだ。釣魚島などの領土問題について中国の切り札は何かと質問する人がいるが、上述の原則からすでに答えは自明だろう。
再び「氷を割る」勇気を
安倍内閣は日本経済が低迷し、周辺諸国との関係が最も悪い時期に誕生したために、今後の政権運営は順風満帆とは行かず、チャンスと試練が共存するだろう。民主党の内外政策の失敗は自民党に大きな余地を提供した。自民党は経済を上向かせ、周辺国との関係を改善すれば得点を挙げられるからだ。自民党はこのチャンスを大切にしてほしい。しかし、問題は20年にわたる経済低迷を経験して、日本の政界に大きな変化が生じ、「右寄りの保守派」がすでに「ひとつまみ」と形容できない状態になっていることだ。自民党は民衆の期待に背かず、日本を引き続き平和的発展の道を歩むようにリードして行けるのだろうか。
安倍首相は1人の政治家として妨害要素を排除し、勇敢に氷を割って行けるのだろうか。期待しつつ、4つの提言をしてみたい。
第1に、日本経済に存在する構造上の問題を解決するためには、米国の金融緩和政策を学ぶだけではまだ不足だということだ。危機を根本的に解決する方法が見つかる前の段階では、中国の経済発展の追い風に乗るのが近道であり、隣国との関係をぎくしゃくさせることは決して賢明な選択ではない。隣国との共同利益というパイを共により大きくすることは、日本にとって、「百利あって、一害なし」だ。
第2に、日本にとって、日米同盟は非常に重要だが、「遠方の水は現在の渇きをいやすことができない」ということだ。アジアに位置している日本は、地理的に米国の51番目の州になることはできない。米国、アジアとの関係のバランスをとりながら、隣国のために橋を架け、隣国との間に溝を作らず、外交上、相対的に独立を維持し、中日、日韓、日ロ関係を速やかに修復し、アジア太平洋地域の安全を擁護する責任を共に担うことは、日本自身の安全保障であり、それによって国際社会でも独特な役割を果たすことができる。どうしてこのような楽しいことを喜んでしないことがあろうか。
第3に、真の政治家は、かつて自分が達成し、歴史的に正しいと証明された業績を後悔しないものだ。安倍首相が前回の任期中に残した政治的な遺産はさほど多くないが、靖国神社を参拝しなかったことと「氷を割る旅」を決意したことは人々に深い印象を残した。氷をより厚くさせることは、並みの無責任な政治屋でも簡単にできるが、「氷を割る」という勇敢な行動は有能な政治家でなければできない。また、首相の靖国参拝は、国のリーダーが率先して歴史問題上の悩みを背負い続けることにほかならない。この点については日本のメディアと国民でさえ疑問を抱いており、周辺諸国と国際社会の反応は言うまでもない。
第4に、対外強硬姿勢は、日本でもほかの国でも、一部の人のお気に入りのやり方だが、それには活路はない。それが民意に追随する尻尾だとしたら、結局は民衆に捨てられてしまう。日本の希望は経済振興と平和的発展にある。知恵のあるリーダーなら、身の回りの極端な民族主義者の騒ぎを特に警戒しなければならない。大きな間違いは往々にして小さな判断ミスから始まるからだ。
日本の国民は新政権に期待している。アジア諸国は日本の進む方向に注目し、国際社会も、日本の平和、中日協力、東アジアの協調を望んでいる。安倍新首相、頑張っていただきたい。
(より詳しい内容は本誌2013年2月号をご覧下さい)
前回 安倍政権で不確定要素多い中日関係
新政権誕生でどうなる中日間の“経冷”
安倍政権誕生へ、中国側は両国の今後に強い関心
逆風の中で問われる中日友好
人民中国インターネット版 2013年1月5日
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