新興国集団のトップを走る中国の役割
G8の拡大会議出席のため日本を訪問した際、インド、ブラジルなどの首脳らと会談した胡錦濤国家主席(右から2人目)(新華社) |
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五輪招致には、経済的成長はいうに及ばず、政治的安定、文化的成熟度、世界におけるプレゼンスの向上、貢献の多少などが決め手となるわけですが、そうした視点で世界を眺めたとき、五輪招致に手を上げるかどうかは別として、今後の五輪開催国として十分その資格あるのがBRICsなど新興国(注1)といえるでしょう。
こうした新興国がその経済力を背景に世界での発言力を強めていることは、7月に日本で開催された洞爺湖サミット(G8)(注2)でも遺憾なく発揮されました。胡錦濤国家主席は、同じくG8の拡大会議出席のため訪日した新興国のインド、ブラジル、南ア、メキシコの首脳と会合し、「中国を含めこの5カ国は発展途上国ではあるが、世界人口の52%、世界のGDPの12%を占めている。5カ国の協力強化は各国の発展のみならず、『南南協力』の強化、『南北対話』の推進、人類の平和・発展への推進にプラスだ」と指摘しています(注3)。
トップランナーとしての中国
新興国は世界経済の発展に大きくかかわっていますが、そのトップランナーは、今や世界第4位の経済規模をもつ中国といってよいでしょう。新興国は経済的発展が共通項ですが、その原動力となると大いに異なります。
BRICsを例にとると、ロシアとブラジルはそれぞれ原油や天然ガス、鉄鉱石など豊富な天然資源を有しており、また、インドはIT産業やサービス産業が発展しています。中国はフルセットの産業構造をもっており、産業構造はバランスがとれています。27万もの外資系企業を受け入れた実績は、新興国の中で中国をおいて他にはありません。
また、GDPに占める消費支出の比率をみても明らかな違いが見てとれます。ブラジルが80%、ロシア66%、インド63%であるのに対し、中国は40%で、ブラジルの2分の1の水準となっています。投資と輸出の拡大で経済成長を遂げてきた中国は、最近、消費拡大を成長の牽引力にしようとしていますが、こうしたところにもその根拠があるといえます。
新たな経済文明の構築に向けて
新興国は、経済の発展段階的に見れば、先進国と発展途上国の中間に位置するといえます。発展途上国であれ、新興国であれ、先進国との間には、今日の世界的課題である資源、環境問題などへの対応で意見が異なるところが少なくありません。そうした問題の多くが過去、現在、そして、これからの世界経済の進展に大きくかかわっているわけです。
胡錦濤国家主席は、「南南協力」の強化と「南北対話」の推進を力説しましたが、世界経済においてプレゼンスの増す中国が、今後、新興国との協力関係をいかに構築し、世界経済の発展に貢献するうえでリーダーシップをどのように発揮していくのかに世界の関心が集まろうとしています。
同時に新興国は、中国の強力なライバルでもあります。例えば、インドとは、IT分野やM&A戦線において競合関係が増してくると予想されます。また、ロシアは2006年にシンガポールと「経済特区」に関する経済協力の覚書に署名しましたが、今年6月、ロシアを訪問したリー・クアンユー顧問相はその「経済特区」を訪問、その折、シンガポールと中国政府が共同プロジェクトとして1994年に蘇州に建設した「蘇州工業園区」(日系企業も数百社進出済み)を引き合いに出し、ロシアの「経済特区」へのシンガポール企業の進出の可能性に触れています。これは一例ですが、今後、外資企業の受け入れなどで中国と他の新興国は、強力なライバル関係になることは確実な情勢です。
これをオリンピックの陸上競技に例えれば、長距離走で先頭集団(先進国)のすぐ後を走る新興国集団のトップを行く中国は、後ろを振り返って牽制しつつ、前に出る機会をうかがうランナーといってよいでしょう。
BRICsなど新興諸国の中には、時代は異なりますが、かつて悠久の文明を築いた国が多いようです。中国の黄河文明、インドのインダス文明、メキシコのマヤ文明、アステカ文明などです。こうした文明は、後世の発展に多大な影響を及ぼしてきました。
21世紀の今日、世界が直面している「発展と環境」の両立といった難題を解く新たな「経済文明」を構築するうえで、新興国、とりわけそのトップランナーたる中国への世界の期待は大きいといえるでしょう。0809
注1 | BRICsはブラジル、ロシア、インド、中国のこと、なお、BRICSともいう。この場合、大文字のSは南ア(小文字の場合は複数)を表す。新興国とはBRICSほか、ベトナム、インドネシア、メキシコなど。 |
注2 | BRICsのうち、G8に属するのはロシアのみ。 |
注3 | BRICS(南アを含む)5カ国で2007年の経済成長率の約4割を押し上げたとされるなど、世界経済の発展に大きく貢献している。 |
人民中国インターネット版 2008年10月