People's China
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連携強化へ向かう地域経済

 

江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。

米国のサブプライムローン問題、原油・食糧価格の上昇など難題を抱え、世界経済が混沌としています。10年前のアジア通貨危機以上の激震といってよいでしょう。

7年前の2001年、中国は念願だった世界貿易機関(WTO)に加盟。以後、中国経済の国際化が加速するわけですが、今年7月、「WTOドーハ・ラウンド」交渉が決裂してしまいました。WTOは多国間での貿易ルールの構築、市場開放などを交渉する場です。その交渉決裂で世界経済の先行きはさらに不確実になりましたが、世界第3位の貿易大国となった中国にとっても、影響は少なくないといえます。

WTOドーハ・ラウンドに中国代表団の団長として参加した陳徳銘商務部長(大臣)は、交渉決裂を「悲壮的失敗」と表現、「当事国には深刻かつ複雑な要因があったが、あと一歩のところで決裂したことは極めて遺憾」(注1)と語っています。中国は、今回の交渉で調停役を買って出たほか、数々の意見を具申するなど、交渉妥結に向け大いに貢献したといわれます(注2)。

包括的な地域経済の連携へ

今後、世界貿易の新秩序の構築は、多国間交渉の場としてのWTOから二国間、国家・地域間、地域間など双務間のFTA(自由貿易協定)に比重が移ってくると見られます。

中国はこのFTA締結においても積極的な姿勢にあります(2007年時点で、発効または交渉中、交渉開始で合意するか共同研究中のFTAは16国・地域)。例えば、世界の成長センターとされる東アジアでは、中国は東南アジア諸国連合(ASEAN)とのFTAを軸に、域内各国・地域とのFTA締結に意欲的に取り組んでいます。最近の事例では、今年9月、シンガポールとのFTAが2年間の交渉を経て終結、10月には調印の見込みです。

東アジアには、EU(欧州連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)といった包括的な地域経済連携(東アジア共同体)は構築されていません(注3)。EUは2007年末時点で27カ国が参加し、共通の通商政策や単一の中央銀行、共通通貨のユーロを持っています。またNAFTAは米国、カナダ、メキシコが参加し、将来的には中米5カ国、中南米諸国を加えた25カ国によるFTAA(全米自由貿易協定)に発展する予定です。ASEAN+3(ASEAN加盟10カ国+中国、日本、韓国)の域内貿易比率(2007年)は38.8%で、これに豪州、ニュージーランド、インドを加えたASEAN+6では43.1%となり、NAFTAの41.0%を上回ります。

近い将来、域内のFTAが発展し、ASEAN共同体、東アジア共同体などの包括的な地域経済の連携が実現すれば、世界経済の安定的発展に大きく貢献することになります。

中国への期待値高まる

2007年11月20日、シンガポールで開催された「ASEAN+3」の10周年記念式典で、ケーキにナイフを入れるシンガポールのリー・シェンロン首相(左から7人目)と中国の温家宝総理(左から5人目)、日本の福田首相(左から6人目)ら各国の指導者たち(新華社)

この点でも、中国の役割は大きいと言えます。まず、中国と周辺諸国・地域との経済関係の発展が指摘できます。例えば、中国とASEANの域内貿易比率は21.5%で、日本とASEANの26.2%に拮抗しつつあるほか、アジア諸国との貿易(とくに輸入)を拡大している点です。2007年のASEAN・中国間の貿易総額は、2003年の3倍の1711億ドルに達しています。

次が、中国の地政学的位置です。南では、例えば、広西チワン自治区の中心都市である南寧で、毎年「中国—ASEAN博覧会」が開催されるなど、ASEANとの経済交流が活発化しています。また南寧からハノイまでは高速道路(180キロ)で4時間です。さらにシンガポール―昆明間鉄道連結プロジェクトの研究が進んでいるなど、中国南部とASEANとの経済一体化へ向けたプロジェクトが実質的に進んでいます。北では、例えば、黒竜江省とロシア極東との経済関係が拡大しており、日本、韓国を含めた新たな経済補完関係が構築される可能性が出てきたことが指摘できます(注4)。

西では、例えば、上海協力機構(SCO)の中心的主催者として、中国はロシア、中央アジアとの経済交流で有利な立場にあり、そして、東では、日本、韓国のアジアの経済大国と面しており、経済協力関係が拡大発展しています(注5)。目下、中日韓三カ国間にはFTAが結ばれていませんが、中日韓FTAは東アジアにおける包括的な地域経済連携を発展させるカギといえます。三国間には、農業分野などでの利害関係もありますが、締結に向け官民で研究が進められており、締結までの時間は縮まりつつあります。

北京オリンピックで中国に世界の目が集まりました。今度は、アジアにおける経済連携に世界の関心を喚起させる上で、中国には、チャイナパワーを大いに発揮してもらいたいものです。

注1 交渉決裂の主要因として、「農産品の特別セーフガード、工業製品の関税引下げ問題における先進国と開発途上国(とくに米国とインド)の対立」にあるとしている(商務部所管の『国際商報』7月31日)。

注2 陳部長はインタビューに答え、「交渉決裂後、EU、オーストラリア、ブラジルなど主要参加国が中国に感謝の意を表明した。米国、インドでさえも交渉における中国の建設的役割を認めた」(21世紀ネット 2008年8月4日)と言っている。

注3 ASEANは2015年にASEAN共同体(安全保障、経済、社会文化の3つの共同体から構成され、物品、資本、サービス、人の移動などがいちだんと自由化される)を創設することで合意している。また、EUとは2007年5月にFTA交渉を開始。

注4 中国における東北振興策、ロシアにおける極東開発の積極化、日本と韓国におけるランドブリッジ(シベリア鉄道など)の積極利用などこの地域での経済協力関係・補完関係に進展が見られること。また、2007年の大連での初のダボス夏会議の開催、2012年のウラジオストクでのAPECの開催などで世界の関心が集まりつつある。

注5 日本にとって中国は最大の貿易相手国、韓国にとって、中国は最大の投資先など。

 

 

人民中国インターネット版 2008年11月24日

 

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