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熱気はじけた北京の春節

 

島影均=文

島影均
1946年北海道旭川市生まれ。1971年、東京外国語大学卒業後、北海道新聞社に入社。1989年から3年半、北京駐在記者。2010年退社後、『人民中国』の日本人専門家として北京で勤務。

『絵にも描けない美しさ』『筆舌に尽くしがたい』『名状しがたい』など、表現力の乏しさを嘆く言い方はいろいろありますが、中国の大晦日に当たる2月2日、北京東郊のマンションの25階にある友人宅のベランダから見た花火は、まさに絶句。春節といえば花火と爆竹とは聞いていましたが、これほどとは……。日本では夏の風物詩の花火大会では何万発あげたかが、主催者の自慢ですが、北京では恐らく春節期間(2日から8日まで)に北京の夜空を満開にした花火は恐らく数百万発ではないでしょうか。それもプロの花火師が打ち上げるのではなく、庶民です。しかも、スポンサーがついているわけではなさそうですから、全部自費でしょうね。

花火に囲まれて年越し

ある北京人が言っていましたが「年に一度の最大の楽しみ」なのでしょうね。20年前に北海道新聞の記者として、駐在していたころ、北京は全面的に花火・爆竹禁止でしたから、私も初めてでした。大晦日の午後11時ころから春節の午前一時ころまでが山場です。友人のマンションのベランダからは、北京市内を360度眺められますが、あらゆる方向から色とりどりの花火が上がっていました。翌日の中央テレビでヘリコプターからの空撮映像を見ましたが、北京全市で一斉に「花火大会」を開いているようで、壮観でした。しかも大晦日の「花火大会」は短時間の催しではありません。有名な東京・隅田川や札幌・石狩川の花火大会も精々1時間半から2時間でしょうが、こちらは暗くならないうちから始まり、真夜中までです。友人のマンションの部屋の窓越しに見ると、ちょうど花火がはじける高度なのでしょうか、まるで花火に包まれているようで、3D以上の迫力でした。

花火は美しさと音ですが、その音がまた凄まじいのです。祝砲のように十数発「ドーンドーン」と続いたかと思えば、「パーンパーン」と乾いた音が響きます。伴奏は『バチバチバチバチ』という路上で響く爆竹の連射音です。私はさほど花火が好きなわけではありませんが、文字通り花火のど真ん中での酒盛りは、味なものでした。ただ、花火の種類や美しさはプロの技にかないませんね。日本の花火大会で王様の三尺玉はなさそうでしたし、北京五輪、上海万博の時の様な凝った作品はありません。音が主体で光は二の次という印象でした。

打ち上げ花火セットは500元から700元が一般的だそうですが、1セット8000元とか、中には一本3000元というのもあるそうです。北京のサラリーマンの平均月収が5000元、大卒初任給は3000元といわれていますから、春節の花火にかける意気込みがお分かりいただけるでしょう。大晦日の深夜に乗ったタクシーの運転手さんも「600元の花火を上げたけど、あっという間だよ」とちょっと残念そうでした。

花火と爆竹は、気の早い市民が大晦日の数日前から打ち上げ始め、ピークは大晦日の夜中。春節の朝は家の門を開け、福の神を呼び込むために、花火と爆竹を鳴らします。次の山は正月5日目の2月7日でした。「破五(ポーウー)」と言われ、元々は「貧乏神を家から追い出すために爆竹を鳴らし、花火を上げる」と意味だったそうですが、北京では「今日までが正月、明日からすべて元の日常に戻す」という意味になり、この日から商売を再開するようです。実際には、ほとんどの官庁、企業は一日おいて、2月9日が仕事始めです。それまでの大騒音がうそのような静寂に包まれています。前日の夜は遅くまで、遠雷のような花火の音が聞こえました。過ぎ去った祭りを懐かしむような、後ろ髪を引かれるような哀愁さえ感じました。

実は、この間、政府機関、特に消防関係者はハラハラし通しだったようです。北京は昨年10月末から春節明けまで、雨らしい雨は降っていませんでしたのでカラカラに乾ききっていました。住宅密集地に消防車を配備するなど防火体制に力を入れたようです。その努力が実って、北京市内では大火事は起きなかったようですが、小火災はかなり発生し、花火と爆竹が原因の事故で死傷者も出たようです。

道教の寺院には若者も

白雲観へお参りに行く人々

白雲観(道教の寺院)の廟会

さて、春節のもうひとつの目玉は廟会(ミアオホェイ)という縁日です。北京市内には何カ所もありますが、そのうちの蓮花池公園、朝陽公園、竜潭湖公園、陶然亭公園、地壇公園の五カ所を見物しました。蓮花池公園は北京西駅の近くで、金の時代からある公園だそうです。入場料10元。公園は桃の花が満開……、と思いきや全部造花でした。本物の木の枝にピンク色の造花をくくり付けてあります。半端な本数ではありませんから、入場料10元は手間賃でしょうか。日本の縁日とか夜店と大違いなのは、たこ焼きとか、焼きそばとかの食べ物屋よりも射的が圧倒的に多いことですね。おもちゃの鉄砲で狙う射的場とか、ダーツで風船を割って景品をもらう屋台、輪投げの屋台もありました。景品はぬいぐるみが多いようですが、輪投げの景品はかごに入れた干支のウサギとかモルモット、小鳥でした。日本では縁日といえば、金魚すくいが定番ですが、ここでは金魚鉢ごと輪投げの景品でした。

数年前から縁日は開かれていませんが、白雲観という道教のお寺では初詣のような光景を見ました。境内には、小さなお堂が二、三十カ所あり、それぞれお参りする神様が違います。人気度によって順番待ちしている人が行列しているお堂とそうでもないとところがありました。何と言っても、誰しも金持ちになれるように思いますから、財神のお堂が人気でした。日本でも最近の初詣は若者が目立ちますが、ここでも若い男女の参拝者が熱心に拝んでいました。

日本の正月と違うなと感じたのは国旗です。年末、私が住んでいるアパート群の各入り口に一斉に、五星紅旗が掲揚されました。かつて、大正生まれの亡父の年末の仕事は、御用納めの日から国旗を掲揚することと、栗きんとんを作ることだったことを思い出しました。日本では今、正月に日の丸をかかげている家はほとんどありませんね。私の町内の五星紅旗は仕事始めの9日朝、町内会役員らしい人が撤収していました。

ところで、北京などの大都会から両親や家族が待つ故郷に帰る人は、人口の1割、約1億3千万人といわれています。帰省ラッシュは日本で考えられない激しさらしいです。汽車で帰る人が圧倒的ですが、最近はマイカー帰郷やレンタカーの利用者も増えているようです。北京の地元紙「新京報」に載っていた話で、広東省では工場がある都市から田舎に、バイクで帰る工場労働者のために、連日500台程度をまとめてパトカーが先導しているというのがありました。既に10万台を先導したそうです。

人々に最も喜ばれている廟会は、龍潭湖公園と地壇公園のものである

 

人民中国インターネット版 2011年2月11日

 

 

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