海と山に恵まれた海南島・三亜
島影均=文
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島影均 |
1946年北海道旭川市生まれ。1971年、東京外国語大学卒業後、北海道新聞社に入社。1989年から3年半、北京駐在記者。2010年退社後、『人民中国』の日本人専門家として北京で勤務。 |
海南島の三亜は急成長中のリゾートです。美しい砂浜があり、軽登山を楽しめる山があり、少数民族(黎族=リー族)の文化に触れられ、「温泉」もあります。日本人好みに見えますが、今のところ、日本人観光客は少数派のようです。三月下旬、北京から行って来ました。
海南島に行ってみようと思ったきっかけは『人民中国』3月号で特集した高齢化社会の生き方でした。北京に住むある夫婦が常夏の海南島で冬場を過ごす「渡り鳥人生」を紹介しています。
なるほど過ごしやすい。記事では「長患いの咽頭炎が治った」という老婦人を紹介していますが、私も第一印象は北京に比べて空気の味が格段に違うことでした。
GDP(国内総生産)で世界2位に躍進した中国ですが、一人当たりGDPで言えばまだ100位前後。それでも、先に豊かになった「テークオーフ」組は年々増え、余暇の過ごし方も豪華になっています。
「中国のハワイ」ともてはやされ、政府も「海南国際観光島構想」を国家プロジェクトに格上げし、今月(2011年4月)から、沖縄と同じ「離島免税」を実施し、国内観光客にも恩恵が行き渡るようにしました。
さて、三亜フェニックス空港から小1時間で亜竜湾リゾート地区に着きます。湾を囲んで、リゾートホテルが並んでいます。ホテルのプライベート・ビーチがかなり続き、思い切りリゾートです。水泳にはまだちょっと気温が低く、波打ち際で波と戯れる人、ビーチバレーを楽しむ人が目立ちました。
波は静かで、サーフィンには不向きかもしれません。沖縄のコバルトブルーとは異なるグレーブルーの大海原が広がっています。東日本大震災に引き起こされた大津波が、この海原につながる太平洋から発生したとはとても考えられませんでした。
この浜辺から中心部に車で1時間ほどの所に南田温泉があります。厳密な意味の温泉ではなさそうですが、いろいろな種類の露天風呂があり、リラックスできます。初体験は「お魚さんと一緒にご入浴」でした。膝上くらいの浅い温水プールに小魚がたくさんいて、彼らが手足の角質やふるい皮膚を食べてくれます。日本にもあるそうですが、これが電気風呂みたいな「ビリビリ」感があり、くすぐったい半面、快感でした。
ここからまた車で30分くらいで、黎族の観光用の集落に着きます。入れ墨の習慣が残る山岳民族で、現実に彼らが生活している場を観察できるし、彼らの収入源にもなっているようです。タイムスリップを味わえます。
ところで、中国人客は東北三省、北京はじめ北方の人が比較的多いそうです。もちろん広東省は隣接していますから、広東の観光客が大多数でしょう。
外国人観光客はこれは圧倒的にロシア人。海に面していないロシア北部、黒竜江(アムール川)北岸辺りから、避寒にきているようです。どこもかしこもロシア語です。道路標識から食堂のメニュー、ガイドブックもロシア語の訳がついています。看板の外国語は中国語、英語、ロシア語、韓国語の順番。日本語は一度も見かけませんでした。もとより日本人観光客には一人も出会いませんでしたが……。
ロシア人ツアーのガイドは黒竜江出身の中国人が務めているケースが多いようです。二十数年前、北京で北海道新聞の特派員をしていた当時、何度か黒竜江に取材に行きましたが、夏、観光船から旧ソ連(当時)側の川べりを見ると、大勢の水着姿が見えました。中国側でも茶色の川水につかって元気に泳いでいる人がたくさんいました。
大河の両岸にいたあの人たちの次の世代が、豊かになり、海を求めて、海南島にやってきているだろうな、と想像しました。三亜で働くタクシードライバーやホテルの従業員の中で、結構多いのが黒竜江、四川省の出身者。その中の一人が「ハルビンから来ました。居心地いいです。両親にも勧めています」と満足そうに話してくれました。
三亜で今年の正月映画「非誠勿擾Ⅱ」のロケが行われました。これも中国人観光客のお目当てです。数年前には北海道ロケの「非誠勿擾」(北海道など、日本の一部で「狙った恋の落とし方」の邦訳で公開)のおかげで、中国人の北海道観光客がどっと増えました。「Ⅱ」は「離婚式」あり、「生前葬」ありでバラエティーに富んでいますが、何といっても海南島PR映画みたいなものです。
私が宿泊したホテルでもロケが行われたようですが、ハイライトの山腹にロッジが鳥の巣のように張り付いている熱帯天堂という丘陵公園に行ってきました。ヒロインが渡るつり橋がハイライト中のハイライト。ここを渡るには公園の入場料(約200元=約2500円)のほかにさらに20元必要です。このつり橋を望む展望台あたりから、赤い幅広のリボンが木々に結び付けられています。周りの人たちはほとんどがカップルか、若い女性グループです。かれらが、リボンを結び付けたに違いありません。「Ⅱ」は紆余曲折を経て、主役とヒロインが結婚するストリーですから、結婚願望の象徴なのでしょうね。やっと件の橋を見下ろせる場所に着きました。
案の定でした。橋の欄干はまるで赤く染めたように、数え切れないリボンがはためいていました。
人民中国インターネット版 2011年4月14日