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「尊老」はホント?

 

北京の地下鉄とバスの車内でいつものように流れているテロップに「尊老愛幼は中華民族の伝統的な美徳」というのがあります。世の中をはすに構えて見る新聞記者の習性が残っているせいか、最初に見掛けた時は「そうか、ここでも敬老精神が足りないということか」と思っていました。ところが、たびたび地下鉄を利用するうちに、このテロップの効き目とは思えませんが、敬老精神にあふれた若者が意外と多いことに気が付きました。

「尊老愛幼」のテロップが流れる地下鉄1号線の車内

昨年夏、北京に来て直ぐのころのことです。バスと地下鉄を乗り継いで、繁華街の西単に探険に行きました。地下鉄2号線の阜成門で、7割方の込み具合の車両に乗り、手すりにつかまって立っていました。すると、私の目の前の座席に並んで座っていた3人の青年のうちの一人がすっと立ち上がって、「どうぞ」と、言いました。長年住んでいた東京でも札幌でもついぞ席を譲ってもらったことがありませんから、一瞬、何事かと思いました。久しぶりの北京は何でも珍しく、きょろきょろして挙動不審だったかも知れませんが、「席を譲れ」というアイ・コンタクトを送ったつもりはありません。

この時は、驚きのあまり「次で降りるからいいよ、ありがとう」と、言ってお断りしました。復興門で乗り換えた地下鉄の車両も同じくらいの込み具合。同じように手すりにつかまって、さっきの人生初めての出来事を思い出して、「そんな歳に見えるのかな」と、わが身を点検していました。64歳ですから、「まあ、老人には違いないか」と、納得していると、目の前に座っていた16、7歳の男の子が「どうぞ」と言って立ち上がりました。今度も「次で降りるからいいよ。ありがとう」と断りましたが、さっさと立ち上がっています。

ふと、振り向くと、ガールフレンドらしい同世代の女の子が自分の膝を叩いて、男の子に合図を送っている。えっ、膝に座るの!

譲られた席に座って、じっとみていましたが、それはありませんでした。きっと、老人に席を譲る振りをして、彼女のそばに行きたかったんだ、と理解できました。それなら、最初からそばにいればいいのに、と頭の中で余計なお世話をしました。

ちなみにバスには黄色のイスがあり、日本のシルバーシートです。ただバスの車内で席を譲られたことはほとんどありません。頻繁に急発進、急停車を繰り返すバスの車内で、「どうぞ」「いえいえ」などと悠長な会話は危険がいっぱいだからでしょう。

敬老精神を感じたことはまだあります。故宮の近くにある白塔寺という元代に建てられたお寺にぶらっと行った時のことです。猛烈に暑い日曜日で、切符売り場にも人影がありません。看板には入場料大人20元(約260円)とあります。係員を探していると、日陰から現れたおばさんから「老年証をお持ちか」と尋ねられました。「外国人だから、持ってないよ」というと、じっと私の全身を見て「いくつか」と聞きます。「64歳」「それじゃ10元」と半額にまけてくれました。老年証を持っていると無料だそうですから、半額はこのおばさんの外交的配慮だったのでしょうか。

 

島影均

1946年北海道旭川市生まれ。

1971年、東京外国語大学卒業後、北海道新聞社に入社。

1989年から3年半、北京駐在記者。

2010年退社後、『人民中国』の日本人専門家として北京で勤務。

  

人民中国インターネット版 2011年4月

 

 

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