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第六回 苦夏・・・・・・夏バテを防ぐ

 

馬島由佳子=文・写真m.Takako=イラスト

夏の灼熱の太陽と炎天下の中、家でも外でも、氷がたっぷり入ったジュースで体を潤す、いやいや大人はビールをがぶ飲み!おやつはカキ氷かアイスクリームで体温を下げ、食事は冷たい麺類で体を涼しくするのが日本人の日常ではないでしょうか?でも、そんなことを続けていたら、バテ気味の体がさらに加速してしまいます。「わかってはいるけど、冷たい飲食が止められない!」今回は、そんな皆さまへの夏バテ予防のアドバイス、“中医夏季養生”です。

夏バテは苦しい夏

気温25℃以上で、人間が快適に感じる湿度は30%。梅雨時期の湿度はこれをはるかに越え、じっとりとした体感。汗も出やすくなります。イライラしたり、疲労倦怠を感じることが多いでしょう。消化機能も低下し、食欲不振、胃腸炎などに陥りやすくなります。

やがて、蒸すような梅雨が明け、本格的な夏到来。体が丈夫な人でさえ、高温の下では、寝付けない、眠りが浅い、食欲がない、気力がない、元気がないなどの夏バテの現象が現れてきます。中国語で夏バテを表す単語は“苦夏”。苦しい夏・・・・・・まさに、そのとおりですね。

中医学からみる季節

病気と健康は相対的です。人体の臓腑、経絡の生理機能が正常であり、気と血のバランスがとれていることを“陰平陽秘”と言い、健康とします。生理機能が異常になって、気と血の陰陽平衡の協調関係が崩れ、“陰陽失調”を引き起こした時に、人体はさまざまな症状が現れ発病します。発病と病気の変化、進行は、人体に備わっている正気(人体を構成する必要な気と病気に対する抵抗力)と邪気(人体を侵す病因で、外部から侵入するものと体内で形成された病理産物がある)が関係していると中医学ではみなします。「人体と自然界は一体である」という観点から、自然界からの影響も視野に入れて人体のバランスを診て診断することが大事です。

中医学では、自然界は「風・寒・暑・湿・燥・火」の6種類の気候に分けられ、“六気”と呼びます。本来六気の気象現象は万物の生長に必要不可欠であり、人体に対して無害です。しかし、六気の急激な変化や異常気象(春なのに寒い、秋なのに暑い、例年の夏より暑すぎる、寒すぎるなど)により,六気が一定の正常範囲を超えた時に、人体が正気不足や抵抗力が低下していると、六気は発病因子となり、人体に侵入し、病気を引き起こすことがあります。この異常となった六気は“六淫”または“六邪”(「風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪」)と呼びかえられます。風邪(ふうじゃ)は春、寒邪(かんじゃ)は冬、暑邪(しょじゃ)は夏、湿邪(しつじゃ)は日本では梅雨時期、燥邪(そうじゃ)は秋、火邪(かじゃ)は夏に含まれますが、どの季節にも見られます。

五行 五季 五臓 五腑 形体 五気 五液
木・・・ 春―― 肝―― 胆―― 筋―― 風――
火・・・ 夏―― 心―― 小腸―― 脈―― 暑――
土・・・ 長夏― 脾―― 胃―― 肉―― 湿―― よだれ
金・・・ 秋―― 肺―― 大腸―― 皮毛―― 燥―― 鼻水
水・・・ 冬―― 腎―― 膀胱―― 骨―― 寒―― 唾液

湿邪、暑邪とは?

「湿邪」が人体に侵入したときの特徴

重い、混濁の感覚 湿気が体内に入り、体が重たく感じる、四肢が重だるい、浮腫、関節に湿が入ると、だるいような痛み、動作の障害がでる。大小便の排泄物が混濁する。湿疹ができやすく、掻くと分泌物がでてくるなど。

粘着性がある 大便がべたつく、下痢、小便が出にくい。すっきりしないなど。

気機を阻害する 肝気の疎泄が阻害されるので、体内に停留感があり、嘔吐、胃のつかえ、腸が張るなど。

そのほか、湿は下へ向かう、停滞の性質があるので、下半身の症状が多く見られ、回復に時間がかかります。そして、湿邪は陰邪です。じっとりしたしめっぽい水を含んだ液という表現が理解しやすいと思います。陰気に症状が現れたということは、陰陽平衡が崩れ、人体の陽気を損傷したということです。五行学説の表でみると湿は脾、胃と同じ行に配当するので、冷たい飲食のとり過ぎは、脾の作用の一つである水液の運行を阻害し、その症状が現れます。

「暑邪」が人体に侵入したときの特徴

 陽邪が暴れている 暑邪は陽邪。夏は炎と熱という体感がある。大量の発汗、高熱がでる。喉の渇きが激しく冷たいものを欲する。胸のもだえ、のぼせ、脈拍が大きく速いなどの症状がでる。

上部へ昇り発散 陽気、陰気を蒸発させる。皮膚の毛穴を開かせ大量に発汗。そのため体は、喉が渇き、尿が少なくなり、イライラする。

多くの暑邪は湿を挟んでいる 梅雨から引き続き湿気の多い夏が到来し、湿を引きずっている、湿もかかえている状態なので、四肢の倦怠感、胃の機能が停滞し食欲不振、大便のべたつきなどの症状が現れる。 ※ 肝気の疎泄、陰気陽気、五行学説については第三回をご覧下さい。

中医学の夏季の養生

牡丹。根の皮が、熱を取り去る効能がある生薬となる
北京市中医管理局が市民に無料配布している冊子、『中医薬養生小常識』に、『夏季は“心静自然涼”を心がけるように』と記載されています。“心静自然涼”とは「心が平静ならば、暑さも自然に感じなくなり、涼しく感じる」という、中国のことわざです。心および汗は五行表の夏に属しています。中医学は部分的な症状で判断するのではなく各機能のつながりを重視しています。心は血・脈を司り、精神活動を司ります。また、「汗血同源」といわれるように、発汗し過ぎると、心の血脈もみだれ、動悸がしたり、焦燥感、情緒不安定になったりします。緊張して心臓がドキドキして手に汗をかくのも同じ見解です。

梅雨・夏季は、室内の乾燥を保つように心がけ、リラックスする音楽を流します。汗をかき過ぎない散歩、ラジオ体操などの運動はいかがでしょう。食事は冷たいものを摂取して体を冷ますのではなく、体内の熱と湿気を取り去る効果のある食材を上手に調理して摂取しましょう。手に入りやすいハトムギ、緑豆、インゲン豆、小豆、冬瓜、きゅうり、ニガウリ、スイカ、とうもろこし、れんこん、かぼちゃ、大根、豆乳、山芋などがお勧めです。

汗をかきすぎると陰液を損傷します、収れん作用のある、酸味のある食材をいただきましょう。トマト、レモン、イチゴ、ブドウ、パイナップル、マンゴー、キウイなど。

 

夏の簡単養生薬膳レシピ

しょうが塩茶
材料:しょうが8g、緑茶8g、食塩1g
効能:体内の熱を取り去る。体液を補う。疲労を取り除く。
適用者:夏バテを感じた健康な人
作り方:しょうがの千切りと茶葉、食塩を併せ、1ℓの沸騰したお湯をそそぐ。
 できあがったお茶は、一日で飲みきっても、半分ずつ2日間に分けて飲んでも構いません。

 

ハトムギ冬瓜スープ

材料:ハトムギ100g、冬瓜500g

効能:体内の熱を取り去る。利尿作用。脾胃の機能を正常にする。

適用者:夏の暑さと湿を感じる時によい。腫瘍がある患者。あせも、尿の色が濃くて少ない、排尿がすっきりしない、膀胱炎の方。

作り方:冬瓜を洗い、皮とワタを取って小さく切り、ミキサーにかけるなどして搾り汁を作る。冬瓜の搾り汁とハトムギを鍋に入れ、水を適量加え、強火で沸騰したら、弱火にして2時間煮る。朝晩空腹時にレンゲで2~4杯を服用する。

 

 

馬島由佳子

静岡市出身。

外務省在職中に赴任先の北京で中国医学、特に中薬に魅了され、2001年帰国退職後、財団法人交流協会で働きながら東京・本郷にある北京中医薬大学日本校で学び、2008年に国際中医師の資格を取得した。

現在、『人民中国』インターネット部に勤務。

 

 

人民中国インターネット版 2011年6月

 

 

 

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