第八回 脾と胃の働き
馬島由佳子=文・写真
前回、夏カゼは消化器の不調を起こしやすいとお話しました。今回は、中国医学による脾と胃の生理機能を見てみましょう。
臓象学説について
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地壇公園中医薬祭に展示されていた臓象学説の資料 |
臓象学説は独特の生理病理学の理論体系です。一般的には、西洋医学の臓器は解剖学の実体概念です。中国医学の臓腑は一定の解剖学を内包しています。心・肝・脾・肺・腎などの臓腑の名称は現代の人体解剖学の臓器名称と同じです。しかし、西洋医学と中国医学の理論体系は異なっており、両者の概念、内容、生理特徴は大きな違いがあります。臓腑は単純ではありません。中国医学でもっとも重要なのは、臓器機能の活動や作用であり、生理病理学の総合的な叙述です。
例えば、西洋医学の脾は解剖学中の脾臓であり機能です。中国医学の脾は人体大部分の消化器官を代表します。消化系統の大部分の機能を備えている以外にも、造血、血液の運行を管理、免疫などの多方面の生理機能を兼ねています。したがって、西洋医学と中国医学の脾は、大きな違いがあります。
臓は5つ、腑は6つの器官があり、五臓六腑と呼ばれます。さらに6つの奇恒の腑(きこうのふ)と呼ばれる器官があります。
臓腑分類 | 構成 |
五臓・・・ | 心、肝、脾、肺、腎 |
六腑・・・ | 小腸、胆、胃、大腸、膀胱、三焦 |
奇恒の腑・・・ | 髄、脳、骨、脈、胆、女子胞 |
それぞれの特徴を見てみましょう。五臓は人体の中心となる、実質性臓器。精気を貯蔵する、中につまっている臓器。気・血・津液を生み出す。六腑は中が空管の臓器で、貯蔵しません。消化吸収を行う。奇恒の腑の、「奇恒」には異なる・奇妙なという意味があります。中は空洞で、形は「腑」に似ているが、生理機能は「臓」の貯蔵する作用に似ている。「臓」に似て臓ではない、「腑」に似て腑ではないのが、「奇恒の腑」です。ただし、胆は胆汁を貯蔵もするが、排出もするという2つの作用を持つので、奇恒の腑の範疇と考えられ、六腑と奇恒の腑の2つに属します。「女子胞」とは現代医学の臓器でいう、子宮、卵巣、卵管の総称です。「三焦」とは、気・津液の代謝の道という考えと、横隔膜より上の部位にある心・肺を上焦(じょうしょう)、横隔膜より下、臍より上の脾・胃を中焦(ちゅうしょう)、臍より下の肝・腎を下焦(げしょう)とする、生理機能の特徴を三つに分ける考え方があります。
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連翹(れんぎょう)の花。熱を取り解毒する生薬になる |
鼠尾草(セージ)。熱と湿を取り去る生薬になる |
脾と胃の働き
脾と胃の生理機能について見てみましょう。
脾と胃は密接な関係を持ち、表裏関係になっています。陰と陽の関係でもあります。飲食物を消化吸収し、栄養を体に行き渡らせ、気・血・津液を生み出す源の器官であるので、「気血生化の源」と呼ばれています。
胃の生理機能 |
1.受納(じゅのう) 水穀(すいこく・飲食物のこと)を受け入れる。 |
2.腐熟(ふじゅく) 水穀を粥状に消化をする。 |
3.和降(わこう) 消化した水穀を小腸へ送る。 |
脾の生理機能 | |
1.運化(うんか)を司る | 小腸で、清と濁にわけられ送られてきた、清(水穀や水液)を精微(せいび・栄養のこと)に変化させ、気・血・津液を作りだし、全身に送る。 |
2.昇清(しょうせい)を司る | 脾より上部にある、心と肺に精微を送る。また、内臓が下垂しないように、胃下垂や脱肛を防ぐなど、内臓の位置を保つ働きをします。 |
3.統血(とうけつ)を司る | 中国医学では血液は脈の中を流れています。脈管から外へあふれ出ないように正常に運行するように管理しています。脈外へ流れ出すと、皮下出血、便血、尿血、鼻血などが現れます。 |
水穀 →胃(腐熟)→脾(運化)→ 精微→ 全身へ |
また、肌肉を司ります。運化によって、栄養が供給された肌肉は、充実しています。脾が機能が低下すると、肌や筋肉はやせたり、衰えてきます。
このように、中国医学の脾の生理機能は、現代医学の消化系統の大部分の機能に相当します。人体の水液代謝、造血系統及び口腔の機能と密着した関係があります。生命誕生後の活動の源となるので「後天の本」とも呼ばれます。重要な器官です。
(校閲協力=中日友好医院中西結合循環器内科主任医師、杜金行)
馬島由佳子 静岡市出身。 外務省在職中に赴任先の北京で中国医学、特に中薬に魅了され、2001年帰国退職後、財団法人交流協会で働きながら東京・本郷にある北京中医薬大学日本校で学び、2008年に国際中医師の資格を取得した。 現在、『人民中国』インターネット部に勤務。 |
人民中国インターネット版 2011年7月