「変わらない笑顔」に囲まれて
文=高橋 敬明(たかはし のりあき)
甘粛省の嘉峪関から新疆ウイグル自治区のウルムチに向かう寝台列車で知り合った30代半ばの江蘇省揚州の商人が「信じることが出来るのはお金の力だけ」と言っていました。世界1のスピードで経済成長を続ける中国の今を象徴するような威勢のよい話でした。私が留学した当時から中国は今どう変化しているのか、それが知りたくて7年間勤めたテレビ番組の制作会社を退職、3カ月の観光ビザを取得し、9年ぶりのバックパッカーの旅へと出発しました。
1元が当たり前だった公共バスは、杭州では3元が当たり前になっていました。ショウロンポウ(小籠包)は、10個2元だったのが6元に値上がりしていました。雲南省の山奥を移動した細く、デコボコ道は片道2車線の高速道路になっていました。かつて内緒で泊まらせてくれた一泊30元だった招待所は「外国人断り」に。そのため、今回の宿泊費は想定より大幅に膨らんでしまいました。
89日間で訪れた街は大小あわせて44。沿岸都市から中央、内陸部、そして農村地帯と、数々の「中国」との出合いがありました。
石炭バブルでたくさんの富裕層が生まれ、沿岸部の別荘を大量に買い始めていた内蒙古自治区・オルドス(鄂爾多斯)。成立90周年を祝って街全体が五星紅旗で“真っ赤”に染まっていた共産党の聖地、陝西省・延安。
経済成長、中国独特の“国情”、社会問題、そして日本にはまだ知られていない大自然…。今これほどたくさんの“テーマ”を持っている魅力的な国はないと思います。
雲南省で少数民族の女性といっしょに。この道路はかつてデコボコの細い砂利道だった |
高橋 敬明 1980年11月東京都生まれ。東京外国語大学中国語学科に在学中の2001年9月より1年間、北京大学に語学留学。卒業後、テレビ番組の制作会社に就職し、今年5月に退職。 |
そして中国の人たちの「縁」を大切にする心。得体の知れないバックパッカーの私を各地で心からもてなしてくれました。私もこの「縁」が大好きです。9年前に訪れた雲南省の最南端シーサンパンナ(西双版納)のある少数民族の村を今回も旅路の最終目的地として訪ねました。「変わらない」彼らのおもてなしの精神に心を癒され、「変わらない」彼らの純粋な笑顔に懐かしさと安心感を覚えました。
変わり続ける中国と、変わらない中国、どちらも僕にとっては非常に魅力的です。これからもテレビの仕事として中国とのつきあいを続けて行く中で、自分にしかできない手法で、中国の「今」を日本に伝えていきたいと思います。
あらゆる楽器を必要とせず、歌詞はその場で考える少数民族の女性が別れ際に歌ってくれた歌を私は一生忘れません。
♪私はあなたがどういう場所で生まれ育ったかは知りません。
けれども私には分かります。
あなたはあなたが行きたい場所に行ける人だということを。♪
人民中国インターネット版 2011年11月