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北京のタクシー事情

 

島影均 1946年北海道旭川市生まれ。1971年、東京外国語大学卒業後、北海道新聞社に入社。1989年から3年半、北京駐在記者。2010年退社後、『人民中国』の日本人専門家として北京で勤務。
「急ぐなら、地下鉄とバスで」―これが北京生活の知恵です。夜の会合に行くために、午後5時過ぎにタクシーを拾おうとすると大変です。「空車」のランプを付けていても停まらないタクシーが目立ちます。日本でもひところ社会問題になった「乗車拒否」です。中には、一応停まって「運転交代の時間だけど、どっちに行くの?」と、聞いて、同じ方向ならば、乗せてくれる場合もありますが、これは幸運中の幸運。とにかく拾えたとしても、朝夕の通勤通学ラッシュの時間帯は、マイカーの洪水でどこもかしこも大渋滞の場合が多いのです。

タクシーを拾うことを北京では「打車」(ターチャー)といいますが、いま地元紙がしばしば取り上げる話題は「打車難」です。北京には6万6千台のタクシーが登録されているそうです。東京都内は約6万台ですから、北京の方が1割ほど多い計算ですが、特にこの時間帯はかなり少なく見えます。

地元紙『新京報』のルポ記事によると、最大の原因はこの時間帯にドライバーが郊外で、交代するからだそうで、この間、停まっている車は数千台に及ぶそうです。2人のドライバーが交代で1台の車を運転しているのが交代の理由ですが、いつもタクシー探しでイライラさせられている利用者は「何も一番必要な時間帯に交代しなくてもいいだろうに」、と不満を募らせます。ルポ記者が取材したドライバーは「その時間帯は渋滞がひどくて、10分で行けるところが1時間かかったりして、商売にならないからね」というのが彼らの言い分でした。

「初乗り(3キロ)10元=約120円」は物価高が続く中で何年も変っていません。庶民生活に余裕が生まれ、利用者は増えているようですが、渋滞緩和のために車の総量規制を徹底しようとしている北京市にはタクシーを増車する考えはないそうです。急激にクルマ社会に突入したジレンマは尽きないようですね。

20数年前に北京に住んでいたころは、タクシーはほとんど走っていませんでした。そもそも車の台数が少なく、日が暮れると交差点の信号機も「お休み」という時代でしたから、隔世の感があります。

渋滞に閉じ込められた時、楽しいのがドライバーとの世間話です。定番の質問は「年収はいくら?」。東京や札幌でもタクシーに乗ると同じ質問をしましたが、不景気風が吹き、彼らの年収は聞くたびに少なくなり、厳しさを実感させられました。今の北京のドライバーはその点、「まあまあだね。年収3万から4万元ってところかな。もっと稼ごうと思えば稼げるけれど、疲れるよ」。年収36万円から48万円で、北京の大卒初任給を上回っていますから、「まあまあ」と言えるのでしょうね。

ガソリンスタンドの近くに停車している多数のタクシー。ドライバーにも都合があるようですが……(CFP)  

筆者が日本人だと分かると、電気釜、カメラ、映画の話題が次々に出てきます。おしゃべりしながら、渋滞を抜け出ると、前や横の車をすれすれでかわし、まるでカーチェース並みのハンドルさばき。スリル満点です。

 

人民中国インターネット版 2011年12月

 

 

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