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『闘牛』から『殺生』へ

 

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

 

「巨大船」の襲撃に苦戦する中国映画

中国では現在、ハリウッドの大作が次々公開され大ヒットしています。特に『タイタニック3D』は興行収入10億元に迫る勢いです。『バトルシップ』もヒットしており、両者を合わせると興行収入全体の7割以上となり、国産映画が危機だという報道も見かけました。WTO加盟で外国映画の輸入数を次第に増やしてきた中国ですが、今年2月には、中米の協議で3Dを中心に米国映画の輸入をさらに増やしていくことが決まったとの報道がありました。ハリウッドの3D映画は、中国ではほとんどが大ヒットしている状態ですので、国産映画について危機感を訴える報道が多くなるのもうなずけます。

2隻のハリウッド「巨大船」の襲撃をまともに受けたのが同時期公開の『黄金大劫案』『匹夫』そして『殺生』の3作です。このうち『殺生』を見に行きました。監督は2009年に同じくホアン・ボー主演の『闘牛』が高く評価されたグアン・フー(管虎)で、かつて『青春の約束』が日本の「中国映画祭94」で上映されたこともあります。4月28日公開ですから、1週間以上が経過してから映画館に足を運んだことになります。実は、『殺生』というタイトルに惑わされ、人の生き死にをネタに下品な笑いを繰り広げるコメディーかなと思って敬遠していたのです。ところが「絶対見るべき」と知人に言われ、ようやく重い腰を上げました。このところ、人に言われてから見に行くことが多いのですが、結果はまたしても「行ってよかった」でした。

物語は1940年代初頭、中国南西部(おそらく四川省南部)の山間にある、世間から隔絶された長寿の村で起こります。この村で伝染病が発生したとの知らせに、医師の“私”(サイモン・ヤム)が派遣されます。“私”は村に到着する直前に生きているのか死んでいるのかはっきりしない牛結実(ホアン・ボー)を発見し、村に担ぎ込みますが、村人たちは手助けを拒否するのでした。この異常な反応を目にして不審に思った“私”は、何が起こっているのか調査を始めます。調べていくうちに明らかになってきたのは、牛結実が乱暴狼藉の数々で村人に嫌われていたことでした……。

憎まれっ子を受容する社会

訪れた医師の“私”が、村に何が起こったのかを調べていく中で事件が明らかになっていくという、ピーター・チャン監督の『捜査官X』にも似たサスペンス仕立ての物語に引きつけられ、109分という時間もまったく長いと感じませんでした。ここに描かれる村は因習に縛られ、従わない者にはリンチさえ行う旧社会ですが、憎まれっ子を受容する一面も持ちます。そして、そこに登場する西洋医学を学んだ牛医師(アレック・スー/西洋文明を代表しているのか?)がもたらすのは吉か凶か? 中国医学を学んだ“私”はこの事件から何を汲み取っていくのかなど、深遠な内容を含んだ物語が進行していきます。

こう説明すると難しいシリアス・サスペンスに思えるかもしれませんが、ホアン・ボーが『闘牛』同様、体を張った演技で随所に笑いを振りまいており、緊張とリラックスのバランスも絶妙です。前作の影響でこの作品に対する専門家の期待が高かったためか、「それほどではなかった」という映画評も目にしましたが、私にはむしろこちらの作品の方が好みでした。

さて、今回作品を見たのは百老匯電影中心です。最近教えてもらったのですが、この映画館は香港の有名な百老匯電影中心のノウハウをもとに、中国大陸部初のアート系映画館として2009年末にオープンしたもので、Broadway Cinematheque MOMA(略称:bc MOMA)の名を持ちます。漢字の名前からは気づかなかったのですが、「シネマテーク」の名前を持っているのです。このことからも分かるように、アート系の作品を多く上映しており、有名監督の回顧展や実験的作品の上映も積極的に行っています。さらに、コーヒーショップや専門書店も併設、会員制度も充実しており、会員向けイベントも豊富です。

 

データ
 杀生(Design Of Death)
 監督:グアン・フー(管虎)
 キャスト:ホアン・ボー黄渤サイモン・ヤム任達華ユー・ナン余男アレック・スー蘇有朋
 時間・ジャンル:109分/サスペンス・コメディー
 公開日:2012年4月28日

北京万国城百老滙電影中心
 所在地:北京東城区香河園路1号当代MOMA北区T4座
 電話:010-84388258
 アクセス:地下鉄2号線東直門駅下車徒歩15分、B出口から北に進み、川を渡って右に

東直門駅から北に向かい、この標識のところで右側の道を進む 高速道路の下をくぐると見えてくる当代MOMAの建物、映画館はここにある

映画館を池が囲んでおり、この季節は特にさわやかだ 前回訪れた時には池に氷が張っていたが、季節は変わり、池ではアヒルが遊んでいた

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年5月8日

 

 

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