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杭州・西湖にワニが!『百万巨鰐』

文・写真=井上俊彦

2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。

ポスター
巨大ワニが脱走し10万ユーロを飲み込んで…

端午節3連休は、北京には珍しく湿度の高い日が続きました。そんな中、国内外からの観光客でにぎわう王府井に出かけ、横店影視電影城で『百万巨鰐』という作品を見ました。

実はこの作品、ちょうど前日に上海国際映画祭のメディア大賞部門で最優秀監督賞を受賞したのです。それまでまったくのノーマークだったのですが、そのニュースを聞いてあわてて上映館を探した次第です。平凡なタイトルといい、巨大なワニが逃げ出す設定といい、どう見てもありきたりの動物パニック映画、そのうえネットのファン評価も低調で、とても見る気になれなかったのです。また、6月8日の封切りで、ほとんどの館ですでに上映が終わってしまいましたので、縁がないかなと思ったのですが、どっこい、横店影視電影城がナイスなタイミングで1日だけ上映してくれました。

物語は、杭州市の西に位置する県級市・臨安ののどかな茶畑が広がる風景から始まります。ワニ園の経営をあきらめて北京へ帰る老劉(シー・ジャオチー)は、ほかのワニとともに20年近く以前にタイから密輸され8メートルにも巨大化したワニを売り渡します。しかし、広東なまりのバイヤーは、実はほかのワニ園ではなく、違法にワニ料理を食べさせる料理店の主人(ラム・シュ)のために買い付けたのでした。ところが、この巨大ワニは想像を超えたパワーで料理店から脱出、偶然出くわした温燕(バービィー・スー)が8年間イタリアで働いて稼いだ10万ユーロ、つまり約100万元(映画の中ではそう換算していますが、映画を見た日のレートでは約80万元でした)が入ったバッグを飲み込み、臨安のダムから産卵地を求めて、なんと杭州市のど真ん中にあり昨年ユネスコの世界遺産にも登録された西湖に向かってしまったのです……。

バービィーの怪演にハラハラしたり爆笑したり…

動物パニック映画には違いありませんが、ほどよくコメディーの味付けをし、笑いとスリルのバランスを絶妙に保ちながら物語が進みます。特に、ワニにバッグを飲み込ませたことで、襲われる側が追う側に逆転するのが面白い工夫です。追っているのに襲われるかもしれない、という不安定さがスリルをかきたてます。そして、途中から100万元をねらう勢力も参入して混乱の度を深め、最後は観光客でにぎわう西湖での息詰まる捕り物と、ダレることなく楽しませてくれました。低予算でも工夫すれば面白い作品が作れることを見せてくれた林黎勝監督は、1969年生まれの北京電影学院教授です。これまでは主に脚本を担当してきたようで、『イノセントワールド-天下無賊-』の脚本にも名前を連ねています。

王府井百貨ビル前では、音楽とシンクロした噴水が観光客の人気を集めていた

端午節の3連休には多くの観光客が北京を訪れていた。北京庶民の味が楽しめる王府井小吃街も大勢の人でにぎわっていた

よくできた脚本のほかに、バービィー・スーの熱演(怪演?)もこの作品を楽しくしている決定的な要素です。男に捨てられ、100万元を飲み込まれ、完全にキレた彼女は、茶畑をハイヒールで走り回り、ワニとユーロを意味する「鰐、欧」(アー、オー)を連呼します。また、助けてくれた王警官(グォ・タオ)のピストルを色仕掛けで奪おうとするなど、異常な行動を見せます。一方で、ワニに追われて屋根によじ登ったり、悪者に吊り下げられあわやワニのエサになりかけたり…何度もピンチに陥りますが、決してあきらめません。イタリアでよほど苦労して貯めた金なのでしょう、100万元を取り戻すためには手段を選ばない彼女は、ある意味ワニより怖い存在です。

さらに、低予算の割に特撮もしっかりしており、巨大ワニもリアルです。中国の特撮レベルもかなり上がってきました。

ところで横店影視電影城では、午前11時から毎日違った作品を20元という価格で上映するVIPホール体験サービスを実施中でした。思いがけず楽しい作品を、20元という値段で、しかもVIP席で見られてラッキーな端午節になりました。

【データ】

百万巨鰐 Million Dollar Crocodile

監督:リン・リーシェン (林黎勝)

出演:バービィー・スー(徐熙媛)、グォ・タオ(郭濤)、シー・ジャオチー(石兆琪)、ラム・シュ(林雪)

時間・ジャンル: 95分/ホラー、パニック

公開日:2012年6月8日

このシネコンが入っている王府井百貨のビル。壁面のディスプレーには端午節セールの広告が見える

横店影視城は、総面積3000平方メートル、VIPホールを含む6つのホールを持つ。月曜日は女性半額デー、火・水曜日は半額デーなど、サービスも充実している

北京横店影視電影城

所在地:北京市東城区王府井大街253号 王府井百貨大楼北館8階

電話:010-65231588

アクセス:地下鉄1号線王府井駅下車、北へ徒歩7分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2012年6月25日

 

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