ホテルで大騒動『楽翻天』
文・写真=井上俊彦
2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。
隣室で夫は浮気、妻は殺人?
ポスター
8月に入っても、国産映画の大量公開は続いています。期待の大作や珍しい作品が次々と公開されて、見る時間を確保するのも大変なほどなのですが、この週末は敢えて低予算のドタバタ・コメディー『楽翻天』を見に行ったのでした。
女性実業家の孟京花(ニン・ジン)と夫の銭十強(ジャン・ウー)は倦怠期にあります。友だちからのアドバイスもあって、京花は子どもを作ろうと韓国から医師を招き治療を受けることにします。このため、高級な楽天ホテルに部屋を取りますが、実は隣室では十強が若いキティー(モン・トンディー)と密会中だったのです。その頃、博打の借金取り立てに韓国からやって来た金大順(チョン・ギョンホ)がホテルにチェックインしますが、なんとフロントで京花の部屋のカードキーを渡されてしまいます。京花は、大順を医師だと思い部屋に迎え入れますが、大順は京花を自分にサービスする女性だと思い込んで迫るのでした。ところが、ボクシングで身体を鍛えている京花は逆に大順を殴り倒し、打ち所が悪かった大順は死んでしまいます(?)……。
そうです。ご想像通りスラップスティックなコメディーで、笑いの質もそんなに高級なものではありません。言葉の通じないことから起こる誤解、思い込みからの勘違いが引き起こす騒動が次第にエスカレートしていくパターンです。この監督には2009年に『熊猫大侠 Panda.Express』なる、パンダをめぐって侠客が戦うというすっとぼけたコメディーがありました。劇場では特にヒットはしませんでしたが、その後テレビで何度も放映され、ネットでも人気を集めた作品です。私は劇場で見て、笑いのツボが合う感じで気に入りました。このため、今回の作品も楽しみにしていたというわけです。
韓国の取り立て屋が中国でひどい目に
今回の作品では、強烈な個性を持つ韓国の俳優が、次から次へと笑いを提供しています。とにかくひどい目に遭ういじめられ役なのですが、何かにつけリップクリームを取り出して唇に塗ったり、彼女のプレゼントだというエナメルの靴にほお擦りしたり、どこか憎めない小悪人ぶりが印象的です。私には、チョン・ギョンホという俳優がどういう経歴の持ち主なのか分かりませんが、この作品ですっかりやられてしまいました。それを受けるニン・ジン、ジャン・ウーという日本でもおなじみの実力派俳優もさすがで、こんな夫婦もいいなと思わせてくれます。
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東方広場(オリエンタルプラザ)は巨大な施設で、10万平方メートルという敷地面積を持つ、アジアでも屈指の商業施設 |
オリンピックたけなわのこの時期、東方新天地に近い王府井大街では中国選手団のユニフォームのディスプレーも見られた |
事件の起きるホテルは大連にあるという設定のようですが、大連に「楽天ホテル」があるかどうか私は知りません。ただ、韓国の企業ロッテは中国では企業名に「楽天」という漢字を使っています。このため、楽天ホテルは観客に直接的に韓国をイメージさせます。このところ、中国映画では韓国との合作が目立ちます。勢いのある者同士の連携ということでしょうか。この作品ではさらに、ホテルでパーティーを開く日本の宝飾品企業も登場し、中国庶民の間で、日本、韓国がどんどん身近になっているのを感じさせます。加えて、香港のチョン・ダッミン(張達明)や台湾のリンダ・リャオ(廖語晴)、さらに中国で人気急上昇中のアメリカ人タレント・マイク隋ら個性的人物が次々登場し、どこか無国籍な印象を与えます。
さて、作品を見たのは北京百老匯新世紀影院です。王府井と東単1駅ぶんを占める東方広場の東の端にあり、東単駅の目の前でとにかく交通が便利です。全ホールで831人の収容力を持ち、設備も充実しています。また、会員制度が充実しているほか、火曜日や午前中は料金半額と、旅行者でも利用しやすいのが魅力です。実は私にとって、北京で最初に入った映画館がここです。
【データ】 楽翻天 Happy Hotel 監督:ワン・ユエルン(王岳倫) キャスト:ニン・ジン(寧静)、ジャン・ウー(姜武)、チョン・ギョンホ(鄭京虎)、モン・トンディー(孟瞳逓)、ヤオ・ルー(姚櫓) 時間・ジャンル: 90分/コメディー 公開日:2012年8月2日
北京百老匯新世紀影院 所在地:北京市区東城区長安街1号東方新天地地下1階 電話:010-85186778 アクセス:地下鉄1号線東単駅下車徒歩2分、B出口から歩道橋を渡って東方新天地に入り、すぐのエスカレーターで地下へ。
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2012年8月7日