梁朝偉+周迅『聴風者』
文・写真=井上俊彦
2011年には131億元の興行収入を記録するなど躍進を続ける中国映画。大作化、3D化が進む一方で、ローバジェット作品から大ヒットが生まれるなど、目が離せません。また、大都市から地方都市までシネコンの整備もこのところ急速に進んでおり、快適な映画館が増えています。そこで、実際に映画館に足を運び、北京の人たちとともに作品を楽しみ、作品に関連する話題からヒットの背景、観客の反応なども紹介していきます。
見えない戦場で見えない敵を探し出せ!
|
ポスター |
『インファナル・アフェア』シリーズをはじめ、数々のヒット作を送り出してきたアラン・マック、フェリックス・チョンのコンビが、トニー・レオンとジョウ・シュンというビッグ・スターを起用した作品を公開しました。監督と主演の組み合わせだけでも面白そうなのに、1950年代初頭という、スパイものとしては珍しい時代背景で情報戦を描く潜入スパイものというから、見逃せるわけがありません。さっそく前倒し公開となった8月7日に劇場に行きました。
新中国成立初期、大陸にはまだ多くの国民党工作員が残っていました。地下特務組織701は、彼らの無線通信局を監視するのが仕事でしたが、1951年10月8日、701は突然すべての国民党通信局が消えてしまったことを発見します。これは敵が新たなチャンネルに移ったことを意味しますが、それが見つかりません。組織の指導者である郭興中(ワン・シュエビン)は新たな局を探り出すため、聴覚に優れたスタッフを集めようとします。張学寧(ジョウ・シュン)も郭の命を受け上海に調律師を招聘に行きますが、そこでアシスタントの何兵(トニー・レオン)が持つ特殊な能力に気がつきます……。
北京橙天嘉禾影城万柳店は開業2年の新しい大型商業施設・華聯万柳ショッピングセンターに入る6ホール、1200席余りの規模を持つシネコン |
モールス信号を使った情報スパイものとしては、中国には『永不消逝的電波』(1958年)という名作があり、これは現在でも時々深夜に映画チャンネルで放送されています。また、ジョウ・シュン主演のスパイものというと、『風声』(2009年)が思い出されます。どちらも、共産党の地下工作員を国民党があぶりだそうとする設定で、今回はそれが逆になっているのが新しいと感じました。
演技を楽しんでいるジョウ・シュン?
感想から言ってしまうと、正直なところ『風声』の方がストーリー性があり、ドキドキ感が強かったように思います。今回の作品は、敵と離れた場所で相手を探るわけですから緊張感が少ないのもいたし方ないところかもしれません。そのぶん、ジョウ・シュンやトニー・レオンの演技で見せる部分が多く、ファンとしては楽しみが大きい作品だと思います。特に、「ジョウ・シュン・マニア」を自認する私にとって、全編にあふれる彼女の魅力を感じることができたのは幸いでした。『画皮Ⅱ』の彼女も良かったのですが、この作品では1940年代末上海上流社会でのパーティードレス姿から新中国初期のシンプルなファッション、軍服などの“着せ替え”(笑)を楽しませてくれます。また、任務の中で自分の感情を胸にしまいこみ、使命のために命さえささげようする女性を生き生きと演じていて、演技をとても楽しんでいたように感じました。やはり、素晴らしい俳優が相手で、触発される面もあるのでしょうか。
|
|
大きな吹き抜けの明るいショッピングセンターで、人気レストランも多数入っており、平日でも多くの人でにぎわっていた |
地下鉄10号線の終点・巴溝駅に直結しており、夕立の予報だったこの日も安心して行くことができた |
その相手役のトニー・レオンも、視覚障害を持つ小人物だが特殊な聴覚能力を持つという難しい役どころを、ごく自然に演じているだけでなく、今までファンが見たことのないような表情を見せます。サングラスをかけているシーンが多いのですが、それでも彼のかっこよさを隠すことはできないという感じです。
報道によれば、同作品はこの初日だけで2000万元の興行成績を記録し、多数公開の国産映画中トップとなったそうです。もう1つの主演作『画皮Ⅱ』が中国映画の興行成績記録を塗り替えるヒットとなっている中、客が呼べる女優として、ジョウ・シュン人気は不動のものとなりそうです。
【データ】 聴風者 The Silent War 監督:アラン・マック(麥兆輝)、フェリックス・チョン(荘文強) キャスト:トニー・レオン(梁朝偉)、ジョウ・シュン(周迅)、ワン・シュエビン(王学兵)、メイヴィス・ファン(范暁萱) 時間・ジャンル: 120分/サスペンス 公開日:2012年8月7日
北京橙天嘉禾影城万柳店 所在地:北京市区海淀区巴溝路2号華聯万柳ショッピングセンター5階 電話:010-82565511-802 アクセス:地下鉄10号線巴溝駅下車徒歩1分、C3出口を出て西に向かうとすぐ
|
|
プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2012年8月9日