中国で剣道を再開する
文=住田尚之
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北京の剣道仲間たちと共に(筆者は右端) |
住田尚之 (すみだたかゆき) 1977年広島県生まれ。弁護士(東京弁護士会)。浩天信和律師事務所顧問。2008年にJICAの法整備支援プロジェクト専門家として北京に赴任し、約10年ぶりに剣道を再開する。北京日本人会剣道同好会事務局長 |
最近知ったのですが、長期のブランクを経て剣道を再開した人のことを「リバイバル剣士」、略して「リバ剣」と言うそうです。私は2008年の北京赴任をきっかけに約10年ぶりに剣道を再開した「リバ剣」の一人です。
私の剣道歴は、小学校(地元の剣道クラブ)、高校(弓道部と掛け持ち)、大学(週一回のサークル)でそれぞれ2年間ずつくらい稽古してきたという、やや複雑、というより中途半端なものであり、何も外国に来てまで剣道を再開する必然性はなかったのですが、北京赴任直前の健康診断の結果「メタボ対策」の必要を痛感させられ、そのことが剣道を再開するきっかけになりました。
北京に赴任してしばらくして「北京日本人会剣道同好会」に入会しました。同好会では、全くの初心者から七段までの様々なレベルの会員が毎週土曜日に日本人学校に集まって切磋琢磨しています。早いものでもう4年になり、私もいつの間にかすっかり古株になってしまいました。
剣道は、戦後の一時期は軍国主義の象徴のように言われて禁止されていたこともあるほどのスポーツであり、中国では受け入れられにくいイメージがあるかもしれませんが、実はここ数年、中国の剣道人口は急速に増えてきています。北京だけでも、「煉津館」「剣元上至」「五輪館」といった中国人の道場があり、最近では五段に合格した人が出てくるなどレベルも年々上がってきています。毎日どこかの道場が稽古をしているので、(やる気と時間さえあれば)北京に居ながらにして「剣道三昧」の生活を送ることも可能です。また、最近、中国は国際剣道連盟(FIK)に加盟し、2009年からは世界剣道選手権大会に代表選手も送り出しており、世界の剣道界の一員としての存在感を示しつつあります。
中国人剣士には、剣道が出てくる日本の漫画や映画がきっかけになって剣道を始めたという人も多いようです。先日、「五輪館」で稽古した後、館長が車で家まで送ってくれたのですが、車内内蔵テレビで「武士道シックスティーン」という日本の映画を見せてくれました。館長の車にはその他にも剣道に関係する日本の映画がビッシリ常備されており、漫画、映画の影響力の大きさを感じました。中国剣士は、漫画、映画といったところから入る人が多いためか、オーソドックスな「中段の構え」では飽き足らず、「上段の構え」のような攻撃型の構えや、日本でもめったに見掛けない「二刀」に果敢に挑戦しようとする人も少なくないので、見ていて面白いです。先日の北京の試合では、初めて「二刀」同士の試合を見ました。
本稿を脱稿する直前、不幸にして日中両国の関係が極度に悪化する事態が発生してしまいましたが、我々としては引き続き剣道の「交剣知愛」の精神(剣道を通じてお互いを理解し尊重するという精神)で中国剣士たちとの交流を続け、日中友好の灯が消えないようにしたいと思っています。一日も早く両国の関係が回復することを願ってやみません。
人民中国インターネット版 2012年12月