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漢詩に魅せられて北京吟行

 

文=中村朔

2011年の夏、僕は酷暑の北京に家族とともにいた。漢詩を作るために。

「漢詩」と出会ったのは、2年前、中学に入って最初の国語Ⅱの授業。担当の大野広之先生が、漢詩など全く見たことも読んだこともないわれわれに、「春暁」「江南春」「楓橋夜泊」といった有名な漢詩を、訓読で読ませるだけでなく、ピンインを振り、中国語で暗唱させ、詩のリズムを体得させてくれたことに始まる。

詩を味わうためには、中国人の感性や感覚を理解することが大切だと考える先生の講義は、漢字の成り立ち、詩に詠み込まれている花鳥風月などの自然や風習、当時の中国人のものの考え方にまで及んだ。中国文化の奥深さにどんどん引き込まれていった僕は、東京都日中友好協会主催の『中国語朗読コンテスト』全国予選にも挑戦し、中3の夏休みに完全オリジナル漢詩創作を目的に、両親の協力を得て「北京吟行」を決行した。

1週間ほど滞在し、現代の中国を詩にすることにした。幸運にも祖母の古くからの友人で、日中国交回復後初の国費留学生として日本に留学した元北京外語大教授の厳安生先生や、母の知人で中国に魅せられ、半分中国人民化した金田直次郎さん(故人)という編集者が旅の一部をエスコートしてくれた。

頤和園「知春亭」で柳にそよぐ風を詠み、虫かごのキリギリスなどをなんとか五言や七言の絶句の形にしてみたが、古今東西の著名な詩人達がこぞって詠んだ「万里の長城」の八達嶺に登った際に詠んだ漢詩に、最も自分の思いが込められているような気がしている。

三伏深渓響鵲声 (三伏の深渓に鵲声が響き)
八達嶺上山気生 (八達嶺上に山気は生ず)
古敵現在成遊客 (古敵は現在遊客となり)
遥続龍背渡同風 (遥か続く龍背を風と共に渡る)

ゴンドラで谷を渡る時、背後を紺色の中型の鳥が飛んでいくのが見え、後から調べたところ鵲であることが分かった。所どころ崩れてはいるが、頑強に組まれた石の壁の道が龍の背中のようにうねりながらどこまでも続いていく長城。

この日も暑かったが、風が通ると少し涼しく感じられた。北の異民族を防ぐために、考えられないような年月と莫大な費用、さらに無数の人民に犠牲を強いて築いたこの長城を、今では世界中の外国人(ある意味異民族)が観光に訪れ、お金を落とし、そのおかげで保護できているという皮肉もちょっと込めてみた。

平仄のルールを出来るだけ守ろうと努めたが、承句の「八達嶺上山気生」の平仄が「二四不同二六不対」になってしまった。「八達嶺」は崩せないので「山気」にかわる言葉を辞書で探したが、これというものが見つからず、その点不本意だ。

 

 

中村 朔 (なかむら さく)

1996年東京生まれ。慶應義塾高等学校1年在学中。

小学校五年生の時『日中韓子供通信使2007』に選ばれ、同時に「日中韓子供夢サミット」の日本代表として活躍。『中国のエリート高校生 日本滞在記』(日本僑報社刊)の翻訳の一部を担当。

写真は、「万里の長城」八達嶺にて、両親と筆者(右端)。真夏の光線はまぶしく目を開けているのがつらいほど

 

人民中国インターネット版 2012年7月

 

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