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頑張れ北漂族!『愛拼北京』

文・写真=井上俊彦

 ここ数年、興行収入急上昇の勢いは止まらず、ますます多くの作品が公開され、さまざまな話題が生まれている中国映画です。そこで、このコラムでは地元・北京の人々とともに映画館で作品を鑑賞し、新作や映画界の話題を紹介していきます。同時に、そこで見聞きしたものを通して、北京の人々の生活も感じ取っていければという姿勢で映画館通いをしていきますので、お付き合いいただければ幸いです。

ポスター

崖っぷちDJが起死回生のヒット!

また、間隔があいてしまいましたが、その間に1~9月の興行成績が発表になっています。164億元は昨年1年間の総収入に迫る数字で、今年もここ数年同様順調な伸びを見せています。例年と違うのは国産映画が96億元と、海外映画を大きく引き離していることです。それでも、このところ海外の大作が矢継ぎ早に公開されて人気を集めていますので、最終的には内外比率も少し変わってくるかもしれません。

そうしたわけで、このところ国産の地味な作品がメディアに取り上げられることが少ない印象ですが、思い切りローカル色を出した北京ならではの作品が公開されたので見に行ってきました。私は北京市内の西側に住んでいますが、北京でオシャレに発展しているのは東側で、日本人のほとんどもこの方面に住んでいます。地方から出てきて北京で頑張る若者たちのあこがれもこの東側で、彼らの多くはにカタカナ商売や外資系企業などでの成功を夢見て奮闘しており、「北漂族」などとも呼ばれます。

その「北漂族」の姿を描いた作品が『愛拼北京』です。紫蘇(ヤン・ヤン)はFM局のDJですが、担当番組の聴取率が低迷し上司(ジャー・ナイリャン)から企画変更のプレッシャーを受けています。不動産仲介会社の営業・盛超(チー・チェン)は仕事の都合で郊外の通州に友人の子修(リー・ジウシャオ)と部屋を借り、母親の助力で買った市内の部屋は幼なじみの暁雯(ジャオ・クー)に貸しています。ある日、母親が湖南省から出てくることになり、部屋を貸していることを知られたくない盛超は、母の滞在中だけ暁雯と部屋を交換します。このため、暁雯のルームメートの紫蘇と盛超、暁雯と子修と男女が同居することになってしまいます。紫蘇は、盛超が部屋の仲介で出会った人々の物語を聞き、これが番組再生の切り札になると感じて彼に協力を求めますが……。

この映画のつり革広告を発見。地下鉄で映画の広告は北京では珍しいが、地下鉄で通勤する「北漂族」をねらったものと思われる

釣魚台東のイチョウ並木(11月3日撮影)はまだいちばんの見ごろにはなっていないが、大勢のアマチュアカメラマンでにぎわっている

頑張る地方出身者の物語を取り込む

主人公を演じるヤン・ヤンはオーディション番組からデビューして注目される歌手・俳優で、今年大ヒットした『小時代』にも出演していました。同作ではヤン・ミー(楊冪)の彼氏を奪う役ですから美人であることはご想像いただけると思います。その彼女が演じる紫蘇がラジオ出演を交渉する人々を通じ、観客はこの大都市にさまざまな思いとともに暮らしている地方出身者を目にしていきます。

タクシーやトラックの運転手、屋台の店主など現場で働く人がよく接しそうなメディアのFMラジオの番組を中心に持ってきたのはよく考えられていると思いました。全体としてびっくりするような展開ではありませんが、借りている部屋がきっかけで知り合ったカップル、北京でマンションを持たないため彼女に見限られた若者の孤独な奮闘など、地方出身者を取り巻く問題をうまくストーリーに組み込んでおり、彼らの喜びや苦悩がよく描かれています。北京の常住人口は2000万人余りで、このうち外来人口は770万人程度となっています。

ロケ地も、北京で最も先端的なCBDエリアと郊外というよりは北京の田舎とされる通州が対比されるなど工夫されています。彼女たちの部屋の賃貸料4500元の微妙な設定や、学生が借りる300元の部屋の様子などもリアリティーがありました。また、多くの若者がモバイルやパソコンで番組を聞く様子が、今の北京を別の角度から表しているようです。作品には「植入広告」(プロダクト・プレースメント)が多数入っていますが、それらのスポンサーは軒並みネットで人気の「団購」(共同購入)やお見合いサイトです。そして最後に、エンドロールにかぶせてさまざまな人が北京についての思いを語るのにも興味を引かれました。

このように、地方出身の外国人である私には設定もストーリーも興味深かったのですが、ハリウッド巨編がスクリーンにあふれているせいか観客は少なく、北京で起こっている現実と観客が映画館で見たいものとはまた別なのかという感想を持った次第です。

11月26日、頤和園で行われた外国人によるロング・ウォークに参加したときに撮影した写真。秋も深まりつつある

この日は、例のラバーダック公開最終日とあって観光客が押し寄せていた。頤和園にラバーダック、似合っているかどうか?

【データ】

愛拼北京(Striving in Beijing With Love)

監督: カン・ボー(康博)

出演:ヤン・ヤン(楊洋)、チー・チェン(季晨)、ジャー・ナイリャン(賈乃亮)、ジャオ・クー(趙柯)、リー・ジウシャオ(李九霄)

時間・ジャンル: 90分/愛情・青春

公開日:2013年10月29日

ショッピングセンター6階にある映画館正面入り口

北京新東安影城

所在地:北京市東城区王府井大街新東安広場6階

電話:010-65281898

アクセス:地下鉄5号線灯市口駅下車、C口を出て南へ進み金魚胡同を西に向かい徒歩7分

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2013年11月5日

 

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