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コロンス島のエスプレッソ

 文=島影均

 

コロンス島の最高峰・日光岩から。水路の対岸がアモイ島

春節(旧正月)休暇中に、5泊6日で福建省厦門(アモイ)旅行を楽しんできました。最高気温27度の真夏なみだった2月2日、アモイ島とわずか500㍍先に浮かぶ鼓浪嶼(コロンス島)にフェリーで渡りました。春節休み3日目で日曜日とあってすさまじい人出でした。翌日の地元紙『厦门日報』によると約1・8平方㌔の島に上陸した人数は延べ8万3000人で、普段の日曜日の倍以上だったようです。

島の狭い路地はまるで毛細血管のように枝分かれして、租界時代の古びた赤レンガの建物の間を縫うように通っています。3、4階建ての洋館が多く、ホテルやレストランに再利用されたり、住宅にもなっています。

 洋館に「花時間」という小さな看板を掲げた喫茶店で久しぶりに本格的なエスプレッソを味わいました。こじんまりしたの洋館で階段を上がると小部屋がふたつあり、そのひとつを抜けるとカウンターがあり、木製のイスが数脚並んでいました。カウンターの中には日本人かと見まごう中年男性と中学生くらいのメガネを掛けた男の子がいて、厨房らしい奥にはもうひとり女性が見えました。夫婦で経営している喫茶店で冬休み中の息子が手伝っているようでした。

 カウンター席に座ってエスプレッソを注文しました。元新聞記者はいろいろ質問したい気分でしたが、何となく多言は無用という雰囲気が漂っています。それでも「いつから?」「7年前です」「どうしてここへ」「昔、遊びに来て気に入ったもので…」「この建物は?」「フィリピンの華僑と聞いています」「昔はどうでした」「来たばかりの頃は、ずっと静かでしたよ」と、ちょっと寂しそうな表情が浮かびました。

カウンターに雑記帳が置いてありました。パラパラッとめくって驚きました。中には小さな几帳面な字で5㌻も6㌻も書いている人がいるのです。多くは女性らしく、カップルで来て永遠の愛の誓ったものもありましたが、初恋の旅でこの島に来た思い出をつづり、ともに過ごした美しい時間を懐かしんでいるのもありました。10分や20分では書ける量ではありませんから、じっくり腰を落ち着けて青春時代に思いを馳せたのでしょうね。

 炎天下の観光ルートに戻り、この島の最高地点・日光岩を目指しました。標高92㍍で頂上に登れば360度のパノラマを楽しめる、とガイドブックに書いてあります。日光岩のふもとは案の定、長蛇の列。あきらめようかと思いましたが、60元(約1000円)のチケットを買ってしまっていましたから、「もったいない」精神で小1時間列に並び登頂に成功しました。素晴しい眺望でした。ここから旅の目的地のひとつ、アモイ大学のキャンパスも遠望できました。

アモイ大学は中国で一番美しい大学と評判です。レンガ造りの落ち着いた雰囲気の校舎がゆったりと配置され、常緑樹に囲まれた湖のほとりのベンチは思索にぴったりでした。キャンパスの外れに長さ約1㌔のトンネルがあります。入ってみると両側の壁に、アモイ大学の学生たちが書いた漫画やメッセージで埋まっていました。どこにでもある観光客の無作法な落書きもありましたが、コロンス島の喫茶店で感じた青春の息吹がここにもありました。「私の一生にあなたがいれば十分」「2013年初夏に出会い、晩秋に愛し合い、2014年は結婚する運命!」「遠距離恋愛の成功率は宝くじに当たる率と同じぐらい低いと言われるが、われわれには当てはまらない。距離と時間で愛に試練を!」。恋愛ばかりではすまない世知辛い世相を反映したのもありました。「就職恐怖症!いつまでも卒業したくない」―。

 

人民中国インターネット版 2014年3月13日

 

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