People's China
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デートよりも「ウィーチャット」

 

文=島影均

つい先日、筆者と同世代の日本人の友人が北京のあるレストランでいつものように従業員に「WiFiの暗証番号は?」と聞いたそうです。「iloveyouです」。その友人はそれまで見ていたスマホの画面から顔を上げて、「エッ?」と聞き返すと、可愛い女性従業員が恥ずかしそうにもう一度「ILOVEYOU」と繰り返したそうです。数桁の数字の暗証番号が一般的なのですが、そのレストラン経営者のユーモアか、店のPR作戦なのでしょう。中国が隅々までネット社会化している証拠だとも言えるでしょう。

筆者は1988年夏から1992年春まで、3年半、北海道新聞の記者として北京に駐在し、北京市内はもとより、中国各地に取材に出掛けました。当時、携帯電話はなく、せいぜいポケベルでしたから、連絡するのも簡単ではありませんでした。地方から北京に電話するには、まず「公用電話」の看板を探し、交換手を呼び出し、相手の番号を言ってやっと通じました。さらに東京、札幌に国際電話をかけるとなるともっと手間が掛かりました。さらに大変だったのは写真を送ることでした。DPE屋を探すのがまず一苦労でしたが、この写真を日本に送るには電話局から、電送するしか方法はありませんでした。しかも送料はかなり高額でした。

それから4半世紀を経た現在、中国は恐らく世界一の情報化社会になっているのではないでしょうか。北京はじめ大都市だとほとんどどこでも「WiFiの環境があり、地下鉄やバスの中でも微信(ウェイシン、ウィーチャット)を使って、文字も画像も音声も無料で送れるのには驚きです。

ケイタイ時代というよりは、微信時代と言っていいかも知れません。先日、北京のあるバーのカウンターで友人とワインを飲んでいた時、ふと振り向くと若い女性の一団が大きなテーブルを囲んで座ったところでした。友人と「騒がしくなるぞ」と大騒音を予想しました。しばらくして後ろの席が静かなのに気が付きました。振り向いてみると、10人の女性が全員、スマホを操作していて一言も発しません。それぞれ、目の前に飲み物がおいてありますが、見向きもしません。「何で飲みに来るのかね」「話しはしないんだな」と、まるで「異星人」に出会ったような気分で顔を見合わせました。便利には違いありませんが、実際に会って、話しをして交流するという、かつての社会とはまったく異質の社会に変りつつあるようです。

中国の新聞を読んでいると、情報の最初の発信源がネットユーザーである記事が多いことに気が付きます。世界的に「ジャーナリズムとは何か」が問い直されている中、中国メディアは新たなジャーナリズム論を確立する上で、最も適した環境に置かれているのではないかと思います。

毎週末に、40代から60代の兄弟姉妹6人が集まって食事をしている友人から聞いた話です。「幹事役の弟が食事前に全員のケイタイを集めるのです。最初はみんな文句を言いましたが、今ではゆっくり食事を楽しみ、会話がはずみます」。ネット社会で失われつつある温もりを大切にする人たちもいることを知って大いに安心しました。

デート中のお二人さん。愛は語らず?スマホに夢中

 

人民中国インターネット版 2015年3月

 

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