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改革深化へ具体策を示す

                                             

夢「全ての道は上海へ」

中国が今年、7・5%成長を遂げると、経済規模で米国以外は未知なる領域であった10兆㌦台に突入します。対外関係では、昨年には、貿易額で世界第1位(4兆㌦、世界の約120カ国・地域にとって最大の貿易相手国)になっています。また、対中直接投資額は世界第2位です。中国の世界経済の成長に対する貢献率はすでに30%(昨年)に達していることなどから、中国経済の行方に世界の関心は高まるばかりです。

中国の対外関係について、「報告」では、「中国(上海)自由貿易試験区(上海自貿区)をしっかりと整備・管理する」「輸出入貿易総額は7・5%前後の伸びを所期目標とする」「高基準の自貿区の整備に積極的に参与し、中米・中欧投資協定の交渉を進め、韓国、オーストラリア、湾岸アラブ諸国会議協力会議(GCC、注3)などとのFTA交渉の歩みを速める」としています。今年の対中貿易・投資では、上海自貿区の行方が最大の注目点の一つとなるでしょう。

2001年12月、中国は念願の世界貿易機関(WTO)加盟を果たし、その後、世界におけるプレゼンスを高めてきました。現在,中国にとって,当時のWTOに相当するものは,世界各地に存在するFTAということになるでしょう(注2)。目下、中国は、アジア・太平洋、とりわけ東南アジア諸国連合(ASEAN)とのFTA構築で大きな成果を収めています。「報告」から、今、中国は中韓FTA、中豪FTA協定を締結し、米国主導の太平洋経済連携協定(TTP)と環大西洋投資パートナーシップ(TTIP)との連携の道を探ろうとしている姿勢にあることが読み取れます。

目下交渉中のTTP、TTIP(いずれも中国不在)が成立し中国包囲網が構築されれば、中国経済の発展、ひいては、「改革深化」に大きな影響が出るとする中国の識者は少なくありません。この点、韓国はアジアで唯一米国と欧州連合(EU)とFTAを締結しています。オ-ストラリアはTPP加盟交渉国です。韓国、オーストラリアとのFTA締結は、TTP、TTIPとの接点になります。また、米国、欧州(主にEU)との投資協定は、主に中国企業の対外進出に大きな意義があります。仮に、TTP、TTIPが成立しても、投資協定があれば、両地間の投資活動が積極化し、TTP、TTIPの中国へのマイナスの影響を少なくすることが可能となります。TTP、TTIPは、目下、中国が積極的に推進しようとしている「新シルクロード経済ベルト」建設の推進と大いに関係があるのではないでしょうか。新シルクロード経済ベルトは、FTA真空地帯である中国から欧州に至る中央アジアに、将来、TTP、TTIPにも相当する大FTAを誕生させる可能性を秘めています。GCCとのFTAはその重要な部分として期待できるということになります。「全ての道はローマに通ず」という格言があります。このローマを今の中国に求めるとしたら上海自貿区を有する上海ということになるでしょう。対外開放度の極めて高く、運営面で大胆な対外開放措置が採られている上海自貿区は、30余年前、改革開放の先陣を切った「経済特区」が、中国のWTO加盟に道筋をつけ、中国経済の国際化と世界経済の発展に貢献したように、世界でのFTA構築の動きに大きな一石を投じることになると期待できます。上海自貿区発で昔のシルクロードの夢をもう一度ということです。

 

注1 全国人民代表大会(全人代)と中国人民政治協商会議(政協)のこと。全人代は日本の国会に相当し、政協は国政諮問機関。毎年3月開催されるが、今年はその第12期第2回会議

注2 FTAの詳細については、本誌2013年12月号の本欄「新地域発展戦略とFTA」を参照。

注3 1981年成立。バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の中東6カ国で構成

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長をを務めた。

 

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