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バーチャルの故宮を散策

 

文=島影均

故宮のVC画像を映し出している曲面スクリーン(写真・故宮文化資産デジタル化応用研究所提供)

世界遺産に指定されている北京の紫禁城・故宮博物院は来年、博物館として公開されてから90周年を迎えます。明、清王朝の権威の象徴だった故宮は年間800万人が訪れる一大観光地になっています。

昨年10月2日、国慶節の休日を利用して全国津々浦々からやって来た「お上りさん」はじめ、中国香港、澳門(マカオ)、台湾の「同胞」のみなさん、それに外国人観光客も加わり、一日の入場者は18万人を超えたそうです。平日は平均4万人ですから、凄まじいとしか言い様がありません。

故宮は78万平方㍍に及ぶ敷地に世界最大の木造建築・太和殿はじめ多数の建築物が立ち並び、地下倉庫には180万点の収蔵品が眠っています。現在、公開されているのは建築物の3分の1、収蔵品の展示は年間8000点程度だそうです。

博物院は貴重な歴史教育の教材をもっと多くの人々に見てもらおうと、未だに開放していない建築物の整備を進めているそうです。

一方、頭を悩ませているのが文化財保護です。そこで昨年から、毎週月曜日を休館日とし、さらにその他の日も1日当たりの入場者数を8万人以下に制限しました。それでも国慶節のような例外もあり、公開と保護の2つの目的を達するのはなかなか難しいようです。

ここでこのジレンマ解決の特効薬として効き目を発揮し始めているのが、凸版印刷株式会社と博物院が協力して2002年に設立した故宮文化資産デジタル化応用研究所のバーチャル・リアリティー(VR)です。建築物、収蔵品をデジタル・アーカイブ化して、故宮をまるごと記録に残そうという壮大なプロジェクトです。

最近、故宮内にある研究所のVRシアターで作品を見せていただきました。1本目は「紫禁城・天子の宮殿」。高さ4㍍、幅12㍍の曲面スクリーンに映しだされる画面に没入してしまい、まるで自分自身の目線で見ているような錯覚に陥ります。天安門に近づくと、扉が開きます。最初は徒歩で移動している雰囲気ですが、そのうち空中遊泳が始まります。太和殿の上空から、かなたに景山が見えます。立体感があり、清朝乾隆帝当時の色彩を復元しているそうですが、極彩色が網膜を刺激します。

もう1本は、乾隆帝が隠居所としてぜいの限りを尽くして建築させた「倦勤斎」の内部です。現在、外から見ることは出来ますが、中には入れません。ところがそこはバーチャルですから、自由自在です。珍しい種類の竹をふんだんに使い、たくさんある小部屋には乾隆帝好みの書画が飾られ、それぞれの部屋に玉座が置かれています。

故宮ファン、歴史ファンがワクワクするような映像です。故宮博物院は来年の90周年の記念事業として、故宮内で一般公開する計画を立てているようです。実は日本では一足早く、東京・文京区の印刷博物館(トッパン小石川ビル)や東京・上野の国立博物館で鑑賞できます。

この研究所の揺籃期から13年間もVR制作に関わって来られた千葉雅哉所長(凸版印刷北京事務所代表)(63)は「息の長いプロジェクトでまだまだ課題がたくさんあります。中国の若手スタッフと心から付き合い、成長ぶりを見てこれたのが財産ですね」と目を細めていました。

 

人民中国インターネット版 2014年5月12日

 

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