もう一つの若者メディア『飛魚秀』
文・写真=井上俊彦
中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。
朝から上映のドキュメンタリーに若者が喝采
このところ大作や話題の文芸作品を多く紹介してきましたが、今回はユニークなドキュメンタリー映画をレポートしたいと思います。前宣伝もとんと見かけないドキュメンタリーでしかも午前中の上映、「観客は自分一人だな」と覚悟して出かけましたが、意外にもホールには若者たちが続々と入場してきて、観客は20人以上になりました。定員が70人ほどなので、けっこう混み合っている印象さえしたほどです。そして、みな各場面で大いに笑い、画面に向かって“ツッコミ”を入れるなど、とても楽しんでいるように見えました。
『人民中国』誌にも「中国国際放送で学ぶ中国のヒット曲」という人気連載がありますが、中国国際放送局(CRI)は多言語で主に対外放送を行う放送局で、早くから中国に関心をお持ちの方には「北京放送」と言った方が分かりやすいかもしれません。このドキュメンタリーは、同局が運営する中英2カ国語国内向けFM局のEasy FMで2004年から平日の午前8時から11時までライブ放送され人気の番組「Easy Morning 飛魚秀」の歴史を、最近5年を記録した映像を中心に振り返るものです。
「飛魚秀(フェイユー・ショー)」は、パーソナリティーのシャオフェイ(小飛=Felix)、ユー・ジョウ(喩舟)の名前を組み合わせてこう呼ばれています。番組では音楽をはさみながら、ふたりが軽妙な掛け合いでその日のテーマについて語り、多くの若者の支持を集めています。
10月は「金秋」と呼ばれ何をするにもいい時期とされとおり、あちこちで結婚式が行われているのを見かけた。派手に紙吹雪を散らした後はスタッフが掃除 |
番組を振り返ると見える「80後」の成長
このドキュメンタリーでは、もっぱら2人の会話、2人とリスナーへのインタビューで番組の歴史を振り返っています。ある日の番組放送の様子が紹介されますが、そこではオンエアされないCM中のやり取りも見られ、会場の爆笑を誘っていました。とぼけた味わいの話し方をするシャオフェイが「今日のテーマは『引き出し』でいこうか」と言うと、自由奔放なユー・ジョウが「そんなの面白くない、『騒ぐ』にしよう」とからみ、「じゃあリスナーに決めてもらおうよ」とマイクロブログへのコメントを求める様子が見られます。実は、この番組には熱心な「聴友会」(リスナー会)があるそうで、彼らの活動も紹介されます。以前一部地域でEasy FMが聴けなくなると伝えられたことがあり、その時にはリスナーたちが番組継続を求め集会を開いたそうです。
5年間の変化について、数人のリスナーへのインタビューも行っています。ある若者は番組が縁で結婚し子どもも生まれました。別の若者は失業中に熱心に番組を聴いていましたが、今は無事に就職し番組からは少し離れています。このように、作品では番組とともに成長してきたある人々を浮き上がらせています。それは、都市に暮らす若い「80後」(80年代生まれ)の中間層です。ニュー・メディアが注目を集める中国にあってラジオはオールド・メディアの代表ですが、この日の観客のほとんどが20代から30歳前後だったことからも、1980年生まれのユー・ジョウと同世代か少し年下のリスナーたちが、この番組を自分たちのメディアとして大切にしてきたことが感じ取れました。
盛り上がる観客の反応からも、普段は社会で話題にされることの少ないラジオ番組が、彼らにとって共感に満ちた大切なメディアだということがよく分かりました。そして、パーソナリティー2人とリスナーの5年の変化から、中国の若者の成長を見て取ることができ、番組を聴いたことのない私もとても楽しく感じました。
なお、現在では同番組はネットでも聴くことができます。話題が中国の若者の関心をよく表しており、ふたりの話し方も使う言葉も本当に今の若者らしいものなので、日本で中国語を学んでいる方には格好のヒアリング教材ではないかと思います。関心がおありの方はEasy FMのホームページからどうぞ。
http://english.cri.cn/easyfm/easymorning.html
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10月19日には北京の秋の風物誌ともなっている北京マラソンが開催された。人民中国雑誌社近くもコースになっており、朝早くからボランティアが準備しているのが見られた | 11月には北京の懐柔区でAPEC首脳会議が開かれるが、私の住むコミュニティーの掲示板にも関連ポスターが張り出された |
【データ】 飛魚秀(Feiyu Show) 監督:スン・ホン(孫虹) 出演:ユー・ジョウ(喩舟)、シャオフェイ(小飛) 時間・ジャンル: 78分/ドキュメンタリー 公開日:2014年10月23日
星美国際影城・世界城店 所在地:北京市朝陽区金匯路8号世界城E座地下1階 電 話:010-85907677 アクセス:地下鉄6号線東大橋駅下車、A口を出て東大橋路を南へ、景華北街を左折して東へ進み金匯路を南へ、徒歩10分 |
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2014年10月28日