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老人と少女と小鳥の旅『夜鴬』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

 

美しい広西の旅に次々とトラブルが

この週末は『忍者神亀』(ミュータント・タートルズ)をはじめ外国のアクションやSF映画が多数上映され活況を呈しています。国産映画では、ドニー・イェン(甄子丹)とワン・バオチャン(王宝強)が共演するアクション『一個人的武林』がやや健闘しています。こうしたSFやアクションばかりが目立つ中で、小粒ながら味わい深いドラマを鑑賞してきました。『夜鴬』は、『パピヨンの贈りもの』(2002)のフィリップ・ミュイル監督が、広西チワン族自治区を舞台に、家族の心の触れ合いと少女の成長を描いた心温まる作品です。

小学生の任幸は、著名建築家の父、ビジネスウーマンの母と北京市内でも有数の高級マンションに暮らしています。何不自由ない生活ですが、忙しい両親はすれ違いが多く、ともに過ごす時間が少ない娘を甘やかしています。一方、祖父の志根は彼らとは別に一人暮らしをしています。実は、彼は数年前に人混みで任幸を迷子にさせて息子との関係を悪くし、息子一家とはほとんど往来がないのです。しかし、夫婦に急な出張が重なり、任幸は一時帰郷する志根に預けられてしまいます。くだんの一件以来祖父を嫌っている任幸は、旅の途中でもわがまま放題の行動で祖父を困らせますが、桂林から間違って目的地・陽朔とは逆方向のバスに乗ってしまったことから、ふたりは次々とトラブルに遭遇します。ところが、道に迷い野宿をしたり、志根のケガのためミャオ族の村に宿泊するなどの経験は、むしろふたりがお互いに理解を深める機会になっていきます。そして、志根の旅の目的が亡き妻との約束を果たすことだと知った孫娘は、老人に願いをかなえさせようと……。

世代と生活環境の違いの中で老人と子どもが触れ合う物語は、アン・ホイ(許鞍華)監督の『上海の休日』(1991)などこれまでにもありましたが、この作品は、老人と孫娘が北京から広西チワン族自治区の陽朔とへ向かう途中、さまざまな出来事に遭遇するロードムービー仕立てになっています。陽朔とは桂林市管轄の県で風光明媚、中国では有名映画『劉三姐』(1960)のロケ地として知られます。

 

王府井では今年5月、新華書店の向いに新燕莎金街ショッピングセンターがオープン、高級店を多数擁して新たな人気スポットとなっている 北京APECを目前に控えて三環路にはのぼりも登場、歓迎ムードが高まっている

 

「00後」が活躍する中国芸能界

少女の名前は任幸で、劇中の行動を見ながらその名を聞いていると同音の「任性」(わがまま)を思い浮かべます。そのわがままぶりは、最近の言葉で言うと「超標」(基準オーバー)です。「北京にはいるよなあ、こういう甘やかされた子が」と苦笑いしながら見ていたのですが、旅の途中でトラブルを克服したり人々と触れ合ったりしているうちに、少女は次第に人間的に成長していきました。そして、その変化を子役がしっかり表現していることに気がつきました。演じているのはドラマ『宮廷の諍い女』で甄嬛の娘・朧月公主を演じたヤン・シンイーです。

今、中国では「童星」(子役スター)が話題を集めています。この2年ほど、テレビの親子バラエティー『爸爸去哪児』に出演したスター二世がアイドル的人気を博していますが、実は映画やドラマからも次々と子役スターが生まれています。『唐山大地震』(2010)のチャン・ズーフォン(張子楓)、テレビドラマ『蒼穹の昴』や『蘭陵王』のジャン・イーイー(蒋依依)、台湾地区からはウー・ルオシュアン(呉若瑄)と、次々と注目の子役が現れています。芸能界では今や「00後」(2000年代生まれ)が活躍する時代なのです。そして注目される子役たちに共通しているのは、いずれも可愛いだけでなくしっかりした演技ができるということです。名優リー・バオティエンを相手に丁々発止と渡り合う2005年生まれのヤン・シンイーには、風格さえ感じます。

そうそう、時代と言えばこんなシーンがありました。任幸が村の子どもに自分の持ち物と小鳥(ナイチンゲール)を交換しようと持ちかけるのですが、村の子は「iPhone4S? そんな古いものいらない」と応じるのです。これには笑いました。というのも、実は少し前のシーンで、任幸が老人のスマホではないケータイを「化石?」とバカにしたばかりだったのです。中国の(日本もですが)ケータイの発達スピードにはすさまじいものがあります。

なお、鑑賞した後で知ったのですが、実はこの作品、チャン・イーモウ(張芸謀)監督の『帰来』などを抑えて米国アカデミー賞外国語映画賞の中国代表作品に選ばれたそうです。

 

秋も深まった北京。日曜日には黄葉のメッカ、釣魚台のイチョウ並木にはこの人出

 

新東安市場は昨年からリニューアルが進められ人気ショップが次々オープン、グルメ街も充実して行列ができる店が何軒も見られれるようになった

 

【データ】

夜鴬(Le Promeneur d'Oiseau)

監督:フィリップ・ミュイル

出演:リー・バオティエン(李保田)、チン・ハオ(秦昊)、リー・シャオラン(李小冉)、ヤン・シンイー(楊心儀)

時間・ジャンル: 95分/ドラマ・家族

公開日:2014年10月31日

 

 

百老匯国際影城・apm店

所在地:北京市東城区王府井大街138号新東安広場6階

電 話:010-65281898

アクセス:地下鉄1号線王府井駅下車、A口を出て王府井大街を北へ、徒歩9分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年11月3日

 

 

 

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