独身デー対決『単身男女２』『露水紅顔』

文・写真＝井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20～30％前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

恋愛映画多数公開の「双十一節」、成績は……

「双十一節」とも呼ばれる11月11日は、中国では独身デーとされ恋愛映画がよく公開されます。しかし最近では「買い物デー」としての側面が特にクローズアップされています。「1」は「イー」のほかに「ヤオ（要と同音）」とも読め、「ほしい×４」となることから、ネットショッピング・サイトが大セールを行って人気なのです。最大手のアリババがこの日1日だけで571億元（1元18円の換算で1兆円超）を売り上げたほか、他のサイトも好調だったようです。もちろん、乗せられやすい私もいくばくかの貢献をしました。

そして、今年も独身デーを当て込んで恋愛映画が何本も公開されました。しかし、よく考えると2011年の『失恋の33日』以来、この時期に大ヒットは生まれていません。みなさんこの日は出かけずに、パソコンに向かって買い物をしているか、品物が届くのを待っているのかもしれません。そんな中でも比較的話題になった『単身男女２』と『露水紅顔』を、週末16日に若者でにぎわう王府井にある横店影城と百老匯国際影城apm店で鑑賞しました。


『単身男女２』	『露水紅顔』

『単身男女２』はヒット作の続編で、前作で最後にフラれた張申然（ルイス・クー）が、他の男女を巻き込みながら偶然再会した程子欣（ガオ・ユアンユアン）に再アタックする物語です。一方、『露水紅顔』はリウ・イーフェイと韓国のスターRainの顔合わせによるせつないラブ・ストーリーで「露水」はかりそめの愛、「紅顔」は美人を意味します。

お金と恋愛が若者の最大関心事なのか？

ある映画情報サイトでは『単身男女２』のポイントが高く、『露水紅顔』は平凡でした。興行成績的には前者が公開1週間で1億4000万元を突破し、ジョニー・トー作品としてはこれまで最高だった『盲探』の2億元に迫る勢いです。一方の『露～』は4000万元程度と期待ほどではなかったようです。ところが、私が見た回は前者は閑散としていたのに、後者は若い女性でかなり埋まっていました。そして、一緒に見た映画仲間も情報サイトとは逆に『露～』に軍配を上げました。

北京横店影視電影城が入る王府井百貨ビル。この時期は各方面の努力により、連日「APECブルー」と呼ばれるさわやかな青空が広がった

『単身男女２』は、私には『1』とは別の監督が撮影したのではと感じたほど違った味わいになっていました。『1』では蘇州出身で香港の金融界での成功のために頑張る「剰女」の生活ぶりにもリアリティーがあったのですが、今回は突然生活環境が豪華になっており、何を仕事にしているのか豪華クルーザーまで所有する兄（ヴィック・チョウ）も登場してきます。そんな兄がいるなら、『1』での頑張りは何だったんでしょうか。大成功と没落が背中合わせの金融界で働き、フェラーリやマセラッティーが華々しく登場する世界に暮らす登場人物が、恋愛にだけは中学生のように純粋というのも納得できません。

一方、『露～』は冒頭の出会いからメルヘンチックで、「あり得ないだろう」という常識を無視した展開ですが、それなりの世界観の中で物語が進みます。やがて、男性の正体が明らかにされたかと思うと実は主人公も……という謎解きも意外性があり、ファンタジックな男女のロマンスの中で、リウ・イーフェイのさまざまな魅力がスクリーンいっぱいに映し出されます。相手役のRainの好青年ぶりも嫌味がありません。韓国ドラマのようなテイストですが、それなりに最後まで楽しんで見られました。ドラマ『三国志 Three Kingdoms』など重厚な時代劇で知られるガオ・シーシー監督がラブロマンスというのはどうなのかと思ったのですが、違和感はありませんでした。


10月までの観光シーズンは終わった北京だが、例年以上に観光客が多いように感じる。11月になっても什刹海には帽子をかぶった団体客が大勢見られた	東京の銀座にも例えられる王府井には、この時期に開催されたAPECに関する展示もされていた