帰ってきたヒーロー『黄飛鴻之英雄有夢』
文・写真=井上俊彦
中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。
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来年2015年の春節(旧正月)は2月19日ととても遅くなっています。このため、例年クリスマスから正月にかけてと春節の2つのピークがある「賀歳檔」(正月興行)は、今年は途中にバレンタイン・デー興行をはさんで史上最長と言われています。そして、上映作品には話題作が集中しており、史上最強のラインナップだそうです。
今後上映予定の国産映画をざっくりとご紹介しておきましょう。12月2日からは早くもジョン・ウー(呉宇森)監督の新作でチャン・ツィイー(章子怡)、金城武らに加え、長澤まさみも出演することで早くから注目されていた『太平輪(上)』が公開されます。12月18日にはジャン・ウェン(姜文)監督4年ぶりの新作『一歩之遥』が控えています。ツイ・ハーク(徐克)監督の『智取虎威山』は12月24日公開予定です。こうした大作に加え、ヒット作の続編となる『小時代4』『爸爸去哪児2』『澳門風雲2』などが春節に向けて準備されています。さらにそれらの間をぬうように、レスト・チェン(陳正道)監督の『重返20歳』、クー・チャンウェイ(顧長衛)監督の『微愛之漸入佳境』など日本でも知られる監督の作品、そしてネットで話題のマンガを映画化した『十万個冷笑話』といった作品も上映される予定です。さらには『撒嬌女人最幸福』『我的早更女友』という人気女優ジョウ・シュン(周迅)の主演作も立て続けに公開されます。こうしたラインナップに対して、昨年を上回る80億元が期待できるといった景気のいい観測がメディアをにぎわしています。
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バス停の広告にも正月映画が次々登場してくるようになった |
ショッピングプラザのスーパーで白菜を買っているお客を何人も見かけた。レジで私の前に並んでいた老夫婦は白菜と塩を大量に買っていた。北京でも郊外では、この季節に自宅で漬物を漬ける家庭がまだ多いそうだ |
より現代的なエディ・ポンの「黄飛鴻」
そして、正月興行の前哨戦ともいえるこの時期に、かつてさまざまな映画で取り上げらた伝説の武術家・黄飛鴻を、台湾地区の人気俳優エディ・ポンが演じる作品が公開になりました。黄飛鴻といえば、特にジェット・リー(李連杰)の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズでよく知られますが、ボクサーや総合格闘家を演じたことのあるエディが、カンフー・ヒーローをいかに演じるか興味津々で映画館に向かいました。
ストーリーは若き日の黄飛鴻を描くものです。1860年代の広州の波止場、二つの組織が荷役などの仕事を仕切っていました。阿飛(エディ・ポン)は自らの所属する黒虎幫と対立する北海幫のボスを単独で倒し、ボスの雷公(サモ・ハン・キンポー)から4人目の義理の息子と認められ、組織の中心人物の1人になります。実は目的があって組織に潜り込んでいた彼は、これを機に行動を開始するのですが……。
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金逸北京新都国際電影城は、北京市でもオリンピック公園のさらに北に位置する西三旗にある。ここはもともと建材関係の会社が集まる場所だが、昨年末地下鉄8号線が延伸して市中心部への通勤が便利になったこともあり発展が期待されている。 |
同シネコンが入居する新都ショッピングプラザには、地域の急速な住宅開発を受けて子ども関連のサービス施設が多数入居しており、子どもを連れた家族の姿が目立つ |
黄飛鴻がこれまで同様正義の人物である点は変わりませんが、エディ版ではより真っ直ぐな性格で、仲間を大切にする、若者らしさが強調されていました。ジェット・リーはスピーディーなアクションに独特のユーモアも感じさせるヒーローでしたが、大柄なエディ・ポンは、アクションではよりパワフルで圧倒的強さを強調する一方、内面的には正義に一途で時に苦悩する若者になっています。展開としては、組織を内部崩壊させるという発想がユニークで、サスペンス的要素もあって独特の味わいになっています。少し盛り過ぎで消化しきれていない部分もあるように感じますが、エディの強さ、かっこよさは際立っており、新たな英雄像を作り上げることに成功しているように思います。
【データ】 黄飛鴻之英雄有夢(Rise of the Legend) 監督:ジョウ・シエンヤン(周顕揚) 出演:エディ・ポン(彭于晏)、サモ・ハン・キンポー(洪金寶)、ワン・ルオダン(王珞丹)、ジン・ボーラン(井柏然)、アンジェラベイビー(楊穎) 時間・ジャンル: 131分/伝記・ドラマ・アクション 公開日:2014年11月21日
金逸北京新都国際電影城 所在地:北京市海淀区西三旗建材仲路新都ショッピングプラザ1階 電話:010-82936951-615 - アクセス:地下鉄8号線育新駅下車、D口前のバス停から通運119線などのバスで2つめの建材城西路東口下車 |
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2014年11月26日