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ツイ・ハーク流「様板戯」『智取威虎山』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

真冬の牡丹江で“トラ”退治!?

クリスマスを迎えて中国の映画館は連日1億元を上回る盛況ぶりを見せています。その中でも興行収入トップを快走しているのがツイ・ハーク監督の戦争アクション『智取威虎山』です。もともとは、曲波の『林海雪原』という小説で、文化大革命時期には舞台化されたものがさかんに演じられ、八つの「様板戯」(革命模範劇)の一つとなりました。1970年には映画化もされているそうです(この作品を見るまで知りませんでしたが)。

1947年の冬、黒竜江省の小さな村に入った第203小隊の30人ほどは、そこが土匪に蹂躙され生き残った人もわずかであることを知ります。部隊を率いる将校の少剣波(ケニー・リン)は少人数で土匪を撃滅する方法を考えますが、そこにやって来た謎の男・楊子栄(チャン・ハンユー)が土匪の根拠地・威虎山に潜入し外からの攻撃を手引きすると申し出ます。部隊のメンバーを説得した楊は危険に遭いながらも潜入に成功しますが、ボスの座山鵰(レオン・カーファイ)の女・青蓮(ユー・ナン)が色仕掛けで迫ってきます。幾度か正体がバレそうになるピンチを切り抜けた楊は、ボスの還暦を祝う「百鶏宴」が開かれることを知って攻撃のチャンスと考え、部隊に知らせようとしますが……。

中国に戦争映画は数多くありますが、相手が日本軍や国民党軍ではなく土匪である点、極寒の山岳地帯での智謀を駆使した戦いというところが、この作品独特の見どころとなっています。このツイ・ハーク版では、3Dを生かしとにかく迫力ある戦争アクションが続きます。戦車まで有する大勢の土匪を相手に、武器や弾薬も少ない小さな部隊がさまざまな工夫をこらして敵を追い詰めて行く手法もユニークです。これが「智」ということでしょう。アクションだけでなく、潜入した楊子栄がその弁舌で難局を切り抜け、仲間割れをさせる展開も痛快です。

今なぜ「様板戯」なのか?

少人数で村人を守り土匪を撃退する映画というと、私はツイ・ハーク作品としては(時代は違いますが)『セブン・ソード』(2005)を思い出します。同作に比べると今回は少しストーリーが単純で、意外性やハラハラ感が少ない印象です。でも、そのぶん工夫ある戦争シーンが満載です。そしてストーリーが一段落し、観客が「ああ、見応えあるアクションだったなあ」と思ったところで、さらにもうひと山用意しているところが、さすがツイ・ハーク! やはり映画館を出る時にはアクションでお腹いっぱい(笑)でした。

12月28日から地下鉄やバスの料金が値上げされた。これまで一律2元だった北京の地下鉄は初乗り3元、その後は乗車距離に応じて段階的に上がっていくシステムとなった。自動券売機の画面も変更された

ホームの掲示板の中には路線図のリニューアルが間に合わなかったらしいものも見られた

この展開に、上映終了後の館内では何人か拍手をしている人もいました。同じ日に別の映画館で見た同僚によると、そちらでもやはり拍手が起こっていたそうです。物語の背景は国共内戦時期の黒竜江省ですが、冒頭は2015年のニューヨーク・チャイナタウンから始まります。ハン・グン(韓庚)たちがカラオケ店でパーティーをしているシーンを見た隣の席の若者が私に、「すみません、ここは何番ホールですか?」と質問してきました。間違って別の映画が上映されているホールに入場したと思ったようです。実は、現代に生きる若者がおじいさんの戦い、冒険を振り返る設定になっているのでした。こうした、人民解放軍の業績が現在海外で暮らす華僑・華人にもつながっていることを示そうとした構成が若者の愛国心を刺激し、拍手につながったのではないでしょうか。商業映画的娯楽性を存分に発揮しながら過去の有名作品や人民解放軍のイメージも落とさないという命題を、さすがツイ・ハークは見事に両立させていると感じました。

12月28日はまた地下鉄4線が開通、延伸した。開通初日の14号線東段では、各駅ホームに運行をチェックし乗客を案内するスタッフが配置されていた 地下鉄14号線将台駅開業で、シネコンのあるショッピングモールINDIGOは改札口からすぐ直結という立地の良さとなった

この日営業を開始したばかりの14号線将台駅では地下鉄路線図に見入る乗客の姿も見られた

ところでこのほど、ユー・ジェン(于正)プロデューサーの手になるテレビドラマ『宮~』シリーズの作品について台湾地区の作家チョン・ヤオ(瓊瑤)が自らの著作権を侵害していると訴えた裁判で、チョン・ヤオの主張を認める判決が出ました。横行する「パクリ」問題に一つの方向が出たと思われます。「いい脚本がないからパクリが横行する」という専門家の指摘ですが、要はお手軽な金儲け主義が問題なのだと思います。『智取~』のように「様板戯」のリメークでさえ、これだけ若者受けする作品が作れるわけですから。

 【データ】

智取威虎山(The Taking Of Tiger Mountain)

監督:ツイ・ハーク(徐克)

出演:ケニー・リン(林更新)、チャン・ハンユー(張涵予)、レオン・カーファイ(梁家輝)、トン・リーヤー(佟麗婭)、ユー・ナン(余男)

時間・ジャンル: 141分/戦争・アドベンチャー

公開日:2014年12月23日

ショッピングモールINDIGOは2012年に開業したばかりの新しい商業施設でゆったりとしたつくりが心地よい

映画館横には見晴らしのいいコーヒーショップがあって時間がつぶせるほか、映画や韓流関係図書が豊富な書店もある

北京星聚匯星星国際影城頤堤港店はこINDIGOの4階部分に入っている。おしゃれでゆったりしたロビーには上映を待つ家族連れが多く見られた

 

北京星聚匯星星国際影城頤堤港店

所在地:北京市朝陽区酒仙橋路18号頤堤港4階

電話:010-84260800

アクセス:地下鉄14号線将台駅下車、C口直結

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年12月29日

 

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