中国映画の2014年を振り返る
文・写真=井上俊彦
興行収入の拡大
好調さが続く中国映画です。2014年の興行収入総額は296億元を記録し、前年比で36%増とここ数年では最も高い伸びを示しました。その背景には映画が地方に浸透していることがあります。各省の副省都以下の地方都市が映画館開業の主戦場になっているようで、全国のスクーリン総数は2万2000を数えています。北京でも地下鉄沿線に歩調を合わせるように郊外に次々とシネコンがオープンしています。
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2014年、北京豊台区にオープンした幸福藍海国際影城公益橋店の入口 |
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ケータイで席を予約し映画館の専用マシンから発券。これが普通の風景になってきた |
最近はロビーに各社の専用発券マシンが並ぶ。さらに進んだ映画館ではどの社の予約も出力できるマシンが登場している |
ネット予約の普及
こうした流れの中で、映画ファンのチケット購入事情にも変化が見られます。北京では料金が通常の作品で70~90元となり、大作や3D作品では120~140元ということも珍しくなくなりました(1元は約20円)。庶民の娯楽として、いくらなんでも高額すぎる気がします。こうした状況の中、映画ファンはこれまで会員割引やネットの共同購入を利用して安い値段で映画を見る工夫をしてきましたが、昨年はスマホからネット予約で割引価格で座席指定をし、映画館を訪れると窓口ではなく専用のマシンからチケットを取り出すという人が急増しました。窓口では座席を決めかねたり、支払いに手間取ったり、あれこれ時間を要する客が多く、列の長さに比べて長く時間がかかることが多いのです。ネット予約の場合はマシンに番号を打ち込んだり二次元バーコードを読み取るだけなので時間はかかりません。こうしたことも普及に拍車をかけているようです。
記録更新のヒット
興行収入を押し上げた原因にはヒット作もあります。『トランスフォーマー/ロストエイジ』が20億元に迫る歴代1位の興行成績を上げました。海外作品ではほかに『X-MEN:フューチャー&パスト』『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』などがヒットしました。やはり特撮ものが強かったようです。
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2014年国産映画として最大のヒットになったニン・ハオ(寧浩)監督のロード・ムービー『心花路放』 | やはり強かった西遊記もの。『西遊記之大鬧天宮』は大人から子どもまでが迫力ある物語を堪能した |
国産映画では、ニン・ハオ監督の『心花路放』が11億元を上回る大ヒットとなり、正月映画の『西遊記之大鬧天宮』と合わせて1年に2作が10億元を突破しました。それに続く国産第3位はテレビ・バラエティーから映画化された『爸爸去哪児』で約7億元でした。また、人気俳優のダン・チャオが監督した『分手大師』や小説家の韓寒の『後会無期』という、新人監督作品が6億元代の大ヒットとなったのも2014年の大きな事件といえるでしょう。「80後」(1980年代生まれ)や大学生、高校生をターゲットにした『同卓的你』『匆匆那年』という青春回顧ものも連続ヒットしました。さらに、『京城81号』も4億元を突破しましたが、これは中国国産ホラーものとしてこれまでの記録を大幅に塗り替える大ヒットです。
太平輪(上) |
一方で、興行的に期待を裏切った作品もありました。アン・ホイ監督の『黄金時代』は前宣伝にも力を入れましたが、結果は同時期公開の『心花路放』に大差をつけられました。専門家の評判は上々でしたが、一般のファンには「長すぎるし、ドラマに山場がない」と敬遠されました。そして、チャン・イーモウ監督が久々にコン・リーを起用した『帰来』も同様に評判は良かったのですが、同監督としては平凡な興行成績でした。これに、ベルリン国際映画祭で金熊賞を獲得した『白日焔火』を加えて考えると、今の中国では文芸作品ファンは増えてはいるものの、まだ発展途上のようです。また、年末に公開されたジョン・ウー監督の『太平輪(上)』は両岸三地に日韓のスターをそろえた大作でしたが、2億元程度の興行収入と惨敗と言っていい結果になりました。「上編」にからめて「太平輪還没上」(太平輪にまだ乗っていない)とのジョークも飛び交ったように、「東方タイタニック」という前宣伝の割に、この上編では主要登場人物がまだ誰も船に乗らないということが観客の不満を呼んだようです。
三浦春馬と劉詩詩が共演した行定勲監督の『深夜前的五分鐘』(真夜中の5分前) |
世界進出と国際合作
ハリウッドの世界的大ヒット作品に「中国エレメント」がどんどん加えられていることも話題になりました。中国人俳優の起用だけでなく、「植入広告」(プロダクト・プレースメント)として中国企業の広告が加えられるなどの傾向が強まりました。また、逆に中国映画に外国人監督を起用する例も目につきました。今では香港地区、台湾地区の監督起用は当たり前の感じですが、2014年は韓国人監督やフランス人監督の作品に加え、日本の行定勲監督の『深夜前的五分鐘』(真夜中の5分前)も公開されました。外国との合作で他の国産映画と違った表現を模索したい、あるいは外国映画上映枠の問題を「外国人監督を起用した国産映画」という形でクリアしたいという思惑があるようです。この傾向は2015年も続くのか、興味深いものがあります。
影の部分も浮き上がる
2014年は、業界をむしばむスキャンダルが映画ファンの前に示された年でもありました。人気俳優が大麻吸引や買春などで逮捕される事件が相次いだのです。好調な業界に、新たな問題が投げかけられているようです。
2015年の展望
さて、それでは今入手できる情報をもとに、2015年を簡単に予想してみましょう。まず、ハリウッド映画は相変わらず特撮もの、アドベンチャーものが多く公開されるようです。今年後半は海外映画が少し息切れかなという傾向でしたので、新たな趣向が見られなければ、今年の『トランスフォーマー』シリーズのような大ヒットは難しいかもしれません。
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シュー・ジンレイ監督の『有一個地方只有我們知道』は2月公開予定 |
次に、あまり期待していない予想をひとつ……。二番煎じが横行する予感があります。昨年、青春回顧ものが連続ヒットしたことで、類似作品が多く登場してくる気がします。すでに、『時間都去哪了』などが公開予定とされています。また、『分手大師』のヒットを受けて「別れさせ屋」などをテーマにしたラブコメ作品がいくつも登場してくることも予想されます。さらに、ホラーが乱造されることはほぼ確実です。ロー・バジェットで制作でき、昨年の『京城81号』のように興行収入4億元の可能性があるとなれば、一攫千金を夢見る投資家を巻き込むのは簡単でしょう。あと、個人的にはそろそろ国産ドキュメンタリーに映画ファンの支持を集める作品が登場してほしいと思っています。すでに1月末には食に関するドキュメンタリー映画が公開予定となっており、注目したいと思います。
というわけで、どうやら、2015年もまたいろいろ楽しませてもらえそうです。このコラムでもできるだけたくさんの映画と周辺事情、観客の反応などを紹介させていただきたいと思いますので、今年もお付き合いいただければ幸いです。
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プロフィール |
1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。 1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。 現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。 |
人民中国インターネット版 2015年1月9日