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イケメン新時代『有一個地方只有我們知道』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

バレンタインデー1日で9000万元以上!

今年のバレンタインデー興行最大の目玉が、シュー・ジンレイ(徐静蕾)監督の『有一個地方只有我們知道』です。他にはジェン・カイ(鄭愷)、ジャン・イーイェン(江一燕)のラブコメ『有種你愛我』やリバイバル上映の『甜蜜蜜』(ラブソング/1996)も上映されていますが、2月14日当日は圧勝の勢いで、この日だけで9000万元以上の興行収入を上げました。私は14日の昼の回を、学生の多い中関村にある映画館で見ましたが、カップルばかりでなく、女性だけのグループもけっこう見られました。アイドル目当ての若い女性も多かったようです。

物語は主人公の金天(ワン・リークン)がチェコのプラハを訪れるところから始まります。婚約者(スタンリー・ホアン)に裏切られた彼女は、休暇を取って語学短期講座を受講しながら心の傷を癒やそうとしていたのです。そして、パーティーで知り合った彭沢陽(クリス)と引かれ合います。そんな彼女のもとにかつてプラハで暮らしたおばあさん(シュー・ジンレイ)の古い手紙が転送されてきます。金天は送り主を探し始めますが……。

美しい東欧の古都を舞台に、二つの時代の恋愛が交錯する物語です。おばあさん(本当は父のおば)の残した手紙の送り主を探す中で、ヒロインは厳しい時代に国や民族を越えて愛し合い、運命のいたずらで結ばれなかった古い世代の愛を知っていきますが、それは心に傷を持つ若者の新たな自分探しの道程でもありました。それに寄り添ってくれる若者は、実は家族に問題を抱え、自らの将来にも自信の持てない男という設定です。ストーリー展開は予想通りですが、こうした内向的な人物設定が新鮮に感じます。

美男美女の恋がヨーロッパの都市を舞台に展開される、とてもオシャレな映画です。この点は監督の『親密敵人』(2011)にも似ています(同作ではロンドンでした)。違うのは、シュー・ジンレイ監督作品としては初めてだと思いますが、自分が主人公ではない点です。ヒロインの金天を演じるワン・リークンは昨年の『前任攻略』(紹介コラム/http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2014-01/27/content_593883.htm)でハン・グン(韓庚)に思いを寄せるキャリアウーマンを演じましたが、主演はこれが初だと思います。北京舞踏学院出身というだけあってスタイルが良く、シュー・ジンレイと同じ家系という設定を納得させてくれます。

 

バレンタインデーに向け生花店やスーパーには花束が並び、街角でバラの花を売る露天商も見られた。甘いもの屋も負けてはない

 

 

この日から花火の販売が解禁に。このメーカーは、昨年11月のAPECで使われた煙が少なく環境にやさしい花火である点をセールスポイントにしている

 

女性が注目する「小鮮肉」たち

一方、その相手の彭沢陽を演じるクリスは、元EXOというグループのメンバーで、『時間煮雨』というヒット曲も持つ歌手です。すらりとした長身(187㎝)に少しナイーブな笑顔が印象的な「90後」のイケメンで、映画の主演はこれが初ですが、堂々とした演技で若い女性たちの「男神」(男性のあこがれが「女神」なら、女性のあこがれは「男神」だそうです)ぶりをいかんなく発揮しています。最近、中国のSNSを見ていると、以前からある「男神」のほかに「小鮮肉」という言葉も見られます。これは、クリスや前々回ご紹介したルー・ハン(鹿晗)、『小時代』シリーズの陳学冬など、より若い(小)世代の、新しく(鮮)、健康的(肉)なスターのことです(もちろん一般男性にも使います)。こうした女性目線の新語が次々に出てくるところが、最近の面白いところかと思います。

言葉と言えば、作品ではチェコ語や英語のセリフが多いのも特色になっています。私の後方のカップルは印象的な英語のセリフが出るたびにそれを繰り返してふざけていました(じゃれたいのでしょう)。私の隣の女性客は、ついには振り返ってにらんだりしていましたが、その気持ちは分かります(笑)。そうした、デートとしてやって来た観客やアイドルのファンに向け、同監督が最後にNG集も流すなどサービスに気を配っていることも印象的でした。

 

春節興行で注目が集まる『狼図騰』の広告があちこちで見られる。次回は春節連休明けにこの作品をレポートする予定、お楽しみに

 

【データ】

有一個地方只有我們知道(Somewhere Only We Know)

監督:シュー・ジンレイ(徐静蕾)

出演:ワン・リークン(王麗坤)、クリス(ウー・イーファン/呉亦凡)、シュー・ジンレイ(徐静蕾)、ゴードン・アレクサンダー

時間・ジャンル: 109分/ドラマ・愛情

公開日:2015年2月10日 

金逸国際影城は、中関村にあるオシャレなシネコン。この日は若者で大いににぎわっていた

 

金逸国際影城中関村店

所在地:海淀区中関村大街19号新中間村購物中心B1階

電話:010-82486800

アクセス:地下鉄4・10号線海淀黄荘駅下車直結

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年2月15日

 

 

 

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