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習俗の違いが生む笑い『大喜臨門』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

北京っ子が高雄の娘と結婚しようと……

 

春節興行の好調さは元宵節を過ぎても続き、国際婦人デーで割引を実施した映画館もあって週末も連日1億元突破という数字が出ました。そんな中で、台湾地区の春節映画『大喜臨門』が、大陸部では春節興行には入れなかったものの、元宵節明けの6日から公開されました。台湾映画界の興行収入王・ジューグーリャン(猪哥亮)が主演するこてこて台湾喜劇ですが、進む両岸関係の深まりをダイレクトに反映した内容になっているだけでなく、大陸部の大手映画会社・華誼兄弟が投資して制作されたものです。

そして、ストーリーも大陸部との関係が背景になっています。台湾南部の高雄市の郊外で里長を務める李金爽(ジューグーリャン)の娘淑芳(ルビー・リン)が結婚したいと高飛(リー・ドンシュエ)を連れてきますが、彼は北京に住む満州族一家の御曹司でした。相手が好青年なことを理解しつつ、一人娘可愛さから何かと難癖をつける金爽は、完全台湾南部式の婚約式と披露パーティーを主張。これが面白くないのが高飛の母を押しのけて高家の主婦の座に収まっている美照。それぞれの家族の抱える問題が、習俗の違いと合わせて婚約式と結婚披露パーティーに噴出、ついにはとんでもないことに……。

 

 

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北京の習俗はそんなに珍しいのか!?

 

ストーリーは春節映画らしく、ドタバタの末にハッピーエンドという予想通りのものでしたが、興味深い部分も数々ありました。私が見た回は、32人収容の小さなホールとはいえお年寄りカップルのほか若い女性が何人もいてほぼ満員と、台湾映画の上映としては珍しい光景でした。若手人気俳優のリー・トンシュエが出演しているためだったかもしれません。そのファンたちは、台湾南部でよく話される閩南語をからめたダジャレのギャグには、ほぼ完全に無反応でしたが、台湾南部と北京の婚約や結婚に関する習俗の違いが紹介され出すと次第に笑うようになっていきました。

食卓で魚をひっくり返す高飛に、金爽が縁起が悪いと怒る場面があったかと思うと、花嫁が勧めたお茶のカップに祝儀袋を入れて返す習俗に、「お茶まで金を取るのか」と美照が不満を見せるなどのシーンが続くのです。高雄でのお祝いの席で北京人が「トンポーローが美味しい」と言うと、高雄人が「これは封肉」だと言い返す一方、北京で行われた結婚式では新婚夫婦のベッドに撒かれたナツメを金爽が食べてしまうシーンもありました。同音の「棗」と「早」にかけた「早く子どもが生まれるように」という意味だということが彼には分からないのですが、このシーンには大きな笑い声が起こりました。

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紫光影城では国際婦人デーに女性半額キャンペーンを実施していた。ホールに女性が多かったのはそのためかもしれない

注目したいのは、男性方を満州族という設定にして、より北京色の強い習俗を見せている点です。大ざっぱに中国大陸部と台湾地区の習俗の違いとするのではなく、北京と台湾南部というピンポイントでの相違を見せています。このためか、最後の結婚式でのさまざまな行き違いになると、北京の観客は大いに湧いていました。自分たちが当たり前と思っていることが、台湾南部の人々にはこんなに珍しいことなのかと、どよめきさえ起こりました。北京人が外の世界を見る作品は数多くありましたが、この作品で、外国人ではなく言葉も通じる台湾南部の人々に北京がどう見られているかを知ってとても新鮮に感じたようです。

さて、見られていると言えば、この原稿を書いている途中で、ワン・シュエビン(王学兵)が逮捕されたというニュースが入ってきました。中国はもちろん、日本でもチャン・ヤン(張楊)監督の『スパイシー・ラブ・スープ』(1998)などで知られる人気俳優で、最近も『薄氷の殺人』が公開されたばかりでした。逮捕現場で覚せい剤が発見されたそうです。昨年あれだけ大麻や覚せい剤が騒がれた芸能界なのに、どうしてまたとがく然とします。絶好調の映画界ですが、好調であるほど多くの人に注目されているという自覚が必要なはずですが……。

 

映画館近くのショッピングモールでも国際婦人デーのイベントがさまざま行われにぎわっていた

3月5日の元宵節(小正月)には、『人民中国』でも伝統の習俗である猜灯謎(なぞなぞ大会)が行われた。問題はどれも外国人にはいささかハードルが高い

 

【データ】

大喜臨門(The Wonderful Wedding)

監督:ホアン・チャオリャン(黄朝亮)

出演:リー・ドンシュエ(李東学)、ルビー・リン(林心如)、ジューグーリャン(猪哥亮 シエ・シンダー/謝新達)、コウ・シーシュン(寇世勛)

時間・ジャンル: 120分/ドラマ・愛情

公開日:2015年3月6日

 

紫光影城は、ショッピングモールの営業開始前には建物の南側にあるこの入り口から直接エレベーターで映画館に向かうシステム 同シネコンの入るショッピングモールでは3月8日の国際婦人デーを当て込んだセールを実施中で、たいへんな混雑ぶりだった

 

北京紫光影城

所在地:朝楊区朝外大街10号藍島ビル西区5階

電話:010-65992922

アクセス:地下鉄6号線東大橋下車A口を出て交差点斜向かい2番目のビル

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年3月11日

 

 

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