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李玉+范冰冰『万物生長』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

『速度与激情』が記録的大ヒット

4月12日公開の『速度与激情』(ワイルド・スピード SKY MISSION)が記録的な大ヒットとなっており、この週末までに15億元を突破し、これまでの最高記録の20億元をうかがう勢いです。このシリーズは中国では非常に人気がありましたが、今回はすさまじい爆発力を見せています。公開直後は、興行収入全体の8割、9割がこの作品のものという状況で、他の映画がほとんどかかっていない状態でした。

そんな中、国産映画で健闘しているのが『万物生長』で、公開3日間で7000万元を突破しました。私が見た午後の回も満員でした。しかもカップルばかりでなく、若い男性のグループも多くいました。40分前にも上映があったことを考えると、かなり人気を集めているようです。

名門医学部の自称“8年生”秋水(ハン・グン)は学生寮の仲間とも楽しく過ごしており、白露(チー・シー)という彼女もいます。しかし、ふとしたことから柳青(ファン・ビンビン)と知り合い、失恋をなぐさめたことをきっかけに食事をしたり仕事を手伝ったりするようになります。彼女の仕事のパートナーに嫉妬するなど、次第に彼女の魅力に引かれていきますが、やがて白露の知るところとなり……。

 

 

現在、北京国際映画祭が開催中で、主要道路にはのぼりがかかっている

 

この日は、北京国際映画祭の台湾映画『暑假作業(夏休みの宿題)』(チャン・ツォーチ監督)を鑑賞。映画祭のチケットは専用の発券機で出力するようになっていた。チケットは今年から映画祭専用のものが使われるようになったためのようだ

 

 

1990年代の青春をリー・ユー流に

『ブッダ・マウンテン』(2010)が東京国際映画祭で高く評価されたリー・ユー監督とファン・ビンビンのコンビ作品です。今回は1990年代の北京を舞台にした、大学生と謎の女性をめぐる物語です。最近は大学の学生寮を舞台にした青春映画が多く作られていますが、さすがリー・ユーだけあって、それらとは一味違った作品になっています。発展が急速で、当時とは大きく変わってしまった現在の北京では、画面に1990年代の時代感を出すのは大変だったと思いますが、黄色いバンのタクシーやナンバーの「京A」など、細かなところで工夫が見られました。

ただし、時代考証に力を入れて当時を再現することは、この作品では最優先課題ではないようでした。むしろ監督は、当時の時代背景の中で、青春後期と言える男女がどう自分の気持ちと向き合っていたかを、現代の観客の感覚で見られるように工夫しているのではと感じました。

というのも、医学部で学びながらインチキな小説を書いてそこそこかせぎのある学生と、医療機器販売で成功し自家用車を乗り回す女性という組み合わせは、当時はまったく普通のカップルではありませんが、その行動様式は豊かになった現在の中国では普通の若者の感覚に近いからです。ホテルのラウンジでコーヒーを飲み、自宅に食事に招いてワインを飲むといった具合です。

作品内で表現されているのは、ナイーブな人間が感じやすい、急速に発展する社会の中での疎外感や喪失感で、これは現代の都会に暮らす大学生や若い社会人にも共感できるテーマだと思います。こうした若者のいらだちや混乱を表現する監督独特の少々暴力的でグロなシーン、妄想や性的感情を表現するアニメ手法などは今回も随所に見られます。

映像もオシャレですが、音楽も日本の小林武史が担当しており、非常にセンスよく処理されています。まだ、登場人物の感情の起伏を大げさな音楽で観客に伝えようとする古い文法の作品を多く見かけますが、そういったものとは一線を画します。こうした点もこのコンビの作品が若者に支持される理由なのかもしれません。

なお、今回の作品ではチー・シーの演技にも触れておきたいと思います。特に二人が食事をしているところに乗り込む場面は迫力満点でした。私もロウ・イエ(婁燁)監督の『二重生活』(2012)から注目してきましたが、最近はドラマや映画にひっぱりだこです。

 

 

この日、園子温監督の『ラブ&ピース』が北京国際映画祭史上初めてコンペティション部門に参加する日本映画として上映された。会場の東方劇院には監督や主演俳優らが駆けつけ、上映後には観客から大きな拍手を受けていた(私の席の関係で後ろ姿しか撮影できませんでした。ごめんなさい)

 

【データ】

万物生長(Ever Since We Love)

監督:リー・ユー(李玉)

出演:ファン・ビンビン(范冰冰)、ハン・グン(韓庚)、チー・シー(斉渓)、ウー・モーチョウ(呉莫愁)

時間・ジャンル: 105分/ドラマ・愛情

公開日:2015年4月17日 

シネコンの入る未来匯の建物。高級店というより、若者に人気のおしゃれなショップが集まるショッピングモール。シネコンと同じフロアには行列のできる南京料理店も入っている 耀莱成龍国際影城慈雲寺店のロビーには映画祭のスケジュールを告知する掲示板も

 

北京耀莱成龍国際影城慈雲寺店

所在地:北京市朝陽区慈雲寺北里209号未来匯2階

電話:010-65980898

アクセス:地下鉄1号線四恵駅下車、648路のバスで2つ目慈雲寺下車すぐ

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年4月22日

 

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