プーアル茶の里を訪ねて
文=島影均
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雲南省南部の標高2000㍍以上の山岳地帯に広がる大渡崗茶山(写真・楊振生) |
雲南省の省都・昆明から車で約40分のところにその村はありました。少数民族・ぺー(白)族の集落・廠口郷です。旧暦の正月2日(2月20日)の夕方、農家の中庭でその一家が歓迎してくれました。
プーアル(普洱)茶の生産、販売で成功した一家で、その家の長姉・趙蓮英さん(60)は世界的に有名な観光地・麗江でホテルを経営しています。当日、われわれを接待してくれたホスト役は彼女でした。旧正月(春節)休暇で一族が実家に全員集合しているところに飛び込んだのです。彼女は奇数の3、5番目の妹2人、偶数2、4、6番目の弟3人の6人兄弟姉妹を仕切っているのです。目鼻立ちがはっきりしており、失礼な連想ですが、かつて四川省・三星遺跡で見た古代人のりりしい仮面を思い出しました。貫禄十分な彼女は大柄な身体をこまめに動かして、まず自慢のプーアル茶をごちそうしてくれました。すのこの木製の薄い箱の上に、ぐい呑み大の茶碗を並べ、透明の急須でお茶をあふれるほど注ぎます。解説役の6番目の弟・趙本欧さん(45)によると、おいしいお茶を入れるコツは最初のお茶は捨てて、茶葉を洗うのだそうです。小さな茶碗ですから一口で飲んでしまいます。するとお姉さんが直ぐついでくれます。
私をそこへ案内してくれた白族の楊傑さん(66)=中国茶馬古道研究センター秘書長=の話しを聞きながら、お茶を楽しみました。お茶の葉は小一時間経ちましたが一度も替えません。しかし、お茶の色が次第に丹黄色から琥珀色に変り、香も強くなって来ました。
実は前日、昆明郊外に建設された「雲南省民族村」で白族村を訪ね三道茶という白族の伝統茶芸を30元(約600円)で体験して来ましたが、まるで味わいが違いました。因みに民族村は一種のテーマパークで雲南省に居住する25の少数民族(中国で国が認定している少数民族は55)の集落を模して観光地とし、各村はその民族の住民が民族の伝統文化を披露していました。
日がかげり始めた頃、むき出しのテーブルの上に料理が運ばれてきました。羊肉の蒸し焼き、牛肉の細切れと野菜の炒め物、鶏肉とレンコンの煮物、豚肉料理もありました。趙さんが「この時期に食べる白菜はたんぱく質が多くておいしい」と言っていましたが、北京に出回っている白菜とは食感がまるで違い、自然な甘みがありました。野菜は全部無農薬、有機野菜と自慢する意味がよく分かりました。「野菜も肉も全部自前です」というので、私が「これも?」と聞いたのはイナゴの甘露煮でした。「それは飛んできたんです」と趙さん。爆笑。
われわれの囲むテーブルの向こうにもう一卓しつらえられており、そちらも6、7人が歓談していました。前日の春節には一族郎党約30人が集まったそうです。食事が始まって少ししてから、大きなつぼに入った白酒(パイチュウ)が運ばれてきました。ご飯茶碗の大きさの器になみなみついでくれました。銘柄は分かりませんが四十数度の地酒だそうです。これまで飲んだどんな銘酒よりも感動的な味でした。
日が暮れると宴会はお開きで、母屋に入って、そこでまたお茶を振る舞われました。
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趙家の中庭で楽しい夕食。右から楊傑さん、趙本欧さん、趙蓮英さん、筆者(写真・楊振生) |
人民中国インターネット版 2015年4月