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日本映画がヒット!『哆啦A夢:伴我同行』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

アニメ映画の記録を塗り替える!

映画館に掲示されていたポスター

今回は特別に日本映画について書きます。というのも、昨年日本で公開された『STAND BY ME ドラえもん』がこのほど『哆啦A夢:伴我同行』のタイトルで中国公開され、人気を集めているからです。

記憶では、これまでの日本映画の中国における興行収入記録は2011年の『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』の3000万元ほどでしたが、これをわずか2日間で上回りました。さらに、土曜日には1日としては中国でのアニメ上映記録を塗り替える8500万元、日曜日にはさらに上回り8800万元を記録しました。ちなみに、これまでの記録は『カンフーパンダ2』が持っていました。木曜の公開から最初の週末までの4日間で約2億4000万元となっています。これを現在の為替レートで日本円換算すると48億円です。日本でも大ヒットし、興行収入90億円を超えた同作ですが、中国でもどうやら旋風を巻き起こしているようです。

私は公開初日の木曜日の夜に、市内東部の高級住宅地を控え日系ショップも数多く入るショッピングセンター大悦城にあるシネコン、金逸国際影城で見たのですが、その日はまだ満員というほどではありませんでした。実は前宣伝はそれほどでもなく、バス停のポスターもほとんどありませんでしたし、映画館での予告編も見かけませんでした。公開時に監督二人が訪中し、衛星テレビのトーク番組に出演し会場のファン代表と交流しているのを見たくらいです。

 

ロビーにドラえもんの人形を置く映画館もあり、ケータイで記念撮影する人が引きも切らない(金逸国際影城大悦城店/星美国際影城金源店)

 

共感呼んだ「自立と成長」の物語

それではなぜこれだけのヒットになっているかということですが、やはり公開後にSNSや口コミを通じて評判が伝わったことが大きいように思えます。私は専門家でもなければ、関係者に取材したわけでもありませんので、考えられる要素をご参考までに並べてみます。

まず、子ども時代からテレビでドラえもんを見て育った世代が子育てに入っていることがあります。自分が楽しんだアニメをわが子にも見せたいという両親が週末に映画館に詰めかけたようです。そうした中で、このところのアニメ上映作品は国産、海外ものに限らず冒険・アクションものが多く、兵器で敵と戦う場面のないこの作品は新鮮でした。しかも日本らしい細やかさが満ちており、金銭や名誉に換算される成功ではなく、普通の少年の自立=善良な心を持つ人間への成長が描かれ、シンプルな幸福の大切さ、人生には努力する価値があることを教えてくれる、いかにも日本映画らしい構造が共感されたようです。私の見た回でも、子どもが笑い母親が泣いている様子が見られました。

この、内容に対する共感については、SNSの微博でハッシュタグを使って反応を検索してみても分かります。子ども時代のことを思い出して泣いた、癒やされた、子どもにはこういうアニメを見せたい、などのコメントが並び、批判的な内容はほとんどないのです。少しだけあった批判も、吹き替えに関するものでした。

自動発券機の普及で最近見かけなくなっていたロビーの長い行列が復活(星美国際影城金源店、橙天嘉禾国際影城万柳店)

 

ポップコーンやドリンクもドラえもん仕様に(橙天嘉禾国際影城万柳店)

内容以外の要素にも注目したいと思います。6月1日の国際児童デーのイベントが行われる週末に向けて公開されたことも大きいと思うのです。この時期には子どもとレジャーにという家庭が多いのですが、そこに目玉作品という扱いで公開されたのです。6月10日公開の『ジュラシック・ワールド』までは大きな競争相手がなく、中日関係が改善へ向かう流れの中でいい時期に公開された感じがします(もちろん、これは私の勝手な推測にすぎません)。

さらに3D作品であることも見逃せません。一人っ子が見たいと言えば両親どころか祖父母まで一緒にやって来るお国柄ですから、入場料を高く設定できる3Dは、劇場側にもメリットが大きいのです。ある映画館ではポップコーンやドリンクのカップにもドラえもんをあしらっており、プラスアルファの獲得にぬかりはないぞという意気込みを感じました(笑)。

一方、家族連れだけでなくアニメファン、若者も多く来場していることは、字幕版と吹き替え版の上映状況を見れば分かりますです。多くの映画館でこの週末は、子供連れの多い昼間は中国語吹き替え版を多く上映し、夕方から夜にかけて若者が来る時間帯には日本語原音+中国語字幕版を主に上映していました。こだわりのアニメファンは、オリジナルのドラえもんの声を聞きたいようです。

 

中国市場を再認識するきっかけに?!

日曜日にいくつか、家族連れでにぎわうショッピングモールに行って、シネコンのロビーを見て歩いたのですが、どこも最近めっきり見かけなくなっていた長い行列がありました。この4日間で同作がかせいだ48億円を日本の興行成績ランキングに当てはめてみると、昨年の第5位に入ります。このことからも、現在の中国映画市場がどういう規模なのかがお分かりいただけると思います。このヒットで、日本の映画を含む各ソフト業界は、今後中国市場を強く意識するようになるのではないでしょうか。ちなみに、今年前半最大のヒット映画は『ワイルド・スピードSKY MISSION』で23億元を上回りました。日本円で450億円以上です。

 

6月1日の国際児童デーに向け、この週末は学校や地域のホールなどにかぎらず、各ショッピングモールでもイベントを実施していた(橙天嘉禾国際影城万柳店/星美国際影城金源店)

 

【データ】

哆啦A夢:伴我同行(STAND BY ME ドラえもん)

監督:八木龍一、山崎豊

キャスト(声の出演):リウ・チュンイエン(劉純燕 ドラえもん)、ハン・グン(韓庚 大人ののび太)、ジョウ・ドンユィ(周冬雨 大人の静香)

時間・ジャンル: 95分/アニメ・家庭

公開日:2013年5月28日 

 

北京金逸国際影城・大悦城店

所在地:北京市朝陽区朝陽北路101号大悦城8階

電話:010-85527919

アクセス:地下鉄6号線青年路駅直結

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

  

人民中国インターネット版 2015年6月1日

 

 

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